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Phew 『Phew』(1981)

アルバム情報

アーティスト: Phew
リリース日: 1981/6/25
レーベル: パス・レコード(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は29位でした。

メンバーの感想

The End End

 「KODOMO」の、フィードバックを上げたディレイによってフランジングしながら伸びていくパーカッション、ハイパーポップのそれじゃん。
 音程が一定な歌を聴くと、能とか念仏とか祈禱とか、そういう印象を受ける。そこから結びつけて音色に触れると、テクノロジーの中に何か魔術的なものを感じていたんじゃないかと思う。プロデューサーの坂本龍一はそんなわけないけれど、なんでそんな音が出るのか正確には分かっていない状態でジャッジしていた人がいたんじゃないだろうか。そんな時、シンセサイザーやコンピューターは人智の極北ではなく、逆に“理解し得ぬもの”の象徴として機能し得るはずだ。

桜子

 自分が予測するところとは違う場所に音が来て、もどかしくも面白かったです。
 それと普通に怖い!これがインストとかだと怖く無いんだけど、人の声が入ることで正気ではない事が理解出来てしまうから怖いです!

俊介

 Phewの中のお気に入りは、「our likeness」で、それと比べるとアバンギャルドな感じがして、なかなか取っ付きづらい。
 ドラムのミキシング?がなんか普通と違うきがする、すごいクリアなのにどの距離感でなってるか分からないサウンドだから、、とりあえず頑張ってそこだけきいてました。
 目をつぶって聴いてたんですがしばらくしたら寝てしまいました。んでもって起きたらどんな音楽だったか全く思い出せなかった。

湘南ギャル

 ナイス怪奇。まだアイデンティティが確立してない時期に出会っていたら、狂うくらい影響を受けていた自信がある。
 アーティスト名から勝手にバンド形式だと思っていたので、ソロプロジェクトだと知って驚いた。複数人の思想が混濁しているような、良い違和感。引き出しがデケェ。
 電子音楽を多用しながら、それと同じくらいパーカッションが聞こえてくるのがちょっとM.I.Aっぽい。いや順序は逆なんだけれど。

しろみけさん

 ノイズというより、障りを感じる音楽。武満徹がジョン・ケージと対談した時に、氏の作品を「さわりの音楽」と評していたのを思い出した。つまり、ケージの音楽には耳に刺さるような「障り」の要素と、物事の要所を成す「さわり」の要素が同居しているのだと。この素晴らしい評は、Phewにも通じると思う。パッドから出力しているかのような、単語を断ち切ったボーカルは、どこかダビーな演奏の中に潜り込み、意味から放たれた言葉が深海で偶発的に再開して、もう一度聞こえて来るようだ。最初から歌があるのではなく、歌以外の要素によって演出されてようやく歌が聞こえてくるような、歌の「さわり」を体感させてくれる作品だ。

談合坂

 電子音楽という範疇のなかでもこういう手間暇とコストをかけたスタジオワークらしさを感じられる作品には、現実に存在する空間と時間が多く費やされているのを感じ取ることの楽しさと言うのか、なんだか独特な魅力がある。
 全体的なサウンドとしては明確に時代性が定まっているけど、思わずビクッとしてしまうようなボディのある音が時々押し寄せて我々のいる現在によく似た空間を覗かせてくる。不思議な場所に佇んでいる作品。

 Phewというアーティストもこのアルバムのことも全く知りませんでした。日本の古から伝わるような呪術的な歌唱と「B-2 unit」にも共通するインダストリアルな感覚を備えた金属的な電子音が奇妙な塩梅で結び付いていて、例えば「キル・ビル」のような、知っている風景で知らない祭りが開催されているような居心地の悪さを受け取った。その居心地の悪さはずっと喉の奥に突っかかった魚の骨のように気になって仕方がないそれだ。

みせざき

 不気味さ不器用さが音楽として不思議な一致を果たしている。歌と伴奏が局地的な部分で調和しているイメージ。他の方もおっしゃる通り、そこには何かいびつというイメージを超えて呪術的で超現実的なもののイメージを感じてしまう。一定でアップテンポなドラムのビートはポストパンクも想起させる。

和田はるくに

 世の中のパンクバンドって皆親切だ。ちゃんとAメロがあって、サビで盛り上がって〜という感じで同調とか共感するのに適した形をしているので結構聞いていて盛り上がる。前聞いたINUもそうだった。Phewが以前やっていたAunt Sallyも割とそうだ。
 だけどこのアルバムはどれも曲調的にはどれも一本調子だ。歌も抑揚のあるものとは言えない。(彼女がこの後やることになるパンクバンドであるMOSTを聞くと、そもそもあまり歌がうまいって感じの人ではないということもわかるが)
 多分曲のアイデアが一つあって、それを組み合わせて作り上げるというよりかはアイデアを引っ張って曲作っちゃいました!という印象を受ける。1曲辺り3-4分程度なのもそのせいだろう。最初に親切云々言っておいて何だが、聞きづらいという印象はない。アルバム全体のコンポーズの仕方に感心を覚えたくらいだ。
 音的には全編不穏サウンドという感じ。まだ駆け出しという感じだが、この後発表されるOur Likenessの頃になってくると説得力を伴うものになってきてハマる。その波が来る前の大きな予兆という感じ。

渡田

 どの曲もNHKの「みんなのうた」で稀に流れる少し変わった一曲といった感じ。シンプルな曲調や舌足らずな歌声による穏やかなイメージから、子ども向け番組の曲を思ったのかもしれない。
 曲のリズムとややずれた、呟くような歌い方からは、戸川純と似た雰囲気も覚える。ただ純ちゃんとは違って、表現の背後に色々な切実な感情が渦巻いている不安定さはなく、ひたすらにシュール。
 メカニカルな印象を持つ電子音を主に使いながら、リズムは南国の民族舞踊のようで、その掴みどころのない感じが、夢の中で矛盾した風景を同時に見る時の感覚に似ている。こういった点も独特の雰囲気を加速させているのだと思う。

次回予告

次回は、イエロー・マジック・オーケストラ『BGM』を扱います。

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