見出し画像

Ronettes『Presenting the Fabulous Ronettes Featuring Veronica』(1964)

アルバム情報

アーティスト: Ronettes
リリース日: 1964/11
レーベル: Philles(US)
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は494位でした。

メンバーの感想

The End End

 これがウォールオブサウンドというものですか!!おもしれー!!歪んでいる上にエコーでボワボワに溶け合ってひとつの塊として鳴っているのに、なぜか楽器の美味しい部分は聴こえてくる。"聴こえている"と感じさせられる。
 ハイファイさや分離感とは程遠い音だけど、ボーカルとリズムが迫力を持って聴こえるプロダクションであることは間違いない。ハイファイな再生装置が十分に普及しきってはいない環境で"うまみ"だけを届けることに最適化された音像なのだろうと想像できる。
 何より、"録音されて、種々の処理を経て、再生されること"に意識が届いていること。その点においてこれまでこのリストで聴いてきた作品と一線を画していると思う。

コーメイ

 "恋愛ソングが、また多いな"という印象がまず浮かんだ。アルバム全体を通じて、"私はあなたを離しはしない"や"彼と上手くいくといい"といった調子の歌詞が、目立つ。しかし、これを何とか聞かせようとする歌唱力と歌詞に味付けする演奏をもって、アルバムとして成立していた。同年代の他の女性歌手もこのような歌詞でヒットを飛ばしていたのであろうか。

桜子

 音がボワボワしていて、それが暖かく感じる!音に迫力があるのに、遠くにあるように感じるのはとても不思議だー!
 時系列で音楽を聴いてきて、フィルスペクター、超挑戦者じゃんーと思ったー!普通に綺麗に録る方法が確立されて来ているのに、それを考え直して、新しい録音方法を作るなんてカッコいいです!

湘南ギャル

 ロネッツよりシュープリームス派の私にとっては、ロネッツはオリジナルアルバムがランクインしているのにシュープリームスはダイアナ・ロスと抱き合わせのベスト盤しかランクインしていないのは、なかなか気持ちが良いことではない。それでも、この迫り来る壁には低頭せざるをえない。ドルビーアトモスで聴いたら、ここから出られないと思って泣いちゃうかもしれない。イヤホンですらちょっと怖いもん。

しろみけさん

 これがフィル・スペクター、ウォール・オブ・サウンドか!!!!!巨大な波の飲み込まれてる最中というか、奥行きと同時に「これからどうなっちゃうの?」みたいな空恐ろしさ。アップテンポな曲よりも、かえってミドルテンポの方がスケールの大きなサイケデリック体験ができる。こんな変なサウンド、よくポップスに持ち込んだわね……。

談合坂

 正直かなり聴き辛い。いつにも増してヘッドホンのきつさが気になってくる。いや、ヘッドホンなんかで聴いているからなんだけど(一応の基準としてこの企画を通してはじめは同じヘッドホンを使って聞くように統一しているので)、気圧される度合いが一段と強いように感じる。ただ、これは総体としてのサウンドが個性に寄与しているということで、その点についてはかなりしっかりと理解できた。

 ローリングストーンのランキングを時系列に並べたらビートルズの作品の後にこれが出てくるのはよく出来ている。ビートルズ同様の数人のボーカルによるユニゾンやコーラスにうっとりとする。録音も全体的にリバーブがかかってるように輪郭がはっきりせず、夢の中で聴く音楽のよう。当たり前だけどこの頃の音楽には0と1の羅列を用いたデジタル加工は一切使われていないんだという事実に嫉妬する。空気の震えがそのまま伝達され、針の震えに変わりスピーカーを通して空気の震えに変わる。ロマンチックだし、この作品はその回路の中で聞きたい。

みせざき

音像がとてもボワっとしていて、幻想的な気分にさせる。圧倒的に同年代の音楽に比べてその違いは顕著だと分かった。以前聴いた「What'd I say」が本作では外界の音を取り入れて奥行きのあるサウンド構築していたりと、比較対象として凄く分かりやすかった。後の『Pet Sounds』がウォール・オブ・サウンドに影響を受けたということだが、正に本作と同じ響きをもっていることが分かった。

六月

 この企画でそれまでの大衆音楽を学んできたから、分かる、分かるぞ、ウォール・オブ・サウンドの凄さ。猛々しい雷の音をバックに高らかに歌われる一曲目の「Walking In the Rain」から飽和しているドラム?サウンドが辺りを爆撃のように包んでいる(2:00辺り)ことがわかる。この"飽和している"という音響効果を込みで音楽として楽しむということが新しかったんだなと気がつく。これがなければシューゲイザーとかもなかったのだろうかというくらいの爆音の中で、可憐な女の子の声が鳴っている。もうこれ以上ないくらいにポップでキッチュで最高。ビートルズやフィル・スペクターから、"ポップ"というものが生まれてきたんじゃないかと思うくらいに、ポップスって感じがする。特にいわゆる躁的な、狂気を孕んでいるというよりも、狂気そのものからそのキャッチーさが生まれているところが、この耳に馴染みよいように聞かせようという魂胆からはかけ離れた、脳や心をざわつかせ、揺さぶり、もやもやさせてくる、ノイズに近い騒音で奏でられる可憐なメロディーを聞いていて、これをポップと言わずしてなんとする、と言い切ってしまうくらいの感慨を感じる。

和田醉象

 すごい広い部屋の隅っこで聴いているみたいな音像だ。靄がかった音というか。100%リアルなものというよりも、現実に寄せて作られた音みたいだ。
 受け入れ難いものではなく、それがかえってこの世離れした風景の中に連れて行ってくれる役割を果たしていると思う。「You Baby」のコーラスなんかどこから聴こえているんだ、天からの投げかけじゃないか、とさえ感じる。

渡田

 1960年代の音楽という点でも、女性三人組のポップグループという点でも、自分には馴染みのないものだったけど、不思議と聴き覚えのある感じがする。
 後のポストパンクのバンドの中に、これと同じ印象を僅かながらに持ったものがあると思う。特に、エコー&ザ•バニーメンやジーザス&メリーチェインなど、聴いた人を夢見心地にする妖しいポストパンクバンドを思い出した。雰囲気もジャンルもロネッツとは異なるけれど、彼らの音楽の中で呼び起こされる「奇妙な夢心地」はロネッツを聴いている時の感覚に近いものがあった。
 それだけ今回のアルバムは、こもった録音と穏やかな曲調で「何十年も前の華やかで曖昧な夢」としての印象が強い。当時の人はこれをどう感じていたのだろう。

次回予告

次回は、John Coltrane『Love Supreme』を扱います。

#或る歴史或る耳
#音楽
#アルバムレビュー


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?