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CHAI『PINK』(2017)

アルバム情報

アーティスト: CHAI
リリース日: 2017/10/25
レーベル: OTEMOYAN record(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は81位でした。

メンバーの感想

The End End

 ポップであることに躊躇が無い人たち、眩しくて仕方がない。最近、”ポップなのにこんなにギークな音出すんだ”ではなく、”こんなにギークなのが伝わってくる音なのに、なんで真っ直ぐポップになれるんだろう”と考えることが増えてきた。『SENSUOUS』の時も書いたけど、自分の嗜好を突き詰めて尖らせること以上に、それをポップスに昇華させることの方が、多分ずっと難しい。
 ただ、ハッキリ言って歌詞は稚拙じゃないですか…?扱っているトピックの問題ではない(というかそれ自体は素晴らしい意味がある)けれど、なんか、半端に感じてしまう。
 私は、”いかに「好き」という言葉を使わずに「好き」と言うか”みたいなことが作詞の醍醐味だと思っているので、言いたいことをそのまま歌詞にされても、ある種サボっているように感じてしまった。かといって”背負って立つ”ことを覚悟したラディカルな言葉をチョイスしているわけではないし、どう楽しめば良いんだろう…
 でも、サウンドは最高です。歪んだベースって良いですね…当時「N.E.O.」聴いて本当にワクワクしたなあ。

桜子

 サウンドが本当にカッコいい!
 骨太で耳に迫ってくるベースに、独特なハーモニー奏でるボーカルコーラスが好き!
 そしてアレンジ、ミックスの引き出しが多いのが楽しい。カウンター攻撃の驚きを次々にくらいました。

俊介

 おー令和って感じだ。フワフワしてるけど志向してるサウンドにストレートな感じがして好きです。サウンドでも歌詞でも、ファニーな部分とガチな部分のバランスが個人的にすごいしっくりくる。自分の中でchaiとハバナエキゾチカはそのバランスの比率がすごく近くて、この2つを聴いてるとなんとなく合気道を思い出す。

湘南ギャル

 鏡に映る顔のパーツを見ながら涙を流してしまう時期があったんだけれど、ちょうどそんくらいの時にN.E.O.が流行った。マジで衝撃だった。今だって胸を張っては「そのままがずっと誰よりもかわいい」なんて自分に対しては言えないけど、でもそうやって歌ってくれる人たちがこの世にいるってだけでどれだけ心が救われるか。救われたか。しかも、というかなにより、こんなにイカした音楽に乗せて!最高!kawaii!天才!!本当にありがとう。今でこそ、自分を愛そう〜みたいな考えが割と世に知られるようになってきたけど、2017年なんてそういうことに関してとにかく最悪だった(少なくとも今よりは劣悪だった)し、今思うとCHAIは本当に時代を変えてくれたのかもしれない。
 アルバム全曲聴いたのは今回が初めてだったけれど、フックを作るのがめちゃくちゃうまいし、しかもフックに引っかかってるうちに気付いたら最後まで聴き終わっている。そんで、高音ボーカルとゴリゴリなベースってこんなにも相性良いんか!正直、歌詞の内容がわからなくてもハマっていたと思う。たまたま私が日本語話者だったおかげで、最高のメロを聴きながら最強の気持ちになれる。なんたる幸運。元気が出てきたのでインスタにセルフィーを載せてきます。それでは。

しろみけさん

 演奏がファンクといえばファンクなんだけど、単なるそれではなく、ポストパンクの中にあったファンキーな要素が極端に強調されているみたい。だからどちらのリスナーも聞けるし、程よく棘もあって、流し聞きをギリギリ許してはくれないような磁力を感じる。それは歌詞も含めた4人の主張とも似ていて、過激さで耳目を集めるだけではなく、あくまでニコニコ笑いながら言いたいことを曲げずに腹から声を出しているのが素敵。

談合坂

 掴みが良すぎるだろ、と思ったそのノリが最後まで貫かれていることに圧倒される。何に対してのというのは色々あるだろうけど、説得力に満ち溢れている。それはこの詞とこのサウンドが両方あってこそというのか、ここからシリアスにせよコミカルにせよバランスを変えたら失われていくもののような気がする。
 やりすぎなくらいに厚い音をなんの苦もなく乗りこなすのって結構難しいことなんじゃないかと思うけど、それに加えて聴き手を振り落とされないように掴んでくれているようにも感じられる。強固な地盤が説得力だけじゃなくて安心感ももたらしている。

 この企画で聴いたバンド作品の中でいちばん「洋楽」に近い。ビート重視、というか身体がどう動くかを重視している音楽だ。その快楽重視なスタイルは「こうあれ」という規範からの解放というメッセージに繋がった。当時CHAIがMステに出てたときは「私の理想のロックバンド」では無いのにバンドシーン代表のような形で出演していて、なかなか微妙な気持ちを抱いていた記憶があるが、聞き返してみるとすんなり和解できた。それにしてもCHAIと聞いて真っ先に思い出すのが「地下室TIMESの炎上」だったのは自分でも情けない。

みせざき

 正直言うと、好きとも言えるし好きじゃ無いとも言える曖昧な感想を持ちました。一見鼻に付くような声色にも関わらず、ファンク、ロック、バラード、EDM等様々なジャンルに汎用性を発揮しているのがアルバム全体で証明され、それを楽しむことができると思います。ただ、この声とあからさまな歌詞にはどうしても演じているというか、狙いにいっている雰囲気が伝わってしまいます。ヤバい人なんでしょうけど、例えばJane's Addictionのペリーファレルが持ってるヤバさとは決定的に違う感じがします。頭がおかしい人がとてつも無い爆発力を発揮するような、自分が期待するヤバさとはちょっと違うのかなと思いました。

和田醉象

 おもしれ〜。INUをレビューしたときにも書いた気がするが、やっぱり連呼って大切だ。彼女らの歌詞を見ればそう大したことは言っていないが、でも実にキャッチーだ。(大したことというのは、覚えにくい表現を使っていないということね。)
 音楽というのがやる側の気持ちよりも、聞いてる側をどれだけ巻き込むのかが大切だったか改めて思い知らされる。

渡田

 派手すぎない機械的なフレーズ、リズムに合うように後から乗せたような奔放な歌詞、ただのおしゃべりのような歌い方、一目見た瞬間から引き込まれるような分かりやすい魅力はないはずなのに、聴いていると確かにクオリティの高さ、妥協のなさを感じた。
 単純な演奏技術、歌唱力、華やかさといった分かりやすい部分に良い意味で力が入っていない気がする。むしろこのアルバムで大事にされているのは、聴いていて自然にリズムに体が乗るかとか、ふとした時にもう一度聴きたくなるような潜在的な印象の深さとか…。
 印象の「強さ」ではなく、印象の「深さ」を究めているバンドだと思った。
 パンクやダンスミュージックはじめ様々な音楽のビートを取り入れつつも、それらの攻撃性やラウドな部分がマイルドに癒されていて、その結果、印象深いリズムと彼女たちの飄々とした個性だけが残り、表層に出ない魅力が生まれているのを感じる。
 「シュールな魅力」ってこういうことを言うのだと思う。

次回予告

次回は、折坂悠太『平成』を扱います。

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