見出し画像

Van Morrison『Astral Weeks』(1968)

アルバム情報

アーティスト: Van Morrison
リリース日: 1968/11/29
レーベル: Warner Bros.(US)
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は60位でした。

メンバーの感想

The End End

 なぜそう感じたのかは分からないのだけど、洋楽ロックキッズの人はこれ好きだろうなあと思った。ディランの見出したスタイルを、ひょっとするとディランよりも面白く進化させたアンサンブルなのでは……?言葉とリズムのマリアージュを更に際立たせる気の利かせ方だ。
 「The Ways Lovers Do」、ホーンのミックス・バランスがデカすぎて笑っちゃったけど、笑いながら心の拳を突き上げまくってしまいました。

コーメイ

 牧歌的な音楽が、アルバム全体を通じて確認された。サイケのようなおどろおどろしさや、ハードロックのごつさもなく、ただ時間が、ゆったりと経過していく様子が、ありありと耳にした。その点が、今回のアルバムを聴いた収穫であった。

桜子

 のびのびと、サラッとした感じはとてもリラックスでき、森の中にいるような清らかさを感じる。「The Way Young Lovers Do」でシャキッとする心地になるように感じるような仕組みも抜かりない。音楽で避暑したいのなら、これで決定だ!

しろみけさん

 アンサンブルは一聴して繊細そうなんだけど、声がとにかく骨太。どうやらヴァン・モリソンはブルーアイド・ソウルのシンガーとしても活躍してたらしく、地肩の強さはそれに由来しているらしい。全編がピュアでオリジナル。「Ballerina」の慟哭のように唸るベースと光を浴びた水たまりのようなバッキングギターの対比、詩人の息遣い、超然としたストリングス。なんとなくだけど、ビートルズがいなくても生まれてそうなバンド・ミュージック。

談合坂

 "ジャジー"なアニソンからしか得られない感覚があるみたいに、拠り所のつかみにくさが味になっているように感じる。ストリングスに対してこんなギターがカラッカラなことある?という楽しさ。どこの、いつの時代の話なのかよくわからない、今はアメリカにいるらしいことはわかるけど……という感じ。少なくとも日本の夏にまったく似合っていないのが浸りきれなくて惜しいところ。

 ビートを担う楽器は後ろに、声といくつかの楽器を宙ぶらりんな状態で漂わせることで、悲しみとか憂いとか、R&Bとかソウルとか、特定のフレームに収まることのないニュアンスが立ち現れてくる。こういう音楽、聴いたことあるなぁと振り返るとフランク・オーシャン『Blonde』に近い気がして、圧倒的な声の記名性をもってリスナーをある地点へ導くような音楽。やはり、歴史は繰り返すのだろう。そして、こういった表現に対しては作為性をあまり感じず、自然とアウトプットされたように聞こえるのもフランク・オーシャンに近いのかなと。

みせざき

 使われてる楽器やバックバンドの音楽がロック、カントリーの土壌では無いより広範囲な影響を随時感じられる。
 特徴強く、味わい強く、グッド・メロディーでも装飾が豪華なので、ストラクチャーとして組み立てられている音楽として楽しめると思う。そこがディランやジョニー・キャッシュと違う点と思った。

六月

 最近は反ワクチンでやらかしてしまっている人みたいなイメージしかなかったので、もっと土臭い保守的な音をやる人なのかと勝手に思っていたけど、こんな繊細で綺麗げな音楽をやる人なんだと驚いた。特にホーンセクションが素敵に感じる。シド・バレットから毒気をぜんぶ抜いて、綺麗に整えたらこんな感じになるのかな。でも、そういうあんまり、短くまとまりそうなフォーク的な作風で7分とか9分くらい曲が続くので、流石にもういいよ、と思う瞬間も何度かはあった。

和田醉象

 先のソウルの偉人たちとは違った形の、心の唸りを発せられる系譜が誕生した、そんな印象だ。
それも病的なものではなく、熱量の塊をぶつけてくるようなものでもなく、割と素直な感情の発露を浴びているような爽やかさがある。
 ぽつりぽつりと降り出す雨のように最初はささやかなものだが、本降りになった時の迫力に目を見張るものがあった。気づいたらこっちはずぶ濡れになれている。隣に寄り添ってくれる、みたいなことではなく、気づいたら自分ごとになっているのだ。そこら辺の尺加減がこれまでにはない感じでとても面白い。
 あと彼について調べていたら実はロックバンドThemの中心人物だったことも知った。Them好きだったのに全然知らなかった……。

渡田

 映画の終わり際のシーンを見ている気分になる。
 ヴァン・モリソンの声と、ギターと柔らかい管楽器を主旋律にした音は、それぞれ別の層で流れているような不思議な印象がある。それがさながら映画の場面とBGMとの関係のよう。互いに現実的なつながりがないまま、互いの印象を高め合っているのを感じる。
 セリフのような感情のこもった歌い方と、主張のない美しいメロディもこの印象を裏付けている。

次回予告

次回は、Rolling Stones『Beggars Banquet』を扱います。

#或る歴史或る耳
#音楽
#アルバムレビュー


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?