見出し画像

大貫妙子『SUNSHOWER』(1977)

アルバム情報

アーティスト: 大貫妙子
リリース日: 1977/7/25
レーベル: PANAM/CROWN(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は58位でした。

メンバーの感想

The End End

 ひと捻り加えたコードの使い方が技巧としてではなく、純粋な効果として不穏に響いていると感じる。「くすりをたくさん」の歌詞や歌唱に見られるような、晴れ渡っているのにどこかハラハラするようなムードが、他の楽曲においては時折顔を出す不穏なコードによって貫かれている気がした。ほんの少しでもバランスを崩したら落ちてしまいそうな細い橋を、まるで近所を散歩するみたいにフラフラと鼻歌混じりに歩いているような、その様子を見ているようなチグハグ感とスレスレの危うさが胸に残る。
 ドラムの音、特にライドシンバルの音が抜群に良くて声が出てしまう。粒立ちとザラザラしたサスティンの塩梅が絶妙。

桜子

 豊かなボーカルコーラス、甘いギターの音、
カッティング、エレピ、コードの感じが私の考えるシティポップの真ん中。大人びた雰囲気が幻想的というか、生活には存在しない無い華やかさを持ってきてくれる。
 シニカルな言葉をポップな音で包んでいるので、可愛らしさを覚えてしまう。

湘南ギャル

 大貫妙子と洗濯機(にしか見えない窓)が写ったこのジャケは何度も見たことあったが、聴いたのは初めてだった。感想が浮かばなくてマジで10回くらい聴いた。わからないなりにも、徐々に徐々に曲の輪郭がはっきりしていく。スルメ盤の予感。
楽器の話をすると、キーボードの活躍が凄まじい。”都会”でのキーボードが、スティールパンみたいでスティールパンじゃない音でソロをしている。こういう絶妙な違和感は、音楽が人の心に残るために大事な要素に思う。まだ全体の感想は言えないけれど、このアルバムは爽やかで心地いい、だけじゃない。だけじゃないってとこが魅力的だ。

しろみけさん

 浮き彫りになるドラム。なんだかんだで10年くらい続き、半端者には手が出せないほどレコード市場が盛り上がり続けているシティポップ・リバイバル。「Youは何しに日本へ?」で『SUNSHOWER』を探しに来た外国人の密着が放送されたのが2014年とのことなので、その時からこのアルバムはアイコンだったのだとしみじみ思う。
 あらゆる作品から目標にされる中で、より『SUNSHOWER』のドラムの傑出度を感じるようになった。「都会」や「Silent Screamer」など、クリストファー・パーカーくらいになるとタム一つでニュアンスを表現できるんだな〜と素朴に感動する。

談合坂

 前のめり、という第一印象。力強い推進力によってではなく、重力に身を任せることでどんどん先へ進んでいく。スポットライトみたいにくっきりとしたドラムが地面を示してくれるおかげで、安心して体を放り出すことができる。
 聴き終わるころには70年代国産車のふかふかなワインレッド布地の内装が脳内に出来上がっていました。

 このジャケットを何度見ただろう。地上波の胡散臭いシティポップ特集で、ギター・マガジンのカッティング特集で、ディスクガイドで、音楽系YouTuberの動画で。先入観抜きに、なんて言えないが改めて聞いて見るとやっぱり最高である。梅雨が開けた頃の夏の解放感を軽快に跳ねたビートと小気味良いシンセサイザーとギターのカッティングで彩る。「都会」のキーボードソロを聞いて胸が高鳴らないわけが無い。粘っこさとトロピカルさを兼ね備えた音色!と思い調べると坂本龍一が弾いてるらしい。ベースは細野晴臣、コーラスは山下達郎!すご!夏の高鳴りもそうだけど、夏のちょっと不健康な面をブルージーに歌う瞬間もあり、トータルバランスを見た時の完成度が群を抜いているな、と。

みせざき

 綺麗なサウンド、ボーカルの旋律に親しみを覚えられるが、歌詞が思いをそのまま吐き出すというド直球さがあり、本当にその時その場の気持ちをそのまま発している言葉なのだな、と思いました。「くすりをたくさん」というのは最初はそういう薬のことなのかと思いましたが、くすりを沢山出す医者、医療への批判というのも、これまた想像と違いそのままだったんだな、と思いました。ボンゴのような楽器が出てくるのも独特なリズムを醸し出せていて、カッティングギターも心地よく、ギターソロもたまに意外性ある音選んでいる感じも特徴的に感じました。

和田はるくに

 山下達郎ほどはっちゃけていないというか、聴きやすいし、馴染む感触。だが、それよりに気になったのは歌詞のサイケデリクス。タイトルからして「くすりをたくさん」だし、余白を残す、想像力膨らむ内容が素敵。なにか元ネタになるものや、そういう出来事でもあったんだろうか。
 なんというか、絵本的というか映画的というか。多分通して聴いた人たちそれぞれの頭に、それぞれの映画が完成してると思う。そんな内容。
 なんか全体的に坂本慎太郎へ続く道も感じる。歌詞として他の作品にも親しんでみたくなった。

渡田

 代表曲の通り、都会らしいアルバム。
 この不思議な都会のイメージは、ジャズやAOR等…様々な洋楽のジャンルを取り入れた演奏の一方で、歌い方には洋楽らしさはまるで無い、童話や民謡を語るときのような声色であることが要因じゃないだろうか。様々な渡来したものと、自国特有のものが激しく入り混ざる様が「都会」を思い浮かべさせるのではないかと思う。松原みきや琴葉にも同じことが言えるかもしれないが、このアルバムからは特にその印象が強かった。
 「その日暮らしはやめて 家へ帰ろう一緒に」と言うフレーズがとても好き。
 都会で色々なものを見て大人になると、向こう見ずで激しい生き方への憧れと、安心できる将来の選択で板挟みに会うけど、その葛藤を少しだけ解消してくれるフレーズだと思う。

次回予告

次回は、サザンオールスターズ『熱い胸さわぎ』を扱います。

#或る歴史或る耳
#音楽
#アルバムレビュー
#大貫妙子


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?