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Dr. John『Gris-Gris』(1968)

アルバム情報

アーティスト: Dr. John
リリース日: 1968/1/22
レーベル: Atco(US)
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は356位でした。

メンバーの感想

The End End

 冒頭から様子がおかしい!1曲目のイントロがギターなのかサックスなのかもよく分からないし、フレーズひと回し毎にLRがバツッと入れ替わる曲なんて聴いたことがない!!
 やたらと低域が回るベース、ジメジメした反響、ドタバタしたドラム…宅録とはまた違った、内側に篭る内面的な音像が本当に面白い!!!ジャケットと内容がここまで結びついている作品も珍しい!!!!楽曲やフレーズ自体はポップなものが多いのも訳がわからない!!!!!ぶっ続けで3周聴いてしまいました!!!!!!大好き!!!!!!!特に「Mama Roux」がどうかしててお気に入りです!!!!!!!!

コーメイ

 大分大地の香りのするアルバムであった。のみならず、やや神秘的な印象をも受けた。後者に関して、気になったので、調べてみたところ、どうやらブードゥー教の影響を色濃く反映しているらしい。これで、"ははん"と思った。が、そのわりにはぐにゃぐにゃしている。はて、同時代では、サイケが主流だけれども、このアルバムもそうかと疑い、これまた調べてみると、果たしてそうであった。これらの融合で、何か不気味な地面から登場する魔物が、アルバム内に蠢いている感じであった。

桜子

 こんなの、あと何十年たっても特異なアルバムで、ずっと輝いていると思う!
 私はヴードゥー教にあまり造詣は深くないのだけれど、遠くの国のどこかの信仰の音楽だな〜とすぐ頭に浮かぶ!すごく当たり前のことだけど、音楽って、祈ることの手段のひとつだし、文化や宗教の資料のひとつなんだよねと思い直した!

湘南ギャル

 ここまでに出てきた作品はどれも、欧米の空気を否応なく嗅がせてきた。Dr.Johnも出身はニューオリンズだが、この作品に流れる空気は、今まで扱ってきた作品と一線を画すように感じる。どんな人たちがどのくらいの人数でどんな表情をしながら演奏しているのか、そして彼らがどこにいるのか、音像から全く想像がつかない。とても大人数かもしれないし、はたまたひとりぼっちかもしれない。広く明るい部屋にいるかもしれないし、狭い地下室かもしれない。どんな条件でも納得がいくようだし、納得がいかない。聴いているうちに自分の中のイメージが、どんどん広がって曖昧になっていく。色々なものの境界線がぼやけてくる。心地の良い酩酊。

しろみけさん

 サグ〜い。同じvoodooでも、ジミヘンはカタルシスを煽って突き抜けてくるけど、ジョン博士はシラフのまま聴衆の意識をかき混ぜてくる。こんなの麻酔無しで開頭手術されてるみたいなもんだよ。ジブジブ、フツフツ、トロトロ。間違っても低気圧の時とかに聞いてはいけない!

談合坂

 目の前でライブ演奏を聞くよりも、レコードの音源として聞くほうがこの驚きは鮮明に体験できると思う。どれだけの人間がどんな楽器を持ってどんなふうに演奏をしているのか、それらが見えないことで奥行きの深さにより引き込まれていく。このジャケットも同じような効果をもたらしていると思う。そういった漠然とした奥行きだけに留まらず、アコースティックな演奏では鳴らせないミチミチしたマイク越しの音色とか、ぶっつり切断されるミキシングとか、電子音響を味方に付けることで聴く者にはたらきかけているような印象がある。

 おお、凄い角度から来たサイケデリック作品だ!特に最初の方は例えばジョンハッセルらが行った、フィールドレコーディングを作品として成り立たせるような試みに近い面白さがある。この頃にはすでに"この楽器を使ってこの理論通りに鳴らせば音楽として成り立つ"みたいなセオリーは生まれていたと思うし、このアルバムもそれに基づいてはいるが、さらにもっとラディカルな、ただ周りにある有り合わせの素材から音を出して楽しむという人間の根源に近いものが録音されているように聞こえる。内から溢れるサイデリア!これは凄い。

みせざき

 これがDr Johnか!前から気になってたアーティストだったけど、いざ聴いてみるとちょっとあまりピンと来なかったですね!
 なんかこのもたついた感じに慣れるのに時間がかかりそうで、色々なサウンドの装飾があるけど、全体としたダレた雰囲気がちょっと難しかったです。多分この独特のグルーヴ感にまず慣れないといけなさそう!
 多分ハマっていくタイミングがあるかも知れないけど、あと10回くらい聴かないと分からなそうなので、今回はこの感想で留めときます。

六月

 久々に全く知らないアーティストが出てきて、どんなものだろうかと聴いてみたら……びっくらこきました。一曲目からこれまでこの企画で聞いたことのない音楽が流れてきて面食らった。ブルース?ロック?ゴスペル?民族音楽?何コレ?はっきり定義できない音楽が続いていって、困惑しながらもそのわからなさが快感でもある。
 これまでのビートルズのように、単にフィーチャーさせるというのはあったけれども、どちらも同等のものとして交配させることはこれまでになかったはず。それが音楽のジャンルとして成り立たせるという偉業を成し遂げたアルバムなのでしょう。そしてこれは植民地を持ったことがほとんどなく、移民により多種多様な民族や文化が混ざり合ったアメリカからしか出てこないアルバムだろうなと思う。イギリスのような上から目線の宗主国しぐさはなく、ただ何もかもが混じり合った混沌があるだけ。

和田醉象

 すげっ、聞き所が山のようにある。
 一番に!チグハグさ具合が凄いと感じました。他のグループとかシンガーって、どの楽器が主役で、それに対して他の音たちがアプローチしていくのかが明確な気がするんだけど、このアルバムにおいてはリズムがとても前に来ている。本来他のジャンルならメインになるような他の楽器が目立ってこないために音がボコボコになっているように感じる。車酔いみたいに頭の中がグワングワンする。結果、すげー揃っているのにストレンジに聞こえる。服を前後逆に着たみたいな。前後逆に服着たら面白いことをみんなわかってるのに誰もそれやらない、なら俺がやろうという発想の転換が面白い。
 あと常に、どこに連れて行かれるのかわからない先行きのなさも楽しい。深い森を歩いていて、どんな猛獣に出くわすのわからない感覚に似ている。行きは楽しいんだけどだんだん不安になってくる。芥川龍之介のトロッコみたいな。
 パッと聴いてみて感じたのはこんなところ。音の粒とか使ってる楽器とか分析したらとても楽しいだろうけど、直感で感想書いたらこんな感じでした!

渡田

 聞き慣れない笛の音、タンバリンや乾いた太鼓の音、低めの女声コーラスが非常に魔術的だけど、不思議と近寄りがたい感じがしない。
 フレーズが明るめなのと、声が乾いた通りのいい声で、それでいて優しげなのがいいのかもしれない。この時期のサイケバンドで魔術的と言ったら、黒魔術や呪詛みたいな雰囲気が多いけれど、
それに対してこれは気さくな占い師くらいの感じ。ディズニー映画の悪役のような、怪しさ全開だけれど親しみのある雰囲気があった。

次回予告

次回は、Aretha Franklin『Lady Soul』を扱います。

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