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レイ・ハラカミ『red curb』(2001)

アルバム情報

アーティスト: レイ・ハラカミ
リリース日: 2001/4/25
レーベル: Sublime(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は67位でした。

メンバーの感想

The End End

 以前“生かどうかなんてどうでもいい”と書いたけど、本当は生っぽいかどうかもどうでもいいんだよ。ハチプロだけで作ってるんだよ、とかも、トリビアでしかない。そんな凄い情報がオマケになってしまうほど、素晴らしい音像だもん。
 クラッシュシンバルの短いディケイを補うためにディレイで飛ばしているところとか、巧みなユニゾンで単体の音色では出せない迫力を出しているところとか、“ハチプロだからできる音”をやってるのではなく、明確に存在している目的やイメージのために工夫した跡がそこかしこに見られるのが本当に面白い。彼にとって重要なのは“ハチプロかどうか”ではなく“一つのツールを端から端まで理解して極限まで使いこなせるようになる”ことだったはず。なんなら、イメージを現実に起こす手段が音楽かどうかも本当は重要じゃないんじゃないかしら。

桜子

 頭の中で音が動きまくってる〜〜
 点になって泳いでるみたいだ〜!
 左右からしか音が出ない、こんなに小さいイヤホンで聴いてるはずなのに、VRゴーグルを使って空間ごと渡されているような没入感がある!そんな気持ち!違う次元の世界が頭に浮かびます。

俊介

 ディレイとポリリズムの合わせ方が緻密なパズルみたいな感じ。有機的。
 この愛惜感の正体はどこからだろう、日本のノスタルジックを全て背負ってると思う。
 とにかく複雑で作り込まれてるけど、聴く景色も季節も選ばないくらい外部と調和し続けていて、多分それは彼が優秀なリミキサーでもあった理由のひとつでもある。
 SC-88proを用いて作ってたららしいけど、機材のdemoを聴く限り正攻法的ににこの機材いじっててもこのアルバムみたいな音を出力させるのは不可能だと思わされる。
 機材が高価だったり多機能じゃなかったとしてもアイデアと工夫でなんとかなる、なんとかなるどころか唯一無二の地点までたどり着けることを教えてくれる。

湘南ギャル

 日々の暮らしに、こんな音楽がずっと流れていればいいのに、と思う。生活に似た匂いをまとっているのに、現実よりも少し優しい。どんなにリアルがクソったれでも、ここだけはずっと箱庭として機能していてほしいし、してくれると思う。

しろみけさん

 チープな音を、チープなまま聞かせることに衒いがない。エコーやリバーブの陰影で描写しようとしている。エイフェックス・ツインの作品に『Computer Controlled Acoustic Instruments』というタイトルのEPがあるが、『red curb』こそ「アコースティックなインストゥルメンツ」に聞こえる。もし製作環境がより発達して、あらゆる音色へのアクセシビリティが向上したとしても、この人は『red curb』を作ると思う。そういう説得力をなまじっか持ってしまうくらいに、チープであることが意味を持ってしまっている。あんまり過ぎたことを言ってるとレイ・ハラカミに「そんなことないやい、もっと触ってみたかったやい」とか怒られそうですけど…。

談合坂

 なんというか、しばらく聴いていたらゴージャスという言葉がとても似合う音楽だなと思えてきた。チープというものを打ち消すように、目の前にある、身の回りの物事がいかに魅力に溢れているかを説得力を持って語っている。
 機械の拍動をそのまま使って人を踊らせ続けるみたいなことをしないのが、この独特な楽しさにつながっているような気がする。

 手元にある2001年発売の雑誌「SOUNDVISION」ではエレクトロニカを「ポストテクノ」と形容している。テクノにおける反復が醸成する快楽と比較すると、「エレクトロニカ」作家と語られるレイハラカミの音楽は展開が多い。その展開の多さは幼児のような奔放さと自由さに近い。有名な’’限られた音源モジュールの使用’’という制限と先ほど述べた’’音楽を作る上での自由さ’’が綱引きしているようなバランス感覚こそこのアルバムの肝だ。1つの心地よいメロディーが耳に入ったと思えばそれが少しずつ形を変え、いつか消え、気づいたらまた耳に入っている。掴めそうで掴めないから何回も聴いてしまう。

みせざき

 穏やかで、静かだが、そんな中でも音楽としての喜怒哀楽がわかるような、そんな音楽に感じます。キーボードが紡ぎ出すメロディーもそんな雰囲気を彩るようなもので、聞き心地の良さも感じました。

和田醉象

 アンビエントというには強力すぎる。(時折ある大胆なパンニングのど迫力がハラカミ節。急カーブを速度出して曲がるときみたいなスリリング。)でもダンスするにはちょっと弱い。ちょうど、電車の椅子に座っているときに浮腰立つぐらいのテンションになる。日常でワクワクするときってこのくらいの振れ幅じゃない?
 あと今回これ聞いてるとき、サブスクのおすすめ欄にあった音楽も聞いたらかなり良かった。著名でシーンを作った音楽には、やはりなにか引き付ける力がある。

渡田

 歌詞もなく、シンバルや電子音の不規則な羅列で、一見無機質に思えるのだけれど、不思議と穏やかな情景が目に浮かぶ音楽。機械的に思えて、その実しっかりと人の温もりや自然の穏やかさを感じられる瞬間がある。
 無機質に思える音が緩やかにエコーしたり、一つの音が穏やかに響いて消えていくと思えば、また別の音が耳のすぐ側で聞こえたり、常に聴き手の周りを音が取り巻いていて、音楽に置いてけぼりにされる感覚がしない。
 自分に懐いている動物を見ているときと似た感覚。言葉は無いし、動きは予測不能なのだけど、それでも親しみを感じる。

次回予告

次回は、くるり『TEAM ROCK』を扱います。

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