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MC5『Kick Out The Jams』(1969)

アルバム情報

アーティスト: MC5
リリース日: 1969/2/22
レーベル: Elektra(US)
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は位でした。

メンバーの感想

The End End

 何も知らず、バンド名だけでヒップホップ的なものを先取りしてた人たちとかなのか……?なんて思いながら聴いたのだけど、全然違ってビックリした。
 パンクっぽい真っ直ぐさとハードロックっぽい大仰さがどちらもあって面白い、60年代にもうこれがあったのか。
 当時のセールスは全く振るわなかったらしいけど、振るわないバンドのライブの熱量じゃないくらいパッションに塗れていて、なんというか、矜持を感じる。

コーメイ

 演奏の面で、かなり攻撃的なものだと思った。が、それが継続するところに、やや飽きてしまった。たとえば、Beatlesのホワイトアルバムにおける、「Helter Skelter」の激しさと他の曲との兼ね合いで、聴くことが出来た。しかし、今回は、これが連続しているような印象を受けた。そのため、意外と長いという印象を抱いた。

桜子

 演奏する自らが渦になっている事で生み出される緊張感や感じる早さに痺れるぜー。
こういった、オーディエンスが熱狂を作ってるんじゃなくて、演奏側の空気にただただライドしてぶん回されるようなライブに行きたいですね……。終わったら放心状態になりたい。

しろみけさん

 ベースがヤンキーすぎる。以前に吉田棒一さんがミッシェル・ガン・エレファント『ギヤ・ブルース』冒頭の「ウエスト・キャバレー・ドライブ」のイントロを"先輩が後輩を整列させて「誰殴ろっかな〜」みたいな感じで列の前を行ったりきたりする時にピッタリ"と評してたけど、その先輩の3つ上の鬼怖いOBさんはこんくらいやってる。そして何より、巷でよく言われる、"観客が主役"という言葉の意味が強烈に解った。いわば、演奏と声でクイクイと挑発している。

談合坂

 ちゃんと歪んでいる。音を太くした結果トゲが出てくるタイプの歪みではなくて、ジャキンジャキンと刺突するための歪み。エレクトリックギターを木塊と鋭利な金属の複合物として振り回す用法。絶対に、たとえロックに対してでさえもお利口ではいないぞという固い意志を感じる。"いま・ここ"性が強いながらもジャケがあまりにもアメリカアメリカしていてスケールがデカいのがなんか面白い。

 ハードコアじゃん。ええ……。パンクより先にハードコアがあったのか。最後の曲「Starship」ではメンバーが激情に駆られながら自分が音楽を演奏している主体なのか、演奏させられているのか、観客なのか、演者なのか、主体なのか、客体なのか、その境界が曖昧なままひたすらに音の塊が迫ってくる。ロックンロールからハードコアスピリットへ、その第一形態がこの作品だった、のか。

みせざき

 どこまでも真っ直ぐ突き進む音がする。MC5とはそういうバンドだと思ってた。改めて聞くとやはりそういったバンドだった。迷いが無いからここまで堂々と暴れることができるのだろう。特にギターをかき鳴らす音はその初期騒動自体を楽しんでいるようで初心に帰ることができる。

六月

 マザーファッカーだって!?そんな言葉がレコードに乗せられて発売されるというだけで、ロックの革命は為されたようなものだと言っていい。パンクの始祖だと崇められるのに十分なほどにずっとヴォリュームをあげたままの喧しい演奏もすっごく好き。
 個人的には、Led Zeppelinが出てきたあたりから、僕の好きじゃないタイプのロックが始まったなあと思っていたので、"長ったらしい退屈なジャムをしてるやつを蹴散らせ!"と叫ぶタイトル曲はやっぱりカッコいいなーと思います。でも結構いろんな曲で最後の曲なんて八分くらいジャムってるやん(でもそれは普通のジャムではない、最後の「Starship」なんかほぼノイズみたいになっている)というツッコミをするのは野暮でしょう。
 一曲目の最初の方、演奏が始まる前に、男の人(これはMC5のメンバーではなく、この収録されたライヴのMCの人だそう)が観客に向かって割と長く何か言葉を叫んでいるのですけど、初めて聴いた時はなんか言ってるなーぐらいにしか思ってたんですが、実際何を言ってるのかを調べてみると、なかなかに、いや本当に最高にいいことを言っていた。そして本気で叫ばれたこの言葉を、観客も本気で受け止めていて、この時代にいた人々が、本当に自分たちが生きている世界を諦めていなかったんだ、マジに世界を良い方へと変えようとしてたんだということがわかって、涙が出てきそうになった。今まさに諦念渦巻く中で正義ヅラした詭弁や暴力や虐殺が罷り通るクソッタレな現代に、Deep Lを使いながら翻訳したこの言葉を殴りつけて、私のレビューは終わりにしておこう。

"兄弟たち、姉妹たち
手を挙げてくれ
みんなで騒いでくれ
俺は革命が起きているのを聞きたいんだ、兄弟たち
小さな革命が起きているのを
兄弟たち、姉妹たち
一人ひとりが決断する時が来たんだ
自分がこの世界の問題になるのか、それとも解決策になるのか
兄弟たちよ、選ばなければならない
決断に必要な時間は五秒、五秒でいいんだ
この惑星で自分の目的を理解するのには
今が動くときだと理解するのには
五秒しかかからない、今がその時なんだ
兄弟たちよ、証言する時が来た。
証言する準備はできているか?準備はできているか?
これが証言だ—The MC5!"

和田醉象

 パンク・ロックがハードに進化していったらこんな感じだっただろう。激烈という言葉が似合う。
 もうこの音からは、もともとがブルースから始まった音楽だとは思えない。様式美よりも派手さや爆音が際立つ。派手でさえあれば、ロックがもうギターや歌の上手い奴らのものじゃなくなった、というのは偉大な業績だ。もちろんMC5だけの仕業じゃないけど、ロックの解放者というと象徴的なアジテーションの先に真っ先に思い浮かべるのは彼らの顔だ。

渡田

 小難しくなく激しい。今まで流れていた音楽のような上品さはないけれど、時々それに匹敵する神聖さを感じる。激しさの中に鋭く走る音があったり、突然静かになったりする瞬間には息を呑み、その神聖さを感じさせる。
 今までとは違う音楽、それでいてその奥に神聖さを感じさせるこういった音楽は、誰かにとっての親鳥になりうると思う。

次回予告

次回は、Velvet Underground『Velvet Underground』を扱います。

#或る歴史或る耳
#音楽
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