又貸し説の問題を示す例
例1:一つの銀行内で完結する場合
X銀行にAとBが口座を持っている。準備率を1%とする。Bが1万円をX銀行に預金する。X銀行がAに100万円の融資を行い、AはBに100万円を振り込む。
又貸し説でこの状況を説明するとどうなるか。
1回目の融資:X銀行が貸し出しに回せるお金は、準備の100円を除いた9900円。X銀行はAに9900円を融資し、AはBに同額を振り込む。この時点でX銀行の負債としての預金は1万9900円。
2回目の融資:X銀行が貸し出しに回せるお金は、準備の199円を除いた9801円。X銀行はAに9801円を融資し、AはBに同額を振り込む。この時点でX銀行の負債としての預金は2万9701円。
これを100回繰り返しても、融資額の合計は63万3967円にしかならず、100万円を貸し出すことはできない。1000回繰り返すと、99万9956円まで貸し出すことができる。しかし、100万円貸し出すためには無限回の融資が必要になる。これは概念上はあり得るが、現実には不可能である。
一方、万年筆マネーによる説明はシンプルである。
X銀行はAの口座残高に100万円を記帳することで融資を実行した。次に、振込の指示に従ってAの口座残高から100万円を減らし、Bの口座残高を100万円増やした。
例2:融資から送金までに時間差がある場合
また別の例を考えてみる。
8月1日にX銀行はAに100万円の融資を行った。8月10日にAは100万円をY銀行のBの口座に送金した。
この場合、X銀行が100万円のBM(ベースマネー:現金および日銀当座預金のことで、この場合は後者)を必要とするのは8月1日ではなく8月10日時点であるが、又貸し説では8月1日時点でBMが必要という解釈になる。
また、最初の例に倣って考えると、8月1日から8月9日までの間に、A銀行は100万円のうち99万円を別の融資に回せることになる。
8月1日にX銀行はAに100万円の融資を行い、100万円の現金をAに引き渡した。Aは100万円をそのままX銀行に預けた。X銀行は受けとった100万円のうち法定準備の1万円を残し、99万円を融資に回すことができる。X銀行は8月9日に99万円をCに融資し、Cは即座に99万円を引き出した。
この場合、8月10日に100万円の決済が不可能になってしまう。
まとめ
結局のところ、BMは決済時点で必要になるのであって、融資時点では必要でないという、万年筆マネーの説明が妥当ということになる。
また、その決済が自行内で完結する限りは、法定準備以外にBMを用意する必要は全くない。しかし、又貸し説では自行内で完結する決済であってもBMを用意しなければならないという解釈になってしまう。
又貸し説は融資した全額が即座に引き出され(あるいは送金され)るという限定的な状況のみを説明するモデルである。又貸し説を採用した場合にも、決済需要に応じてBMを別途準備する場面は起こり得るのであるから、又貸し説が万年筆マネーに対して優位な点というのは全く存在しない。
このように、又貸し説では信用創造を限定的にしか説明することができないが、万年筆マネーは又貸し説的状況も、貸出+決済需要への対応として問題なく説明することができる。どちらが優れたモデルかは明らかである。
参考
ニコニコ大百科は意外と良記事がある。