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長濱ねるさんのエッセイ『たゆたう』を読んで。

正直書くかどうか迷っていた。

(本人も作中で言っていた気がするが、)僕も誰かの作品について語るのはすごく苦手なので。
書くかどうか、強いて言うならいつか投稿予定の「記事にするまでもないことまとめvol.3」のなかに、本作の読了報告をちょろっと忍ばせておこうかな、とは思っていた。まさに、バチェラー5の西山さんのごとく、「話題に出したから心動かされたと言っているようなもん」といわんばかりに。
でもこうして書いている。本人によるエゴサに引っかかれば良いなと、アホらしいほど平易なタイトルをつけて。

それは、作品で著者の話をするのではなく、僕の体験で著者の話ができると思ったから。

これはあくまでも僕の話、とりわけ、部屋に飾ってある絵画の話だ。

ちなみに、本書はインスタのストーリーで知ってすぐに予約購入した。以前、長濱ねるさんが夢に出てきたのをきっかけにインスタをフォローさせてもらっていたので。9/1(販売日)に届き、9/2の土曜日、その日のうちに読み終えた。

僕の部屋には、3枚の絵が同じ大きさで仲良く並んでいる。
作者は全てオディロン・ルドン。

僕の部屋にとって3枚の絵はどういうものであるのか。
正直言って、最近「マンネリ化」しているような気がする。そのくらい、買った当初は、もう少しこの壁から、何か新しい風が吹き込んでくるような感じがあった。

じゃあ、この壁に何も飾っていなかったならば、これほどの頻度で壁を眺めることがあっただろうか。決してそんなことはない。
僕にとって絵とはもう一つのディフューザー。おそらく今はファーストノート=軽い分子が飛散してしまったような状況なのだろう。だから、きっと今も変わらず部屋の雰囲気には色を足してくれていて、その色が「基本色」として自分の中で認められただけ、なのだと思う。

僕が絵を見るタイミングは大きく2つ。
部屋の配置でベッドと向かい合わせになるように絵が飾ってあるので、ベッドに寄っかかりながらPC作業をしているとき(例えば今のように、このnoteを書いているときも)。たまに、顔を上げると目に入る。そして休憩がてら絵を見る。

そしてもう1つ、僕が絵を見るタイミングが、ふくらはぎのトレーニングをしているときだ。
絵が飾ってある壁に向かって、ふくらはぎのトレーニング(つま先立ちを繰り返すようなやつ)を行うのであるが、これが結構痛い。
大男が僕のヒラメ筋を直接握って、ぎゅーっと雑巾絞りをされているような気分。
そんな痛みに耐えかねると僕は絵を見る。
まるで、現実と自分とを切り離すように、意識を別のところに持っていきたくなるのです。

俯瞰したことはないが、きっと滑稽な図であろう。絵を見ながら体を上下に揺らして声にもならない声を出して悶えているギリギリZ世代の男の姿なんて。

ちょうど『たゆたう』を読んだその日も、僕はふくらはぎのトレーニングをしていた。

・・・

あぁ、辛い。
ふくらはぎトレーニング終了まで、残り3秒。
この3秒はトレーニング開始直後の30秒にも匹敵するほどの長さがある。
これがベッドの上で浪費する一瞬の時間と同じだなんて、信じられるわけがない。

一瞬の長さに絶望している。
でも、もうあと少し。
ラストスパートを掛けるべく、僕は集中度を更に引き上げる。
そして、絵を注視する。
もはや3枚の絵を順に見ていく余裕なんてない。
たった1枚の絵に徹底的にすがった。

もうすぐ、もうすぐタイマーが鳴る。
そのほんの寸前。
僕の頭のなかで、何かと何かが明らかに、確実に、繋がった。
繋がった瞬間、小さな火花が散った。
トレーニングとは明らかに違う、別の快感が走った。

その直後、
まるで夢から覚めたように「ピピピピ」と鳴るタイマーを聞いた。
「たった今、異世界転生から帰って来ました」と言わんばかりの感じで、僕は足の力を失ったように、ストンと踵をおろした。

・・・

僕が見ていた絵、それはオディロンルドンの『仏陀』でした。

オディロン・ルドン『仏陀』

時差的に、僕は何と何が頭の中で繋がったのかを理解した。

長田弘さんの「贈りもの」という好きな詩があります。
その一節より。
“大事なのは、自分は何者なのかではなく、何者でないかだ。急がないこと。手を使って仕事すること。そして、日々のたのしみを、一本の木と共にすること。

長濱ねる『たゆたう』より

僕は、長濱ねるさんの『たゆたう』の最後にあった彼女の好きな言葉を、この絵を見ながら思い出したのです。

僕は、この絵がとても好きであったが、その「好き」ということがどういうものか、敢えて言葉にしたことはなかった。
それを、長濱ねるさんが紹介してくれた詩によって、綺麗に説明してくれたような気がした。

そうか、だから僕はこの絵が好きなんだ。
そう思えたとき、この本を読んで良かった、と改めて強く思った。
いい本に出会えた。

いつか話してみたいな。
読書が好きみたいだから、ネックライトを勧めてみよう。


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