営業デジタルシフト(営業DX)が必要な理由は?メリットと明日からできる始め方

こんにちは、水嶋玲以仁(みずしま れいに)です。

私はグローバルインサイト合同会社にて、BtoB企業の営業やインサイドセールス、マーケティングのコンサルティングや支援を行っています。それ以前はMicrosoftやGoogle、Dellで約16年間インサイドセールスのマネジメントを行っていました。

先日、それらの経験を元に、『実践・営業デジタルシフト』という書籍も執筆・出版しています。

私のnoteでは、書籍の内容も抜粋しつつ、「営業のデジタル化」の必要性を感じながらもその進め方に悩んでいる営業マネージャーや経営者、営業担当の方々に役立つノウハウを発信していきます。

本日は第二弾として、そもそも営業のデジタル化が必要な理由は何なのか、そのメリットはどこにあるのか解説します。何から取り組めばよいか迷っている方に向けて、すぐに着手できるアクションもご紹介しますのでぜひチェックしてください。

営業のデジタル化はツール導入だけではうまくいかない

前回のnoteでは、私の考える「営業デジタルシフト」を簡単にご説明しました。

ポイントは、営業デジタルシフトは単にデジタルツールを使って営業を効率化させるだけはなく、「事業戦略や体制構築」までをも含むということです。というのも、今ある営業の仕組みを変えないままデジタルツールだけを導入しても、うまくいかない場合がほとんどだからです。

たとえば、とりあえずツールを導入してみたものの、データの入力の手間ばかりが増えてしまって現場の営業マンから不満が出ることもありますし、結果的にツール自体が使われなくなってしまった、という声も多く聞かれます。デジタルツールをしっかりと活用できるようにするには、営業の在り方から見直す必要があるのです。

営業デジタルシフトが求められる背景

ここで、もう少し前提に立ち戻って考えてみましょう。そもそも、なぜデジタルツールの活用が叫ばれているのでしょうか?便利なツールが開発されたのだから使わないのは損だ、ということでしょうか。そういった面もたしかにあるでしょう。しかし、より重要なのは、営業を取り巻く環境が近年激変していて、それへの対応が求められているということです。

市場に関しては、グローバル化による企業間競争の激化によって製品やサービスそのもので差別化することはますます困難になっています。「コト売り」「体験の提供」に軸足を移す企業が増えていることも、周知のとおりです。

顧客の側でも、ITの普及によって情報収集の方法が大きく変わっています。営業からの情報提供を待つのではなく、自ら検索して欲しい情報を取りに行くことが当たり前となった今、営業部門や一人ひとりの営業担当者に求められるレベルも高度化しています。

加えて、皆さんも実感されているように、新型コロナウイルス感染症の流行によって社会の様々な場面でデジタル化が推し進められています。当然ながら、営業活動についてもDXの動きが一層強く求められるようになりました。

従来の営業プロセスではこういった変化に対応しきれないというのが、新たな事業戦略や体制構築+デジタルツールの活用という営業デジタルシフトが求められる理由なのです。

そのほかにも営業デジタルシフトで改善が期待される背景には、たとえば、日本の企業では関係が構築できている既存顧客への対応に多くのリソースが割かれていることが多く、自ら情報収集に動いている潜在顧客へ十分なアプローチができているとは言いづらい状況であることなども挙げられます。私見ではありますが、新規開拓に計画的に取り組めている企業はむしろ少数派でしょう。

さらに、日々の活動がそれぞれの営業マンに任せきりのため、優れた成果を上げる人がいたとしても、その方法や知恵が組織の中で共有されにくいことも問題です。以前はノウハウの伝達の場となっていた営業への同行などの機会もリモート化が進むと減少してしまうことから、知見のデータ化や標準化が欠かせません。

それでは、営業デジタルシフトが実現した場合にはどのような変化が期待できるのでしょうか?続いて営業デジタルシフトが目指す理想の姿を見ていきましょう。

営業デジタルシフトのTo-be像

営業デジタルシフトが目指す理想の姿は、次の4点に整理できます。

1. 営業プロセスの社内分業
2. 営業プロセスの標準化
3. 顧客データを活用した営業活動
4. 生産性の向上・コストの低減

今回のnoteでは1~3について順番にご説明していきます。4については別の記事で改めてご紹介する予定ですが、ひとまず1~3の結果として期待できる成果だとご理解ください。

営業プロセスの社内分業とそのメリット

営業デジタルシフトで最も大きく変化するのが、営業プロセスの考え方です。従来の営業プロセスでは、営業マンが一人でプロセスの最初から最後まで――顧客とのコンタクトから受注のクロージングまで――を一貫して担当するのが普通です。場合によっては、受注後のフォローも営業マンが担当することもあるでしょう。

しかし、営業デジタルシフトでは営業プロセスを複数の部門で分担するほか、営業自身も個人ではなくチームで活動すること(チームセリング)を目指します。

具体的には、潜在的な顧客との接点を作成・維持して案件化を目指す営業プロセスの上流工程は、マーケティング部門と協業することになります。同時に、営業の役割も細分化して、インサイドセールスとフィールドセールス(いわゆる営業マン)で分担していきます。

インサイドセールスはまだまだ日本では馴染みが薄いので補足すると、内勤営業とも呼ばれ、メールやビデオ会議、電話などを用いて営業活動を行う手法を指します。このように説明するとテレアポやテレマーケのようなイメージを持たれる場合が多いですが、インサイドセールスは営業プロセスの一翼を担う重要な役割であり、まったく別のものだとお考え下さい。最大の違いは、テレアポはアポイントメントだけを目的にして量に重きを置いた活動をしがちであるのに対して、インサイドセールスは最終的な受注というゴールをフィールドセールスと共有しているため、質にもこだわって活動するという点にあります。

基本的に、フィールドセールスはクロージングなど商談の最終局面を担当して、インサイドセールスはマーケティングとフィールドセールスの間をつなぐ役割を負います。これらの部門間の分担を決めるためには、代表的なモデルを参照しながら営業戦略を構築する必要があります。詳細は次々節「営業戦略の代表的なモデル」でご説明します。

営業プロセスを社内で分業する大きなメリットは、自社を認知してもらう、顧客の課題を引き出して案件を創出する、具体的に検討している顧客に提案・交渉を行うなど、顧客ごとの営業プロセスの段階に応じて専門の部門を配置することで、それぞれの段階で求められる専門性を持った人員が対応できる点にあります。さらに、専門化することで個々のスキルを向上させやすくなることも利点です。

加えて、従来のフィールドセールスだけではリソースを確保するのが難しかった新規開拓の領域について、主にマーケティングやインサイドセールスに担当させることで安定的に取り組めるようになることも大きな魅力です。

営業プロセスの標準化のポイント

営業プロセスの標準化とは、ほかにも「制度化」「仕組み化」「見える化」「型化」などと共通した考え方です。営業に関わる様々なノウハウを共有可能なデータとして管理して、組織の誰もが一定以上の成果を生み出せるように再現性を高めていくことを指します。

現在の営業現場では、営業マンが各自の経験に基づいて日々の取り組み内容を決めているのが普通だと思います。教育についても、先輩社員が自らの姿を見せて学ばせる徒弟制に近いやり方が多くの企業で採られています。

こうしたやり方の課題として、営業マン視点では営業プロセス全体への意識が持ちづらく、既存顧客との関係をいかに守るかなど、保守的な考えに基づく活動に偏りやすくなってしまうことがあります。さらに、営業活動にデジタルツールを組み込む場合のような大変革は、ボトムアップの改善では難しいことも指摘できます。

そこで、営業プロセスの標準化にあたっては、プロセス全体を俯瞰して個々の役割定義を明確にするトップダウンの取り組みが欠かせません。そこにトップセールスの知見やノウハウをうまく取り入れることができれば、組織全体の営業レベルの底上げにもつながるでしょう。

標準化は、分業によって営業プロセスに携わる人数が増えるからこそ、そのメリットもいっそう大きくなります。さらに、異動や退職などでの人材の流動性が増している今、営業マン一人に頼らない体制を構築することは喫緊の課題だと言えるでしょう。

デジタルツールの導入と顧客データの活用

ここまで述べてきたような営業プロセスの社内分業や標準化にあたっては、やはりデジタルツールを活用することが重要となります。

まず、複数部門間やチームで分業して営業活動を進めていくには、特定の顧客が今どんな営業プロセス上の段階にいるのかを共通の基準で判定することや、顧客の状態を誰もがタイムリーに確認できることが不可欠です。こうした情報を各自がExcelファイルなどで管理しようとすると更新の負担が大きすぎることから、SFA(Sales Force Automation)と呼ばれる営業支援管理システムを活用するとよいでしょう。

また、標準化によって営業プロセスの段階ごとの活動を整理できたら、実際にそのとおりの活動を実施できているかモニタリングして管理・評価していくためにも、メンバーとマネージャーがともにデジタルツールを活用して日々の活動を記録・確認していく必要があります。

それ以外にもデータツールを導入して案件や顧客にまつわるデータを一元管理できるようになると、それを活用して顧客それぞれのニーズを反映させた営業活動や、適切なタイミングでの情報提供などが可能になり、営業活動全般のクオリティの向上にもつながることが期待できます。

営業戦略の代表的なモデル

営業デジタルシフトでは事業戦略やそれに基づく営業戦略の策定も大きなポイントです。営業戦略を策定するときの強力な味方となるのが、営業モデルです。代表的な営業モデルの中から自分たちの企業に合ったモデルを選ぶことで、適切な営業戦略を考える近道になります。今回は代表的な営業モデルとして、ABM型、テリトリー型、カバレッジ型の3つをご紹介していきます。

(1)ABM(Account Based Marketing)型 
ターゲットはアカウント(=企業)単位で、それぞれの企業に最適な施策を実行します。アカウントとは中長期的な関係性を維持発展させ、ターゲット企業内でのインナーシェアの最大化を目指す営業モデルです。1社当たりに割く営業工数は最も多くなります。

社内分業については、関係構築や深化が最も重要なモデルであるため、営業戦略の立案や実行はフィールドセールスが主軸となります。一方で、マーケティングやインサイドセールスのリソースを有効活用するため、連携して計画立案や営業活動を進めることも重要です。

(2)テリトリー型
ターゲットをアカウント群(=企業群)で区分し、ターゲットアカウント群に効率的にアプローチできるように注力ソリューションなどの戦略を定めます。ターゲットとは中~短期的な関係性を構築していき、市場シェアの最大化を目指します。

比較的多数のターゲットアカウント群をカバレッジする必要があるため、フィールドセールスは案件クロージング中心、インサイドセールスは新規案件の発掘や育成、といった役割分担が一般的です。マーケティングはターゲットアカウント群のうち1社でも多くの顧客との接点を増やすべく支援を行います。

(3)カバレッジ型
顧客ごとに営業を配置せず、マーケティング活動(テレマーケティングを含む)により顧客にアプローチします。特定の商材のデマンドジェネレーション(案件創出)を通じて、市場シェア拡大を目指すモデルです。1社当たりに割く営業工数は最も少なくなります。

社内分業について、マーケティングとインサイドセールスが中心で営業活動を進める点が特徴的です。マーケティングはデマンドジェネレーション(案件創出)を行い、商材によって例外もありますが、クロージングまでフィールドセールスでなくオンライン注文やインサイドセールスが実施することが多いです。

営業モデルの選び方

営業モデルの中から自分たちの企業に合ったものを選ぶには、3つの中心軸+2つの補助軸から検討することができます。中心軸は顧客、営業リソース、ソリューション・商材で、補助軸は顧客課題と目指す関係性です。最後に営業モデルを選ぶためのチャートを載せていますので合わせてチェックしてみてください。

(1)顧客
顧客が1社で多数の部門・グループ会社を有する大規模企業ならABM型、業界や業種、地域などの共通属性がある大~中規模な企業群ならテリトリー型、不特定多数の企業群ならカバレッジ型が適切です。

(2)営業リソース
営業のリソースについて、1人の営業マンの担当社数が限定的で1社当たりに十分な労力を割ける場合にはABM型、担当社数が数十社以上あって1社にかけられる工数が限定される場合にはテリトリー型、営業担当の個社対応を極力行わない方針の場合にはカバレッジ型を選ぶとよいでしょう。

(3)ソリューション・商材
売り込みたいソリューションや商材が複雑・多様で、個社別にカスタマイズする必要がある場合にはABM型、業界や業種特化のソリューションで、ある程度顧客にあわせカスタマイズする可能性もあるならテリトリー型、原則カスタマイズは実施しない場合にはカバレッジ型が望ましいです。

(4)顧客課題
ターゲットとなる顧客が複雑かつ長期的な解決が必要な課題を持つと想定できて、それらを自社のソリューションや商材で解決できると考えられる場合にはABM型が適切です。想定される課題が特定の業界や業種、地域に限定される場合にはテリトリー型、顧客の課題解決よりもマーケティングで顧客ニーズを喚起・創出することを重視する場合にはカバレッジ型がよいでしょう。

(5)目指す関係性
複雑かつ長期的な解決が必要な課題が存在して長期的な関係構築を目指す必要がある場合にはABM型、短~中期的な関係構築・深耕をしていきたい場合にはテリトリー型、短期的な関係構築に留まる場合にはカバレッジ型が適切です。
(出典)『実践・営業デジタルシフト』pp.58-59

明日からできる営業デジタルシフトの第一歩

ここまで営業デジタルシフトが必要な背景やその理想の姿、営業デジタルシフトを進めるうえで欠かせない営業戦略の基になる営業モデルなどをご説明してきました。お読みいただいて、たしかに営業デジタルシフトは重要そうではあるけれど、何から始めたらよいのか分からない!と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

最後にそんな方に向けて、思い立った時にすぐにできる営業デジタルシフトの第一歩となるようなワークを3つご紹介したいと思います。

(1)現状の営業プロセスのスタートからゴールまでの活動を整理してみる
営業プロセスを改革するためには、現状把握から始める必要があります。現在の受注に至るまでの流れで、どの時期にどんな活動を誰が行っているのかを、自社にとって意味のあるテーマ(新規顧客と既存顧客、商材AとB、ベテラン営業マンと新人営業マンなど)ごとに整理してみましょう。

(2)自社の顧客、営業リソース、商材に適した営業モデルを考えてみる
まずは前節で説明した営業モデル選択の中心軸に基づいて、自社のビジネスに適した営業モデルはどれなのかを考えてみましょう。現状のやり方は一旦考慮せず、理想的な営業モデルを考えることが重要なポイントです。

(3)既存顧客への対応のうち、他部門と連携・分担できる業務がないかを考えてみる
特に新規顧客の開拓が十分にできていないという悩みをお持ちの場合におすすめなのが、(1)の現状の営業プロセスの整理を踏まえたうえで、自社製品の定期的な情報提供など、マーケティングなど他の部署に担当してもらえる業務がないかを考えてみることです。営業プロセスを分業するなんて無理そうだとお考えの方にも、分業の可能性を理解するきっかけづくりとして考えていただきたいポイントです。

これらに共通しているのは、現状の業務については知り尽くしているはず、今更考える必要なんてないんだという考えを一度捨てて、全く業務を知らない人に説明するつもりで整理してみることの大切さです。客観的・俯瞰的に業務を捉えることで改めて現状の課題が見えてきて、改革の必要性も実感できるようになるでしょう。営業デジタルシフトの大きな第一歩として、ぜひ取り組んでみてください。

【最後に宣伝】
・改めまして、拙著「実践・営業デジタルシフト」では本記事で述べたような営業デジタルシフトに関する理論から実践までのノウハウを詳しく解説しております。ご興味ある方は是非!

・また、弊社グローバルインサイト社のサイトでも同じテーマのノウハウを発信しております。こちらも是非チェックいただけると幸いです。

・2021年12月20日 日経産業新聞フォーラムで基調講演します。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?