「自分の身体を知ることで、自分のポテンシャルが開く」ー 自宅でできるホルモン検査キットcanvasが提案する、セルフケアの新たな選択肢
「ホルモン検査」と検索欄に打ち込むと、Googleでは婦人科クリニックが提供する情報が上位に並ぶ。
確かにホルモンは不妊治療や月経に伴う体調変化とともに語られることが多い。しかし実際は、性別関係なく全ての人の体に様々な影響を与えている。なんとなく普段との違いを感じても、その異変が明確ではないからこそ辛さを我慢してしまってはいないだろうか。それは本当に理由が不明確なのか。それとも理由を知るための知識がないだけなのか。
この度REINGは、自宅でできるホルモン検査キット「canvas(キャンバス)」のステートメント開発に携わった。ジェンダーイメージを避けては通れないことに加え、専門的な知識を持つ人も多くはないホルモン検査を、より身近に感じてもらうためにどのような議論を交わしてきたのか。そこには自分の身体を知ることが自分を愛することに繋がっていると考える、創業者・長谷川彩子さんの思いが現れていた。
長谷川彩子(Vitalogue Health代表取締役CEO)
自身の経験をもとに、女性が自分の身体と向き合い人生の選択肢を広げるきっかけを増やしてほしいという想いから2020年4月にVitalogue Healthを起業。郵送のホルモン検査キットを使い自分の身体の状態を知ることができるサービス「canvas(キャンバス)」を開発。
ホルモンによる異変は、
「我慢しなきゃいけない」もの?
ー ホルモン検査キット開発の経緯を教えてください。
長谷川彩子さん(以下、長谷川): 私は薬学部出身なのですが、卒業後はコンサルティング会社に勤め、将来はベンチャーキャピタリストになりたいと思っていました。元々ホルモン周りの悩みがあったので、体調管理だけでなく、女性として一生大きな影響を受けていくホルモンをうまくコントロールする方法はないのかなとずっと考えていて。2016~2017年頃、生理が止まったことがあるんです。当時、たまたまいい先生に巡り合ってホルモンを測ってもらったことで、ホルモンをみるだけでも結構色々なことがわかるんだと驚きました。自宅でもっと簡単にホルモンを測れるようになったら自分の状態への対処の仕方が増えて、未来の選択肢も増えると思ったのが起業のきっかけです。忙しいとなかなか病院に行くことの優先順位を下げてしまいがちだし、行く病院によって先生の良し悪しや相性の違いがあったりする。一個人が対応できる状況や情報・ツールへのアクセスも限られている部分がある領域だと思うので、検査という選択肢があることで自分にあった身体との向き合い方を見つける環境を変えられるのではないかと思っています。
canvasは、検査キットを使い自己採血することで、自宅で自分の身体の状態を知ることができるサービス。PMS(月経前症候群)や生理痛、妊娠、更年期と、女性は一生を通してホルモンに大きな影響を受けるため、年齢や月の生理周期によるホルモンの変化について知ることで、ライフスタイルやキャリアプランの選択肢を自分で選び自分で変えていく人を応援する。
ー 周りにも同じような悩みを抱えていた方はいますか?
長谷川:ホルモン検査は月経中に測定するため、検査を予約できるタイミングが限られます。ロンドン在住の知人が、月経不順が急に始まって検査を受けようとしたのですが、仕事で出張が入ったりすると予約がキャンセル続きになったりとホルモン数値を測るのも大変だったそうです。やっと検査を受けたら、AMH*という卵子の数と相関するホルモン値がとても低いことがわかり、すぐに妊活を始めたと言っていました。
*AMH:発育過程にある卵胞から分泌されるホルモン。卵巣内に残る卵子の残り数がどの程度なのかを示す目安。
ー ホルモン検査の普及について、日本と海外ではどのような違いがあるのでしょうか?
長谷川:医療制度の違いなども背景にあって、海外では自宅でおこなうホルモン検査が広がっていたりといろんな選択肢があるように思います。例えばアメリカだと日本と比べて医療費がすごく高いので、自分たちでなんとかしようという意思が働いて自宅でホルモンを測ることは一般的になっている。イギリスの病院は公的医療機関(NHS*病院)と私的医療機関(私立病院)と分かれているので、もっと質の良い医療を受けたいと思う人はお金を払って自分でなんとかしようと考えることも多い。その選択肢の中に検査キットもあります。
*イギリスではNHS(National Health Service)というイギリス政府が運営する国民保険サービスがあり、これは利用者の経済的な支払い能力に関わらず原則無料で提供されている。
日本は医療費も世界と比べたら安いしアクセスもいい方だけど、婦人科は特殊。婦人科のメインは癌とお産と不妊治療。それ以外のところは女性医学という第四の分野として近年注目を浴びている領域なのですが、その領域は診療報酬がつきにくいので先生たちがあまり取り組んでいなかったりして。不妊治療をメインにしているところだとホルモン採血にも慣れているけれど、それ以外のところではホルモンを測らないことも多い。病院に行ったとしても先生によって判断が異なることが多いんです。あとは、排卵機能をみるホルモンも全てが保険診療の対象ではないし、甲状腺ホルモンも婦人科で測る場合は自費になってしまう。日本では自費診療と保険診療は医療制度上の理由から同日に行えないので、金銭的な負担も大きくなりがちです。
大谷明日香(Creative Studio REING / 代表):私も以前、日本とアメリカの保険の違いを教えてもらいましたが、自費で賄わなければいけない負担領域が全く異なることに驚きました。日本は保険診療が安いので、風邪を引いても病院にいけばいいという感覚があるのかもしれない。そうすると、逆説的に自分の身体のことを知ろうとしない節はあるのかもしれませんね。
長谷川:体調に異変が出た後でも「病院に行けばなんとかなる」と思っているのと同時に、ホルモンの変動による異変は「我慢しなきゃいけない」と思って、それが異常だということを知らない。欧米でもネガティブに捉えられることはあるけれど、アジアの方が「女性であることのしょうがなさ」のような思い込みは強いように感じます。
試行錯誤を繰り返す、
そのトライができる環境を
ー どうして「我慢する」という発想になったと思いますか?
長谷川:これは本当に仮説でしかないですが、医学の領域は基本的に男性主導で動いているので、研究し尽くされていないことがあるかもしれません。あとは女性の社会進出にともない身体の辛さとの向き合い方も変わるべきなのではないでしょうか。辛いと思うことは何か異常のサインだけど、女性の生活の急激な変化に身体が追い付いていないから、女性自身がそれを異常だと捉えられてなくて「我慢しなきゃいけない」という意識が続いているのかな。
大谷:働く場とかスポーツとかはどんな性別の人も同じフィールドで何かに取り組むので、我慢の意識が生まれやすい気がします。私はずっと水泳をやっていたのですが、生理がくる頃に女の子に対して女性のコーチからタンポンの使い方などのレクチャーがありました。1日休んだら取り戻すのに3日はかかると言われている世界の中で、我慢しないと同じラインに立てない。これは小さい頃に叩き込まれた感覚としてありました。社会人になってからも男の人と同じでなければいけないと思って、会議中に「生理痛で辛い」とか「休みたい」とか伝えることがビハインドになるような気がして言えなくて。学校のシーンでも生理痛で授業を休むとか遅れるとかがサボりのようにネガティブなイメージでしか語りようがないから、我慢するべきものとして感じていたのかなと思ったりします。
ー ホルモンについてご自身の認識と、社会で共有されている認識にギャップを感じますか?
長谷川:一般的にホルモンというと、「女性ホルモンがアップすると肌がツヤツヤになる」といった女性誌で語られるようなイメージや生理と関係していることは知られていますが、大きくは妊娠・更年期を意識するタイミングしか知る機会がないのかなと思います。私は30代になって生理が止まって、ホルモンが体調に影響を与えることをひしひしと感じていた。女性ホルモンと呼ばれるエストロゲンは減りすぎると疲れやすくなったり鬱ぽくなったりしますが、私はそれらの体調の変化を知っていたのでより知りたいと思ったのかな。自分が薬学部出身だったこともあり、私はサイエンスの論文も読むしエビデンスも重要視しています。第三者的な立場での正しい情報発信や、自分を知ることのサポートは科学に基づいてやっていくつもりです。同時にサイエンスでは未だ解明されていないことが多いのも知っているから、自分で勉強して判断した上で色々トライする。自分にとって一番ストレスになっている原因が何なのかを知るには、しばらくトライアンドエラーが必要で。試行錯誤を繰り返して、自分に合うもの、効果があるものや、好きなものとか続けられるものとかを見つけるなかで自分の身体への理解は深まっていくと思います。みんなで繰り返して、エビデンスを作っていくというか。結局自分の身体のことはその人だけがわかるから、続けられるものは何かという判断ができるのもその人だけ。そういうトライができるような環境を作るのが私の役目かなと思います。
女性のため、だけじゃない
ホルモンはみんなにあるもの
ー 確かに「女性ホルモン」という言葉のイメージはかなり強いように思います。今回ウェブサイトでのステートメントを新たにする際、意識したことはありますか?
長谷川:一番気をつけたのはポジティブなメッセージにすること。自分の身体と向き合うことや自分の身体を知ることって、自分の身体に愛を与えたり自分のことを肯定することと繋がると思っていて。自分の身体の状態を知ることで、未来の選択肢や自分のポテンシャルが開くのだということを伝えたかった。ホルモンって女性ホルモンとか男性ホルモンとか性別的な名前がついてるけれど、それぞれ性別に関係なくみんながどちらも持っている。「みんなにあるものなんだよ」という点をメッセージとして間違わないようにしたいと思い、ホルモンを呼称する際になるべく「女性」「男性」とつけないことを意識しました。
大谷:私も一番最初にアヤコさんにお会いした時に、「ホルモンは女性のためだけのものじゃない」と話していたのは印象的で。そもそもどんな身体を持つ人もホルモンの種類は両方あって、色んなバランスをとる必要がある。ホルモンに性別の名称がついていることでわかりやすくなることもあるけれど、余計な情報やバイアスを固定化しているところもあると気づきました。
ー 一方で、ホルモンの正式名称を覚えるのもちょっと難しいですよね。「女性」「男性」とくくらずにホルモンを語るには専門的な知識が必要で、それをハードルに感じる人もいるのではないかとも感じます。
長谷川:ホルモンと人生との関連性について多くの人に理解してもらいたいから、確かにそこをどう伝えていくのかは難しいところです。例えばもっとビジネス的に表現しようと思ったら「妊活のためのホルモン検査です」と銘打った方が早いと思うんです。でも、妊活や更年期も人生の一部だと思うので、ライフステージのタイミングで検査を提案すると対症療法的な意味が強くなって、私がもともと伝えたいことと変わってしまう。
大谷:アヤコさんは出会った当初から「自分の身体を知ることが、自分の人生をちゃんと描くときにとても大事」と言われていましたよね。私も自分の体にめちゃくちゃ悩まされてきたけど、自分の人生を自分らしく生きるときの1つのパラメーターとしてホルモンについて知るっていう選択肢はなかった。作りたい世界のビジョンが先にあって、そのための手段として身近なところに1つ選択肢を作りたいという思いを聞いて、一緒にやってみたいと思ったんです。自分が知らなかったからこそ、ホルモンの状態を知ることが自分の身体を知る有効な手段なのだと伝わるといいなと思います。
コントロールできる幅を増やす
それは、自己肯定につながる
ー 最後に、これからリリースに向けての心境を教えていただけますか。
長谷川:見たい世界を実現するためにどのような手段があるのか毎日考えています。人への伝えやすさと貫きたい自分の思いとのバランスの難しさに日々悩むんですけど、REINGさんは何を言ってもすごく寄り添ってくれて、これ以上のパートナーはいなかったと思っています。さっき言った前向きなメッセージングだったり性別関係なくホルモンはあるのだということは伝え方やニュアンスが難しい。だけどREINGでの活動があるからわかりやすい表現や細かいニュアンスを一生懸命考えてくれて。お願いできてよかったです。
大谷:ビジョンは旗になるべきだと思うから、始めた時の思いや作りたい世界に対するアプローチや手段でしかないと思う。何か迷った時に自分を信じるための言葉があるのはすごい重要だと思うから、それはちゃんとアヤコさんの言葉であるべきだと思ったんです。ステートメントを考えるときも、それはすごい意識しました。
長谷川:ありがとうございます。くじけそうな時は読み返してます。やっぱり私が伝えたいのは、自分の身体を知って、自分の身体をケア・対処してあげると、自分でコントロールできる幅が増え、自分の人生に前向きになれるんじゃないかってこと。自己肯定感を高める大きな要素の1つとしてボディシェイプだったり身体の状態があるじゃないですか。体調によっていろんなことを諦めたり、「私ってダメだな」と思って自己嫌悪になったり。そういう意識って、自分のことをもっと知ることで受け入れられたり、対処の可能性を知るだけで変えられる。キャリアを考えるときの自己分析と一緒で、今の状態を知ることが、どうやって付き合っていくのかを考える起点になる。自分の身体と向き合うことは、自分のことを肯定することや愛してあげることに繋がっているように感じます。そういうところに貢献できるプロダクトでありたいです。
Interview / Text: Maki Kinoshita
Edit / Direction: Yuri Abo
Interview Photo: Kotetsu Nakazato
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Co - creation for non-binary world.
- 二元論ではない多様な社会のための協働 -
Creative Studio REINGは 見えない“普通”という風潮をつくってきた従来のマーケティングやクリエイティブ、メッセージのあり方に疑問を投げかけながら、これからの時代を生きる人々に何を発し・伝えていくべきかを問いかけています。コミュニケーション戦略設計・プロデュース・クリエイティブ制作等のご相談は staff@reing.me までお気軽にお問い合わせください。