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ナハトのすゝめ


わたしは夜に恋をしている。


一行目から、ずいぶん大胆なことを書いてしまったけれど、気に入っているのでこのままにしようと思う(朝起きて見て、恥ずかしくなったら変えてしまうかもしれない)。

夜がすきになったのは、小学生のころ。
親と別の部屋で眠るようになって、わたしは初めてひとりでいる空間の静けさを知った。
自分の呼吸音以外、なんの音もしない部屋。
息を止めてみると、そこにはただただ、「無」が存在していた。
無。何も無い。
自分の他に、生きているものが何にも無い。
それがとてつもなく不気味で、なかなかすぐには寝付けなかった。
目を閉じても、ないはずの「無」がそこにむんず、と居座って、わたしだけの部屋を我が物顔で占領していた。
普段から狭い部屋が、余計に狭く狭く感じて、息苦しかった。
どうにか「無」の支配する世界から抜け出したくて、
ある日 わたしは窓を開けた。


ひゅうっ、と音がして、風がわたしのすぐそばを通り過ぎる。
お風呂上がりの、丸見えになっているおでこにもそれが当たって、ちょっぴりくすぐったかった。
得意げな顔をした風が、みるみるうちに部屋の空気と外の空気を混ぜこんでゆく。
気づくと「無」はなくなって、わたしは部屋ごと夜の一部になった。

夜が、不甲斐ないわたしの味方になってくれた。



それからいつも、うまく寝付けない夜は窓を開けている。
夜の風はいつだって無遠慮にわたしの部屋に侵入し、そのくせ眠れない夜の話し相手にすらなってはくれない。
だけど、不思議とさみしくはない。
声を聞いたことはないけれど、無よりずっとずっと饒舌だ。
いつだって、そこに夜がいることが、何も無いことからわたしを救ってくれる。


眠れない夜。
大いに結構。わたしは夜がすきだ。

現在の時刻。AM2:20。
そっと窓を開ける。
まだ眠くはないけれど、上手に眠れそうだ、と思う。



2020.4.29
伊坂幸太郎のアイネクライネナハトムジークを読みました。
タイトルのナハトは、すこし格好つけたくなったので、そこから。
ナルトみたいだったかなあ。

ずっと始めたかったnote。
無事、4月が終わる前に始められてよかったです。ほっ。

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