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長編小説【記憶の石】

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14歳の、終わりから。 ※フィクションです。
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2023年6月の記事一覧

【記憶の石】19

【記憶の石】19

 090から始まる番号、何度も暗唱した番号、まるで数学が好きな人が美しいとため息をつくように眺めた数字の並びに、少女は攻撃する親指を止められなくなった。何度も何度も裏切った男へ発信する。長く鳴らしているのも煩わしくなり、ワンギリを繰り返して相手に圧力をかけようとする。そろそろ彼は焦り出している頃だろうか。少女は怒りに任せてメールを高速で打ちつける。他の女性たちのように、せっせと携帯メールを打つ用事

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【記憶の石】18

【記憶の石】18

 久子は聖のことが「1番」好きだった。正確には、1番好きなことにしていた。どれだけ他の男と遊んでも聖という存在には勝てない、そういう建前にしていた。
 久子が2歳上の聖と交際を始めたのは21歳、大学4年生になった春のことだった。21歳——この年は、避けるべき出会いが重なってしまった。いや、出会うまではいいのだけれど、人生は、偶然と選択の組み合わせでできているわけで、飛び込んでくる偶然に対する選択を

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