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好きな映画の話。

好きな映画はなに、と聞かれたときに答えは決めている。
それはオズの魔法使。
おそらく私がはじめて見た映画で、人生で一番たくさん見た映画。
古いミュージカル映画だけど、エンタメ映画の全部が詰まってると思っている。
嘘と大袈裟と切なさがずっとじわついてる映画。

ストーリーはいわずもがな。
竜巻に飛ばされて魔法の国にたどり着いたドロシーという女の子が、もといたカンザスに帰るためにオズの魔法使に会いにいく。
オズの魔法使はどんな願いも叶えてくれるようなすごい魔法使いと言われているけど誰も詳しくは素性は知らない。道すがら脳みそがほしいカカシ、心がほしいブリキの木こり、勇気がほしいライオンと出会い、みんなでオズの魔法使に会いにいく、というただの桃太郎。
そう、桃太郎。だけど、みんな頼りない。

この映画のすごいところで、この映画でしかできない素敵な演出がある。
1939年の映画なので、当時はモノクロ映画が主流。
カラー映画がまだ珍しい時代。
オープニングはモノクロというかセピア色の画面からはじまる。
そして、竜巻で飛ばされて美しい魔法の国に着いた瞬間、ぶわーっとカラーに変わっていく。
これはオズの魔法使で、そしてこの時代の映画でしか出せないファンタジー演出。
異様なテクニカラーが良い感じで不気味なのだ。

この映画の好きなところはファンタジーなんだけど、ちょっと不気味というか不穏な感じがするところ。
ドロシー以外は今見たらただのコントの衣装。
特にブリキの木こりはほんとに気持ち悪い。
そんで、みんなコンディションがシーンによって違う。雑い。
それもこれも演者のチャーミングさで丸く収まっている。
だけど、こんなにチャーミングなのにそこはかとなく不気味さが沁みている。

だけど、こんな不気味なのに、みんな歌も踊りもとっても素敵でストーリーに引き込まれてしまう。
変な衣装のおかしな人たちが歌い踊る姿もそれもまた不気味な感じを増幅させてる。

ラストも夢オチ、という起承転結をひっくり返す感じもたまらない。もはやそれはオシャレでもなんともないんだけど、このキテレツさの漂う映画ではなんか安心させてくれるオチ。

なんだか、わたしはこの映画の中でずっと生きている気がする。
ある意味トラウマ映画だと思う。
現実と夢の境目がなくなっていくことへの抵抗感の無さ。
この感じをグッと深くまで詰め込まれてしまうのは日本人の落語文化なのかしら。もっとわかりやすく言うとウゴウゴルーガやランジャタイ、ひねくれたETVの感じがわかってしまうひとはみんなグッとくるところなんじゃないかな、と思う。
アングラをポップに、のわかりやすいやつなんだと思う。

この映画が名作と言われているが故に体験してしまっているひとが多いというのも考えもの。普通に考えてキモいよ、この映画は。

そして、小さい時から思ってた違和感や気持ち悪さの分かりにくい所を、のちに大人になってちゃんとこの映画が作られた背景や演者の苦しみや切なさを知ると、ビッグバジェットの悲しさを感じざるを得ない。
よくこの映画ができあがったな、と思う。

なんだかよくわからないけれど年末に見たくなる映画。
そして、自分を取り戻す時に見なければいけない映画。

だけど、結局それは夢。

#好きな映画
#エッセイ
#オズの魔法使