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井の頭線から見える富
朝七時半、仕事へ行く途中、最寄駅の前でバッグから携帯を取り出した際に嫌気がさした。
前からは丸いサングラスを掛けた短髪の男が歩いてきていた。その男性は別に何も関係ない。
でもその人を一瞥しながらモバイルパスモの入った携帯を取り出した時に、心底嫌な気持ちになった。
「生活」をしているのが嫌になったのかも知れないと思った。
毎週末ライブハウスの仕事へ行って、平日はジムに行ったり、インスタのリール動画を撮って編集したり。友人と会う日もある。毎日1LDKの家に帰ってきては夕食を作って夫に食べさせ、洗濯をし食器を洗う。
そういうことを繰り返して、生活をしているということが嫌になった。その虚しさが、駅前でバッグから携帯を取り出した瞬間に、突如としてわたしに襲いかかった。
生活をしている。生きている。幸福なことだ。でも、わたしのなかの「生活」は一向に良くならない。
ね、わたしたち頑張っているのにね。わたしたち頑張って生きているよね。なのにどうして、こんなに虚しいのだろう。
そんなことを考えながらもおくびにも出さず、わたしは何食わぬ顔で今も電車に揺られている。
どの電車にどこまで乗ったって、どこへも行けない。
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