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愛情は桃の形。

母からの連絡の通知。

「ところで、桃🍑どうだった❓」

私は、しまった!と思った。
母から荷物が送られてきたのは前の日曜日。
うっかり感想を送るのを忘れていたのだ。

私の母は連絡のスピードに過敏である。
私と連絡がつかないことにより警察沙汰になった過去がある。このときの話もいつかさせてほしい。

「1個だけ食べた!美味しかったよ」

出先で母からの連絡を受けた私は少し間を置いて返信し、帰宅するや否や慌てて冷蔵庫から桃を取り出した。帳尻を合わせなくてはいけないからだ。

包丁の背で雑に桃の肌を撫で、半分のところで切り込みを入れたが思うように皮は剥けなかった。まあ、雑だったもんな。それでも何とか形を保ったまま皮を剥き切り、果汁でだくだくに濡れた手のひらの上で桃を切り取った。
皿に並べたあとはモッツァレラチーズをちぎり、生ハムももはやちぎり、オリーブオイルとブラックペッパーもレモン汁をこれまた雑にかける。

桃を剥く途中、手を滑らせて指を切りそうになった。
そういえば、実家にいたときは「果物は剥いてくれたら食べる」スタンスだったなと。
それを母もわかっていて、半ば呆れながら果物を剥いては、私の口に入れてくれた。(私が口を開けて待っているから。雛鳥のように。)

それがいかに贅沢で甘えていたことか、一人暮らし11年目の今になって気づく。

皿に出来あがったものは、雑に作ったわりには美味しかった。
美味しいものをひとまとめにしているのだから、不味くなる要素はないのだけれど。
桃も確かに美味しかった。甘くて瑞々しくて、むたむたと食べてしまった。

幼稚園に通っていた頃、毎月お誕生日会が開かれていた。その月に誕生日を迎える子供たちが壇上にあがり、皆んなから祝われる。そのとき、好きな食べ物を聞かれるのだ。

「⚪︎⚪︎(私の名前)です。△月□日生まれです。好きな食べ物は桃です。」

当時5歳の私は確かにそう言った。
すると、インタビュアーのように私にマイクを向けていた先生はにこりと笑い、

「桃が好きなんだ!⚪︎⚪︎ちゃんらしいね」

と言った。私は幼いながらに、どういうことだろう?私が桃みたいってこと?とまるまるとした頬を赤く染めながら考えていた。違う食べ物にすればよかった、と思った。帰ってから先生に言われたことを母に話すと、母は笑っていた。

24年経った今でも、桃を食べるたびに思い出す。

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