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今すぐ! コロナ報道が取るべき“戦時態勢”

コロナ禍が、いよいよ深刻な段階にさしかかってきた。メディアも、いよいよ平時とは発想を切り替えた《戦時下の報道》のあり方を考えるべき時だ。

戦時の報道と言うと、大本営発表の情報統制がすぐ連想されるが、今回そこに陥っていかないためにも、各報道機関の先手を打った《自律》が強く求められる。

[1] まずは買い占め現象の報じ方、大至急抑制を!

直近の課題は、買い占め現象の報じ方。昨夜の都知事緊急会見以降、あっという間にまた各メディアが「再び買い占めが始まった」と空っぽの商品棚の報道などを始めているが、本当に《ありのままを報じればそれで良い》のだろうか?

★ここで参考にしたいのが、身代金要求誘拐事件や人質立てこもり事件等の報道の仕方だ。こうした事件の発生中には、《報道を見ることによって犯人が刺激され、コトの成り行きに悪影響を及ぼす》ことを避けるため、報道機関は「事件が起きていることを知っていても報じない」という極めて例外的な報道協定を結ぶ。日本でも、過去にそういう実例は何回もあった。

現に発生している買い占め現象は、まさに《報道を見ることによって犯人(私たち一般人皆)が刺激され、コトの成り行きに悪影響を及ぼす》(=ますます買い占めをエスカレートさせる)という構図だ。各社各局は、自分たちが火に油を注ぐことを、この戦時体制下では何とか自制できないか今すぐ真剣に考え、協定は行き過ぎにせよまず自社だけでもいいから次の紙面・次の放送から報じ方にブレーキをかけて欲しい。

もちろん、今までの戦時下と違って、今回はSNSが発達しているという決定的に異なる情報環境がある。いくら旧メディアが自制しても、空っぽの商品棚の映像は個人発信で駆け巡るから、食い止める事はできない。だからといって、「どうせ無理」と諦めて無責任な個人発信と一緒くたになって煽ったら、プロの矜持はどこにあるのだ。

・ ならば、買い占めをどう報じればよいのか


ただ報じないだけでは報道機関にとって自殺行為になってしまうから、代わりに買い占め現象をどう報じるか。切り口は沢山ある。金太郎飴になることはない。例えば、ある商品に的を絞ってーーー

①現に商品棚が空っぽのある店から出発して、その仕入れ元を訪ね、そこにも品物が無かったら更にその仕入れ元を訪ね…とさかのぼって行って、その商品のストックがある所まで突き止める。

②そこから下流に行かなくなっている原因、例えば「配送手段が回り切らない事情」があるなら「トラックがあと何往復すれば(=何日後には)卸し先に届けられるか」を割り出す。

③ そこで反転して、今度はその日付情報を卸し先に伝え、「それならばそこから何日後に、そのもう1段下の卸し先に届けられるか」を尋ねる。

④そのプロセスを繰り返して、取材の出発点の商店にその商品が届く日を大まかに割り出し、商品棚に「次回は●日頃入荷の見込み」と掲示できるようにする。張り出されたその情報を見たときの、お客の反応を報道する。

ーーーこれは荒削りなアイデアだが、こういった報道をする効果は、《モデルを示すこと》だ。そのニュースを見た各商店が、「品切れです」という不安を煽るだけの逆効果な貼り紙でお客に怒鳴られる代わりに、自力で何を調べて掲示すれば《よりマシ》なのかを示すこと。現実はもう少し複雑だろうが、基本姿勢としてはこういう方向性で報道を考えてもらいたい。

★ここで参考にしたいのが、交通機関のトラブル時のアナウンスの仕方だ。電車が止まってしまった時、駅や車内のアナウンスで流れるのは、「〇〇駅で〇〇(車両故障とか人身事故とか)が発生し、運転再開は〇〇時頃になる」と言う内容。つまり、【①問題が発生している場所/②問題が起きている原因/③解決する時期】の三要素だ。

品不足と言うトラブルに当てはめれば、【①どこで流通がつっかえているのか/②その原因は何なのか(通常の配達システムが回転しきれないなど)/③何日後に商品が店頭に並ぶ見通しか】の三要素。これを知らせることが今重要なのであって、「空っぽの商品棚」と「在庫たっぷりの製造元」と言う両端だけを報じていても、今日起きている人々の買い占め行動は全く止まりはしない。人々は、「デマに踊らされている」のではなく、「目の前で現に起きている異変に自己防衛反応している」だけなのだから。


[2] 予測データの伝え方

昨日からしきりに報じられている、「東京の感染者数が予測より多くなっている」という話。その元になっているのは、厚労省が作成したこの紙だ。

200321/東京感染者数予測

https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/governor/governor/kishakaiken/2020/03/documents/20200323_06.pdf

当たり前の話だが、あらゆる予測データには《幅》がある。占い師じゃあるまいし、専門家がピタリと1つだけの数値を示すはずがない。大抵の場合は、最大シナリオと最小シナリオとその中間値(最もあり得そうな数字)の3パターンが算出される。

上記の発表には、その中間値だけが示されているのだろう。この「51人」に飛びついて「この予測を上回った!」と恐怖を煽るのは、あまり科学的とは言えない。(今は現実でも十分に恐怖なのだから、それを必要以上に非科学的態度で強調してしまったら、本当に社会が大混乱してしまう。)

取材者は、こうした発表を見たら必ず「上限と下限」も尋ねて、その想定される幅の中で昨日の感染者数はどういう位置にあるのかを報じるよう努めねばならない。(専門家は境界線の明示を嫌う。それは、実際に明示できないことだから。しかし目安でもいいから聞き出して、判断の手がかりを得ることに努めるのが記者の使命だ。) それは《油断》のススメではなく、《正確に恐怖すること》のススメだから。

★ここで参考にしたいのが、台風の進路予想だ。もし今回の東京の感染者数予測の発表のように、24時間後の台風の中心位置を“ある一点だけ”で気象庁が示したら、その情報を見た記者は当然「そこからずれる可能性は考えなくて良いのか」と質問するだろう。その疑問に答えるべく、進路予想は一点ではなく《コースの幅》を取り入れた“扇形”となり、やがて《スピードの幅》も取り入れた“予報円”へと進化した。

台風予報円サンプル


今回も、同じことだ。感染者数に限らず、これから様々な未知の予測に基づいて、私たちは政策や一人ひとりの行動を決めていかねばならなくなる。その時に不可欠なのは、この《予測の幅》の情報だ。その中で、今われわれはどのあたりにいるのか。それがわかるような表示の仕方を、各報道機関は次の紙面・次の放送から、もっとチームの総力で工夫してほしい。

[3] 政府や地方行政の決定の伝え方

例えば小中学校の休校を《要請》すると首相が言えば、人々はそれを《命令》と受け取って、全く感染者もいないし“3密”も心配ない山合いの小さな分校まで、泣きながら休校にしてしまう。

逆に、ある日付からの帰国者の2週間外出自粛を要請すれば、人々はその日付を絶対視して、それより1日でも早ければ「間に合った!」と喜んで、帰国した途端に平気で街中に出て行ってしまう。

今起きているこれらの現象から我々が改めて思い知ったのは、「日本社会は“おカミ”の発表に、それが厳しくても緩くても極めて従順に従い、自分の状況に応じた判断を加えたりはしない」と言うことだ。良くも悪くも。

この認識をベースにして、今後のロックダウン等のより強力な発表を報じる時にも、《どこまで各人の判断(緩める方向でも強める方向でも)の余地があるのか、その際の判断材料は何なのか》を、各メディアは徹底的に強調して伝えて欲しい。

もう一点。
首相や知事や市長の決定は、今後も揺れ続ける。それを「場当たりだ」「足並みが乱れてる」といった平時の決まり文句で批判する事を、メディアはもう少し自制できないだろうか。そうした無造作な批判は、小心なリーダーや官僚を追い詰め「叩かれるのを恐れる→変更を恐れる→前の判断に固執する」という、重大な弊害を招きかねない。臨機応変な柔軟性が、今は何よりも大切なのに。

手の平の上に立てた棒が倒れないようにしろと言われたら、必死にバランスを取ろうとして手を前後左右に動かすから、そこだけブレブレの写真になる。↓ (ひょっとこ口は、関係ない。)

スクリーンショット 2020-03-26 15.45.37

今、3・11原発事故の際の官邸同様、未曾有の危機の中で、すべての政策決定者はこの状況に置かれているのだ。棒の傾き方を見ながら、常に手の平のポジションを変えていかなければ、バランスが崩れて棒が倒れてしまうのだ。こういう非常時には、「手の平をフラフラ動かすな」と言う批判は、むしろ有害となりかねないことを、戦時下のメディアは自覚しよう。

冒頭の繰り返しになるが、これは「大本営発表を無批判に垂れ流せ」と言っているのではない。思慮の浅い決まり文句の批判をせず、政策決定に批判があるならばきちんと根拠となる情報と代案を取材・報道するのが、社会の一員たる戦時下のメディアのあり方ではないか。

「社会の混乱を助長するマスゴミを規制せよ」と言う文言は、これから急速に世間の支持を得ていく恐れ無しとは言えない。今は、数日あれば世界は変わる状況だ。拍手喝采の中で、日本社会が強制力を持ったメディア規制になだれ込んでしまう前に、1分1秒でも早く各メディアが《自律的な戦時体制》にマインドを移行させることを、強く願いたい。


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◆報道現場25年。「筑紫哲也NEWS23」「サタデーずばッと」等で取材キャスター ◆民間任用で内閣審議官。民主&自民の3政権で、首相官邸の広報を担当 ◆東大・慶応大・関西大などの教壇を経て、白鴎大特任教授 ◆令和メディア研究所主宰、「インターネットメディア協会」リテラシー担当理事
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