『オリンピア』などトークイベント三昧&15年ぶりにTOEIC受験 2024年1月末から節分までの日記
2024年1月26日(金)
会社から淀屋橋駅まで歩き、ちょうどいい特急列車が来るのを待つ。
京阪電車の特急にはプレミアムカーなど座席指定の有料車両があるのだが、いらん金は使わないという確固たるポリシーがあるので、特急を2本見送ったあと、ようやくいい塩梅の席に無料で座れる特急が来たので乗りこみ、終点の出町柳へ向かう。
鴨川を渡って下鴨神社の前を通り過ぎ、京都の夜ってこんなに暗かったっけなんて考えながら歩く。
出町座に着くと、ちょうどデニス・ボック『オリンピア』発売記念のトークイベントがはじまるところだった。訳者の越前敏弥先生、版元の北烏山編集室の樋口さん、CAVA BOOKSの宮迫さんが話し出す。
『オリンピア』は、第二次世界大戦後にカナダに移住したドイツ系一家を描いた物語である。新天地で暮らしながらも、ベルリンオリンピックの輝かしい記憶と戦争の忌まわしい記憶がつねに光と影のように一家につきまとう。やがて一家は再びオリンピックへの憧憬を抱くが、容赦のない現実が立ちふさがる……
憧憬は呪いなのかもしれない。この小説を読んで、そんなことを思った。
憧憬というものはかならずどこかで潰える。幻滅が待っている。
それでもやはり、私たちは憧憬を抱かずにはいられない。
主人公の「ぼく」は水中の世界に焦がれ、妹のルビーは空を飛ぶことを夢みる。化石のようなおとなたちとちがい、自分たちは進化を遂げている。自分たちは特別な存在だ。どこまでも深く潜ることも、どこまでも高く飛ぶこともできる――
だが、突然の嵐に一家は飲みこまれ、そんな自負や憧憬も打ち砕かれる。互いの信頼や家族の絆も散りぢりになりかける。
しかし、すべてが壊滅したかのように見えても、けっして損なわれないものがある。水没して廃墟となった町に、かつてそこで生きた人たちの証が朽ちることなく残っているように。
そうして新たな人生に一歩踏み出した「ぼく」の目の前で、ひとつの奇跡がくり広げられる。
この日のトークイベントの模様は、下の記事にもなっています。(無料版では最後まで見ることができませんが)
帰り、ふと出町座を振り返ると、映画『ゴーストワールド』のポスターがかかっていた。大昔、この映画の主人公の少女たちとさほど変わらない年齢だったときに観た記憶が蘇る。
憧憬がとうの昔に潰えた世界、あるいはそんなもの最初から存在しなかった世界で、幻滅ばかりが広がる荒野を生きる少女たちの物語だった。
あれから遠くまで来たような気もするし、結局いまでも出町柳の暗い道を歩いているとなにも変わっていない気もする。
駅に戻ると、ちょうど京阪特急が発車する時間だったので乗りこみ、ちょうどいい席に座って(もちろん無料で)、大阪へ帰った。
2024年1月27日(土)
昨日に続いて、今日は授業のあと、小竹由美子さんと越前敏弥さんの対談を聴く。
小竹さんはノーベル賞作家アリス・マンローの翻訳家として有名だが、いまもなお新進気鋭の作家をどんどん発掘して日本の読者に紹介している。
そもそもアリス・マンローがノーベル賞を受賞する前から日本でたくさん翻訳されていたのも、小竹さんの尽力によるところが大きい。
最近は移民系作家を多く手掛けられていて、シリア系アメリカ人作家ディーマ・アルザヤットの『マナートの娘たち』や、ヒスパニック系アメリカ人作家カリ・ファハルド=アンスタインの『サブリナとコリーナ』が翻訳出版された。どちらも絶品の短編集なので、ぜひとも読んでほしい。
そして小竹さんが紹介されている移民系作家の原点が、ゼイディー・スミスではないだろうか。ジャマイカ系イギリス人である作者は、2000年に20代前半の若さで『ホワイト・ティース』でデビューして話題を呼んだ。
ロンドン出身のアーチーと、バングラデシュ出身のサマードの友情を軸として、それぞれの家系を数世代にわたって描いた長編小説である。
というAmazonの説明を読んでも、なにがなんやらだと思うが、事実、さまざまな登場人物が入り乱れ、それぞれが抱える背景や感情が錯綜し、曼荼羅図のような世界がくり広げられる。これを20代前半で書いてのけた作者にただただ感服する。
2024年1月28日(日)
およそ15年ぶりにTOEICを受けた。もちろん転職活動のために。
頑張ったら家から自転車でも行ける距離なのに、雨のなか京阪とJRを乗り継がないといけないのがつらかった。
案の定、リスニングでは「いまなんてった?」と思っているうちに次の問題に移る事象が発生した。
TOEICについては、また後日ゆっくり書こうと思うけれど、まあでも、金土と忙しかったのに日曜に試験を受けた自分えらい! 一応、TOEIC対策として問題集2冊ほど解いたし……と、誰も言ってくれないので、とりあえず自分で自分に言いきかせる。
2024年2月3日(土)
この日は生配信とトークイベントをハシゴする。
生配信の方はプライベートなものなので内容は書かないが(この日記すべてがプライベートちゃうんかという感じだが)、楽しく観終わったあと、上岡伸雄さんと越前先生のトークイベントへ。
この日のテーマは黒人文学だったが、質問コーナーで以前上岡さんが訳されたアンドリュー・ショーン・グリア 『レス』について、続編が出ているようだが翻訳出版される予定はないのか尋ねてみた。
すると残念ながら、予定はないとのお答え。出版社から打診はないらしい。
それほど売れていないのだろうとおっしゃっていたが、以前私が本の感想NOTEで紹介したところ、海外小説のわりには意外に反応がよく、結構読まれた記事なのだけど、出版社の期待ほどには売れなかったのだろうか?
いまあらためてNOTEを読み直してもおもしろいと思うし(自分の感想ではなく小説が)、LGBT文学という側面からでも売りようがあるのではないかと思うけれど……続編は原書で読むしかないのかな。
この日は節分だった。小さい頃から、節分の日はどこかしらの方向を向いて巻き寿司にかぶりつくのが当たり前の行事だったので、大きくなって関西だけの風習だったと知って驚いた。
そして近年、その恵方巻というものが、クリスマスのケーキやバレンタインのチョコレートに近い風物詩になってさらに驚いた、というか、ちがう世界の風習のように思えてきた。
というわけで、当然巻き寿司は買わず(高いので)、冷蔵庫に残っていたキャベツを豚肉と炒めて食べた。
(でもやっぱ節分というと鬼は欠かせない。PV界の最高傑作、世界に誇れる作品ではないだろうか)