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会議で発言するのは怖い?(まちの不思議 おもしろ探究日記 #4)

(本記事は雑誌『社会教育』に掲載された記事を転載しています。)

市のPTA連合会の理事会の帰り道、いつも全く発言しない理事の方といろいろと話をしていたら、その日の議題について、ものすごくしっかりとした意見を持っていて驚いたことがある。
「なんで理事会で発言しなかったんですか?」と聞いてみたら、「私はみんなの代表として参加してるだけだから、私の意見は言わないことにしてるんです。」と言うからさらに驚いた。

それでは会議に参加しているのが彼女である必要はなくなってしまうし、私が聴いた一人の保護者としての彼女の素敵な意見もなかったものになってしまう。
それはなんてもったいない事なんだろう。

また別の話で、市の特別支援教育について検討する委員会に、特別支援学級の保護者代表として、PTAの学級代表委員を務める友人が選ばれた。
真面目な友人は、まずクラスの保護者向けにアンケートを配布し、困っていることをヒアリングした。
そして、保護者たちからは様々な意見が寄せられたが、1つ1つの意見があまりに多様で個別の事情であふれていて、どの意見をどう伝えたらいいのかわからず、結局ほとんど発言することができなかったと言っていた。
これもまた、もったいない話である。

これまでいろんな会議に参加してきたが、どんな会議でも発言しない人というのはいて、こういった会議の場で発言することを、難しい怖いことだと思っている人も多いようである。
つくづくもったいない話である。

様々な立場の人が一堂に会する会議

私はこの3月まで、東京都の子供・子育て会議委員を引き受けていた。
都の子育て施策について、様々な立場から人が集まり意見を述べていく会議で、私は子育て中の当事者としての声を届ける、都民代表としての公募枠での参加であった。

都内に住む子育て中の友人たち一人ひとりの顔を思い浮かべながら、その声を届けることが私にできるのだろうかと責任も重く感じていたが、実際に会議が始まると、普段は聞けないいろんな立場の方の話を聞くことができ、とてもおもしろかった。

子育て支援を専門に研究する大学の先生、区市町村で子育て施策を進める行政職員の方々、保育園や幼稚園などの現場の事業者の方々、労働組合の代表の方、医療関係の方、父親支援に取り組むNPOの代表の方など、本当に様々な立場の方々が一堂に会していて、普段の子育てが、これだけ多くの人に支えていただいているという事を実感する機会にもなった。
一方で、そういった専門家の方々の話を聞けば聞くほどに、この中には実際に今未就学児を子育て中の保護者という人はほとんどおらず、私が持つ「子育て中」という当事者性が、この場ではとても貴重なんだということも実感した。

会議は当事者性を持ち寄る場

子育て中の当事者だからこそ伝えられるものとはどういうものなのだろうか。
まずは、実際に子育てする中で、こういうことに困っているからこうしてほしいといった具体的な要望がある。
次に、様々な事業に対して、実際に活用しているのか、活用していないのかといった具体的な行動と、その行動の理由がある。

話を聞いていいなと思っても、実際には使わないといったこともよくある話で、その本当の理由にこそ、事業改善のポイントがあることも多いのである。
他にも、子育てをしている中で実際に感じたことや感情なども、当事者しかわからない情報である。

こういった私にしか伝えられないことを中心に会議で発言をしていたら、議長の方から「保護者としての立場からの貴重なご意見ありがとうございます。今後もぜひこのような発言をお願いします。」と毎回のように言っていただいた。
その言葉を聞いて、会議に参加してよかったと嬉しく思った。

会議というのは、それぞれが持つ当事者性を持ち寄る場である。
団体を代表して会議に参加しているという事は、その団体が持つ当事者性が求められているという事なのである。
だからこそ、その会議における自分が持つ当事者性は何であるかを認識し、その当事者性の中で伝えられることを掘り下げていくことが、大切なのではないだろうか。

解像度が上がるとより楽しい

会議に参加する中で、議題となっている子育て支援計画は、子育て支援に関する法律が関連しているらしいということがわかり、せっかくの機会なので子育て支援の法律について、放送大学の講座を受講してみることにした。
もともとあった児童福祉法と新しくできた子ども子育て関連三法の関係性や、どういった事業がどういった根拠によって行われているのか。そういった背景を知っていくと、国の子育て支援に対する考え方や、都や市がどう対応していっているのかといったことも少しずつ分かるようになり、難しく感じていた資料もスラスラと読み進められるようになっていった。
そして、会議中の他の人の発言の意味もより理解できるようになり、どんな言葉を使えば相手に伝わりやすいのかといった工夫もできるようになった。
そうやって工夫した会議での発言は、ある意味で「私はこういう考えを持つ人である」という自己表現であり、それを他の方に受け止めてもらえるという事は、それもまた嬉しいことでもあった。

また、そうやって会議に参加したり学んだりしたことを、もっと多くの人に共有していきたいなと思うようになり、「子育て×政治で考えてみよう」というのをテーマに、話をする場を定期的に開いてみることにした。
すると、都内に限らず全国各地から友人たちが参加してくれ、子育て施策に思う事を話してくれた。そして、友人たちが抱える不安や課題の中で、私自身が強く共感したものは、次の会議で伝えるようにした。
そういった循環もまたおもしろかった。

このように、委員会などの会議に参加するという機会に、学び、表現し、共有していく事で、自分や社会に対する解像度をどんどん上げていく事ができるのである。
現在参加している方も、これから参加する方も、ぜひ怖がらずにその機会をフルに活用して、楽しんでもらえたらいいなと思う。


▼ 雑誌『社会教育』


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