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心動かす社会教育士に(まちの不思議 おもしろ探究日記 #5)

(本記事は雑誌『社会教育』に掲載された記事を転載しています。)

9月に社会教育士の養成課程をすべて終了し、晴れて「社会教育士(養成課程)」と名乗れるようになった。
これまで様々なことを中途半端で終えてきた私としては、1つこれと言えるものを手に入れたような達成感も感じている。

文科省が認める資格ということで、友人などから「社会教育士ってどんな資格?」「社会教育士になったら何ができるの?」と聞かれることも多く、期待が集まっているのも感じる。

私がなぜこの資格を取ったかと言うと、一つには、自分がやっていることが説明しやすくなるだろうという期待がある。
自分が生活の中で感じる課題を社会課題として扱い、それを周りの人と共有しながら、自分たちでまちの暮らしをつくっていく。
そういった在り方や専門性を、「社会教育士」だと名乗ることで、理解してもらいやすくなるのではないかと思っている。 

地域を巻き込んだ講座づくりに挑戦

社会教育士の資格を取るにあたって、必須の科目として社会教育実習がある。
せっかくならば今後の活動につなげていければと思い、お隣の市立公民館で実習を行うことにした。

実習内容は、公民館の主催講座を企画することである。
実習の課題としては、これまでの自分だけで作ってきた学びの場とは違う、地域にいる様々な方々をつなぎ合わせながらの学びの場づくりに挑戦をしてみたいと考えた。

講座をつくるにあたって、私自身が抱える生活課題をベースにしようということになり、まさに今自分が抱えている「障害者のまちの友だちづくりの支援」について扱うことになった。
障害児の母親として、友人たちとも共通の悩みとして頻繁に話題にあがるものでもあり、どうやったら障害者がまちで豊かに暮らしていく人間関係をつくっていく事ができるのかといった、これからの共生社会に欠かせない大きな社会課題である。

この課題に、「共生社会のマナビ」という文科省が取りまとめた、障害者の生涯学習の推進を担う人材育成の取り組みの紹介を掛け合わせて、学びの場をつくれないかということで講座づくりがスタートした。 

講座づくりを進めていく中で、障害者の余暇支援活動を行う団体を立ち上げた方にお会いし、そのパワフルさに感動し、事例紹介としてお話しいただくことになった。
また、公民館の事業として障害者と共同運営するカフェのスタッフの方にもお話を聞き、当日は活動を紹介しながら、飲み物を提供いただけることになった。
さらに、文科省の取り組みを中心となって進めていた先生もご紹介いただき、講演をお願いすることになった。

私一人の活動ではお会いできないような方々と話をしていく中で、この「障害者のまちの友だちづくり」というテーマは、障害者の親としてはとても身近な課題に感じられるが、支援者の立場からはほとんど語られることのなかったテーマであるという事も実感した。
そのため、まずはこのテーマのもとに人が集い出会う機会をつくり、そこに集まった方々と次の学びを広げていくといったことを狙いとして、講座を組み立てていくことになった。 

テーマを深堀りする難しさ

こういった関係者の広がりにワクワクする一方で、この「障害者のまちの友だちづくり」というテーマを深掘りしていく難しさを感じる場面が何度もあった。
なぜ「友だち」という言葉を使うのかと問われ、「友だち」という言葉が持つ多様な側面による誤解を生む可能性を何度も指摘された。
一方で、「友だち」という言葉を問い直すという事が、障害者が主体的に対等な人間関係を構築していく、といったことについて、一歩踏み込んで考えるきっかけになっているのも感じた。
この言葉が諸刃の剣であることは感じながらも、一歩踏み込んだ対話のきっかけとして、あえてこだわりながら企画を進めていった。

講座当日は、講座づくりの過程で出会った方々も多く参加してくださり、障害者の保護者・支援ボランティア・施設職員・大学生など多様な方々がたくさん集まってくださった。
立場を超えて意見交換をし、今後の学びの場づくりに向けたつながりをつくることができた有意義な時間になった。

その一方で、対話としては、踏み込んだ話というよりは表面的な話も多くなってしまった印象もあった。
「友だち」という言葉に引き付けすぎてしまったことで、概念的な話も多く、かえって対話の焦点がぼやけてしまったのである。
参加者の方からも、もう少し違う形をイメージしていたというような、厳しめのご意見もいただいた。

感動体験を熱伝導する

終わった後、いつも活動を共にしている友人から、「今日の場で、玲ちゃんが一番伝えたかったのは何だった?」と問うLINEが届いた。

一番は、「共生社会のマナビ」の取り組みと、講師の先生の「関係性の物語で発達を捉える」という視点かな。ここに豊かに暮らすためのヒントがある!って、感動したんだよね。

そうだよね!最後にしてくれたその話が一番おもしろかった!「友だち」という言葉より、玲ちゃんが感動した話が前面に出てたら、もっと深いところまで話せてたかもね!

それは、場の深まりが足りないと感じた私が、最後にこれだけは、とお願いして講師の先生に話してもらった内容だ。
なるほど、講座づくりの過程でテーマを深堀りしていく中、私は何に心を動かされて、何を伝えたいと思ったのか。
結局は、この「感動体験」こそが対話の土台になるのである。

そして、この感動をどう伝えていくのか。
どうやったらその感動を、参加者の方々に追体験してもらえるのか。
それこそが講座の学びの核になり、大事なのは「感動」という心の動きをどう熱伝導させていくのかという視点であり、学びはそこからしか始まらないのだ。

私はこれから、そんな、心を動かす「社会教育士」として、活動を展開していきたいと思う。
改めて、とても大切な気付きを得ることができた社会教育実習であった。
貴重な機会をいただいたことに、本当に感謝をしたい。


▼ 雑誌『社会教育』


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