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「自分の荷物は自分で持つ」

1年前の、初夏に差し掛かったある日のこと。
私は久しぶりに朝ではなく午後に愛犬とお散歩に出かけた。毎日3キロ歩くいつもの散歩道の途中に緩やかな下り坂がある。すると、その坂の下から3人の子供たちがキャッキャッと楽しそうにはしゃぎながらこちらに向かって来た。小学4年生ぐらいだろうか。男子2人と女子1人。すれ違う際、男子の1人が私に声をかけてきた。田舎暮らしならでは。見知らぬ人でも「こんにちは!」と挨拶し合う。「こんにちは!うわぁ、可愛い犬!触ってもいい?噛み付かない?吠えない?」そう聞くので、「こんにちは!もちろんいいよ、このコは絶対噛み付かないし吠えないから!」と笑顔で答えた。

男子の1人が続けて言う。「僕のお姉ちゃんがランドセルを持ってくれているの!僕たち疲れたから!」3人の関係性はたぶんお姉ちゃん・弟・弟の友達なのだ。私はふと女子に視線を移す。自分のランドセルを背負い両肩にそれぞれ男子2人分のランドセル。

私はその女子に「今日は陽射しが眩しいね、暑いし… 大丈夫?重くない?」と聞いた。女子は「全然大丈夫!」と、仕方ないから持ってあげているんだよねぇみたいな笑顔で答える。疲れたと言う弟たちを想ってなのだろうか?そういえば私が小学生の頃じゃんけんで負けたら皆のランドセルを持って次の電柱まで歩く、電柱まで着いたらまたじゃんけん。そうしながら友達たちと帰宅することもあったなぁ…そんなことを思い出しながら、でもまぁ3人とも楽しそうな雰囲気だし「じゃぁ、バイバイ」と言って過ぎ去ろうとした。その瞬間。

坂の下から90歳に近い年老いたお婆さんがゆっくり歩いて来て、その子供たちを大声で怒鳴り付け始めた。「ちょっと!あんたたち!何してるの!学校に言付けるわよ!自分の荷物は自分で持ちなさい!」私は、咄嗟の出来事にびっくりして振り返った。男子2人は、慌てて自分のランドセルをお姉ちゃんから受け取る。男子の1人は「だって、疲れたって言ったらお姉ちゃんが持ってくれるって言ったんだもん!」云々と伝えていたが、お婆さんは容赦無い。子供たちもだが私も、その気迫に圧倒されるといった感じだった。

子供たちが何処の小学校からどのぐらい歩いて来たのかも、移住してから4年目とはいえ地理感のない私にはわからなかった。ただ、男子たちはお婆さんに怒鳴られた後しっかり自分たちのランドセルを背負った。

その後、私は歩き出しながら考えていた。私が甘かったのかな?あの男子2人に優しく諭すように?例えば「お姉ちゃんとはいえ、君らは男のコなんだから女のコ1人に重いものを持たせるのはどうかな?」とアドバイスしたらよかったのかな?とか。でも男女は関係なく、お婆さんは【自分の荷物は自分で持て】という当たり前といえば当たり前のことを言ったわけだ。そんなに大声で怒鳴り付けなくても…とは内心思ったが…。ちなみに子供たちの表情を見たり会話を聞いた限り、お婆さんは血縁関係ではなくただのすれ違った他人。

その日、帰宅した旦那様にそのお話しをしてみた。12歳年上の旦那様は「いやぁ、胸がスカーッとする話しだね!この時代にもそんな婆さんがいるのか!日本もまだまだ捨てたもんじゃないな」と笑いながら言った。なるほど、そうなのかもしれない。「何歳だろうが男たる者、自分が持てるのに目の前で女に重い荷物を預けて歩かせたらいけない」とも。

次に同じような光景を目の当たりにしたら、私のかける言葉ももしかしたら変わってくるのかもしれない。

それから1年ちょっとが過ぎた。同じ道を通ると、この出来事をふと思い出す。私の1人息子はもう23歳だけど、もし仮に自分の息子が小学生の頃に友達にランドセルを持たせて歩いているのを見たら私は「自分の荷物は自分で持ちなさい」と迷わず言ったと思うのだ。そして、もし仮に他人に息子が注意を受けても腹は立たない。

でも私はやっぱりどれだけ年齢を重ねても、いきなり怒鳴り付けたりはできないだろうな。

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