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それでも世界は美しい

自分のダンス人生の半分以上の期間、ずっと好きでいるカンパニーが来日公演を行った。今のパートナーと付き合うキッカケになったそのカンパニー公演のチケットを取る際、安くはない額なので念のためパートナーに聞いてみると即答で「行く!」と言うので二人分を発売初日に押さえた。

前から4列目のほぼドセンターなんて席は今まで座ったことが無い。ダンサーが低い姿勢になってしまうと少々見づらい席ではあったがダンサー達の息遣いや繊細な所作がしっかり見える席だったのはとても良かった。

演目はこの数年の新作ばかり集めたトリプルビル。出演ダンサー数は3作品いずれも7〜8名。しかしながらムーブメントの大きさや存在感の重さゆえその数倍の人数が舞台に乗っているように感じる。テイストの異なる作品ではあったが共通して根底に流れるのは全世界的な不穏な空気感。足掻いても所詮愚かな人類の行く末は決まっている…的な絶対的な諦めムードに気分が落ち込むかと思いきや「ならば!」と鼓舞される。グリム童話や日本昔話がそうであるように人間は残酷で身勝手で独りよがりな生き物であると教訓をこれでもかと植え付けられるからこそ、そうならないように歩む耐性が備わるのだと僕は個人的に思っている。

夢物語ばかり聞かされているとその場しのぎの幸福感は得ることが出来るが、危機管理能力は反比例して激減していくものだと思う。勿論希望が無ければ生き続けるのは辛い。こんなに文明が進んだ現代でも宗教が無くならないことから見てもそれは明らかだ。だから希望を持つな!とは思わない。程良い希望は生きる糧になってくれるし、厳しい現実から束の間解き放ってくれるはずだ。

正しく諦めて少しだけ期待に胸膨らませる、過剰に期待せずたまに舞い込む朗報はたまたまの偶然だったと思い込む。心に少し余裕がある時に目を上げればちっぽけな自分の心情とは関わりなく世界は意外にも美しい。そんな風に生きていたいと常に願っているが、その程度で良いんだよと安心させてくれる舞台だった。

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