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All of us Strangers

何故安くもない料金を払って映画館で映画を観たいと思うのか。映画が好きだから、の理由だけで十分なのだが細々と心理をほじくり返すのが好きなのでちょっと考えてみる。

「映画館」という非日常な空間で鑑賞する愉しさは筆頭に挙げられるだろう。不特定多数の他人と肩を並べて虚空を漂う様々な感情を肌で感じながらスクリーンに没入する。これはどんなに素晴らしいホームシアターでも味わえない醍醐味。誰かと一緒に観劇する事が死ぬほど嫌いな性分なのに家で独りきりで観るのも嫌い。例え横でボリボリ煎餅を食べられたとしても見ず知らずの他人と一緒に映画を観るのはとても居心地が良く感じるのだ。横の煎餅が大好きなご婦人は一体何を考えて此処に居るのだろう…と気にしつつそんな事が全く気にならないほど惹き込んでくれる映画に出逢った時の勝利感たるや何物にも変え難い。

つまり、ある程度のノイズや煩わしさというものは適度なスパイスとなり映画そのものの評価を底上げしてくれる、というわけだ。

映画の持つ現実と虚構の端境の曖昧さが全面に押し出された映画との出逢いは更に格別だ。現実離れしたSF映画やスプラッターホラーやスラップスティックコメディも確かに楽しいのだが、それよりも一見平凡な日常を描きつつ周到に練られた非現実のオブラートを纏っているような作品を観ていると束の間パラレルワールドに連れ去られ現実の自分を俯瞰で見下ろす体験へと引き摺り込まれる。甘ったるいハッピーエンドなどとは無縁の余りの喪失感に頭の奥が麻痺してしまう作品だったりするとヘヴィー級のカタルシスに襲われ観終わった後も席を立てなくなる。

この二つの醍醐味を味合わせてくれた映画「異人たち」を上映終了2日前に観られたのも、この心の奥に降り積り続ける大粒の雪のような気分を誰かとシェアしようにも出来ない「独り占め」願望を満たすために誰かが導いてくれたのではないか…と信じたくなるタイミングだった。

ポスターはこちらの方が好み

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