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透明人間

僕は大上段に振りかぶっておりゃー!と振り下ろすタイプでは無いと思春期に悟った。嫌がる僕を尻目にクラスは一致団結して毎期のように僕を学級委員に選ぶ。何故こんなにも人見知りで専制君主タイプとは真逆の人間を長に立てるのか、その頃は全く理解できずホームルームで何かを取りまとめなければならない時間が苦痛でしか無かった。

そんな僕が大人になっても人前に立ってあろうことか恥ずかしげもなく踊ったり喋ったりしている。これは一体どういうことなのか…世の中の理不尽さに苦悩を通り越して苦笑が漏れる。

もうだいぶいい大人なのでたまに課せられる仕切り人の役割は黙って全うすることにしている。心の中にはもっと適任な人がいるはず…と思いつつもきっと僕にしか出来ない役割というものも在って任されている事も理解出来るから必要最低限の仕事をこなして忍者のようにササッとその場を去る。「どうだ?俺のお陰で今の君があるんだ!有難いと思え!」なんて古の演出家みたいな風情はこれっぽっちもない。なんなら、手柄は全てスポットライトを浴びるべき人にお譲りしたい。

今週も間もなく関わった舞台の幕が開く。日替わりキャストのトップバッターはお二人ともベテランの役者さん。お一人は過去に苦手なダンスの振付を踊って頂いて人一倍陰で練習していらした姿にとても感動したお方。そしてもうお一方は御歳80歳の重鎮。どんなにベテランでも何処の馬の骨か分からない僕のような人間にも裏表なく平等に接して下さり細かなダメ出しにも「はい」と快活に答えてその場で何度も練習して下さる。その姿を見ていると僕も一生涯天狗にならずに真摯に生きていこうと決意を新たにする。

そうなのだ。「こんなにすごい事をやったり伝えたり出来るんだ!」なんて思ってる暇はない。僕に出来ることは本当に少なくて世の中のために何の役にも立ってないと感じるぐらいが丁度良いのだ。

「星の王子様」の会場は映えなスポットが満載
古き良きアメリカの劇場のようなサイン

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