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アニメならではの表現だから面白い

つい先日までYouTubeで『海底超特急 マリン・エクスプレス』というアニメが配信されていた。
このアニメは24時間テレビで放送された手塚治虫さんの長編アニメで、夏休み特別企画としてYouTubeで9月10日まで配信されていたのだそうだ。

このアニメを見た時、僕はある箇所を見て「手塚さんらしい表現で面白いな」と思った。
それはオープニングのキャスト紹介だ。

……

「え?」と思われた方も多いだろう。

声の出演のクレジットがあったのは『海底超特急 マリン・エクスプレス』のエンディングだった。
そして大抵のアニメなら下から上へ流れていくクレジットが今作では逆に上から下へと流れていったことからも印象に残っていて覚えているという方は多いに違いない。

だが、僕が“オープニングのキャスト紹介”と書いたのは決して勘違いして書いたとかわざと嘘を書いたとかでは決してないことをご理解頂きたい。

『海底超特急 マリン・エクスプレス』のオープニングを思い出して頂けるだろうか?

……

先頭を歩くのは探偵の伴俊作を演じるヒゲオヤジ、次が医師のブラック・ジャックを演じるブラック・ジャックだったはずだ。そして後ろから2番目は武器密輸に関わるランプを演じるアセチレン・ランプ、最後尾は念力の使い手であり本作のラスボスでもあるシャラクを演じる写楽保介だった。写楽君は転んで、ランプに連れて行かれるという所からオープニングアニメーションが始まった。

そう。手塚さんは“スター・システム”を取り入れていて自分が描いたキャラを俳優として扱っていたのだ。
だから『海底超特急 マリン・エクスプレス』の“キャスト”は正確にはエンディングで富田耕生さんや武岡淳一さん、野沢那智さん等が紹介されているのだが、オープニングでもヒゲオヤジやブラック・ジャック等が紹介されているということになる。

自分が描いたキャラを役者としてオープニングで紹介出来るのは漫画やアニメのような創作物ならではだ。

また、『海底超特急 マリン・エクスプレス』には次のような表現もあった。

冒頭で探偵の伴俊作は自分の依頼人であり海底鉄道建設公団の理事長であるスクリージ・シャイロック(演じたのはフランケンシュタイン)の元を訪ねたのだが、シャイロックは既に殺された後だった。
伴は逃走を図る殺人犯を見つけて追跡し、追い詰めたものの背後から近づいてきたもう1人の犯人に頭を殴られて気を失ってしまった。
その後、伴は医師のブラック・ジャックに見つけられ、治療を受けて目覚めるのだが……。
もうお分かりだろう。
ブラック・ジャックが請求する治療費は高額だ。
請求書を見た伴はびっくりして飛び上がった勢いで天井をぶち抜いてしまったのだった。

皆さんはびっくりして飛び上がって天井をぶち抜いたことはあるだろうか?

……

「あるかい!」と突っ込まれて然りの質問をしてしまって申し訳ない。
びっくりして飛び上がって天井をぶち抜くというのはアニメや漫画ならではのギャグだ。
現実世界でそんなことはまずあり得ない。

だけど皆さん、こんな表現を使ったことはないだろうか?

「目玉が飛び出すほど驚いた」
「口から火を吹くほど辛い」
「地の果てまで追いかける」

いくら驚いても本当に目玉が飛び出すということはあり得ないし、いくら辛い物を食べたとしても本当に口から火を吹いたら大変だ。
こういった言葉は実際にそうなったりしたというわけではなく極端表現の比喩として使われている。

先程の質問に対して「あるかい!」と思われた皆さんにもう1度質問させて頂こう。

皆さんは飛び上がって天井をぶち抜くくじらいびっくりしたことはあるだろうか?

……

今度は「ある」と答える方も少なからずいると思う。
実際に飛び上がって天井をぶち抜いたというわけではなく、極端表現を使えばそれくらい驚いたという意味として受け取ることが容易となるからだ。

だけどアニメや漫画のような創作物ならば実際に飛び上がって天井をぶち抜く描写はある。
しかもぶち抜かれて穴が開いたはずの天井は次のコマ(もしくはシーン)では直っていたりするということも多々あるのだ。
これが現実と創作物を隔てる壁の1つだ。
現実世界ではあり得ないようなことも創作物の中でなら十分に起こり得るのだ。

最近のアニメだと『ラブライブ!スーパースター!!』の2話目で留学生の唐可可(タン・クゥクゥ)ちゃんがスクールアイドルの練習で疲れてしまい、授業中に居眠りしてしまうシーンがあった。
そしてその後お約束通りに「この問題の答えは?」と先生に当てられる。
大抵のアニメだと……というよりも、現実世界でもそうだが授業中に居眠りしていたら先生が出した問題を見ることは出来ないから、起きていれば分かる問題でさえ答えられないというオチになって「ちゃんと起きて授業を聞いて下さい」と先生に怒られるか、もしくは「夜ちゃんと寝られてる?」と心配されることになるだろう。
ところが可可ちゃんは居眠りしていたにも関わらず、当てられて速攻で問題に答えたのだ。
そして先生から「正解です」と言われると、可可ちゃんは「おやすみなさ~い」とまた寝てしまったのだった(←これはこれで怒られそうだぞ……)

皆さんは……と、先程のような突っ込まれて然りの質問は省こう。

「目をつぶっても正解できる」
「こんな問題なら寝ていても分かる」

こういった極端表現は現実世界ではあくまでも比喩止まりだが、創作物の中では可能なのだ。

ちなみに今回出している漫画も絵ならではの表現だということがお分かり頂けるだろう。
エッシャーの騙し絵である『ペンローズの階段』を参考に描いたものだが、こんな階段は現実世界には絶対に存在しない。絵ならではの表現なのだ。
この絵を描くことになった経緯はこちら。


主にアニメの例を挙げたが、アニメだけでなく漫画にしろ映画にしろドラマにしろコントにしろ漫才にしろ歌にしろ絵にしろ創作物の中では現実世界では有り得ないことが結構な高確率で発生する。
これはしっかりと理解しておかなければ困ることになる。

5月頃、『スーパーカブ』というアニメに対して一部からクレームが付けられたことがあったそうだ。
そのクレームとは自動二輪免許を取得した主人公の高校生が原付二種バイクで同級生と2人乗りするシーンがあったことに対して「原付2種取得後の1年間は2人乗りは禁止」というものだったのだそうだ。

僕は見ていなかったので『スーパーカブ』のことは詳しくは知らないのだが、アニメや漫画やドラマ等の創作物では現実世界ではやってはいけない自転車の2人乗りが描かれることも多々ある。
宮崎駿監督の作品である『となりのトトロ』でもサツキとメイのお父さんが自分が乗る自転車の前にメイ、後ろにサツキを乗せているシーンがあるので、『スーパーカブ』でも似たようなものなのではないだろうか?

ハライチの岩井勇気さんはこの件に対してツイッターでこう述べたそうだ。
「アニメ内の原付二種の2人乗りが、免許取得1年以内で違反ではないかと指摘されてるけど、そういう人はルパン三世観て『窃盗は犯罪行為だから放送するな!』ってクレーム入れ続けてんのかな」
「アニメの中の出来事を違法行為だなんだ制作にクレームつけるのは現実と二次元がごっちゃになってるようで中途半端なんだよ。フィクションと認識してるくせに現実の基準に当てはめてるんだよ」
「本当の二次元脳ならアニメの中で違法行為が目についた時、警察に通報するんだよ」

岩井さんのツイートはこれ以上ないくらいの正論だと思う。

「『ちびくろサンボ』は黒人差別だ」
「『赤ずきんちゃん』は男女差別だ」
「『クレヨンしんちゃん』のげんこつは虐待だ」
「『ドラえもん』でしずかちゃんのお風呂を覗く描写は規制しろ」
「『ハリー・ポッター』は悪霊を呼び出すから規制しろ」

これらのクレームはまず表現の自由の侵害に当たる。
「見て不快だった」とか「楽しめなかった」というような感想ではなく、「差別」とか「虐待」というような根絶しなければならないものであるかのように言っているということは完全な表現規制に当たるのだ。
また、創作物に対する表現規制ばかりをやっていれば本当に根絶しなければならない現実世界での差別や虐待が放置されてしまう危険もある。
さらに表現規制を推し進めようとすればそれによって自分自身に対する規制も誘発されることになってしまうだろう。

だからクレーマーを擁護するわけではないが……

注意された時に「うっせえわ!」
風邪を引いた子に対して「死ね!雑菌野郎!」
失敗した子に対して「次やったら坊主!」

現実世界でそんなことを言い出す者がいればクレームに拍車をかけてしまうことは確実にあり得る。
そして創作物内だからこそ認められている表現を現実世界で表に出したりすれば最悪の場合は罰則をくらっても文句は言えないだろう。

創作物内の世界と現実世界には壁があるということをちゃんと理解しておかなければ最終的には自分が困ることとなるのだ。

僕自身、自戒の念を込めてこう考えるようにしておきたい。

創作物特有の極端表現は“アニメや漫画のような創作物ならではの表現だから面白い”と。

最後に……

『海底超特急 マリン・エクスプレス』の制作に関わった皆さんへ。
8月に見させて頂きましたが、大変面白かったです。
“マリン・エクスプレス”は最新鋭の列車らしさと手塚さんらしい昆虫の顔を思わせるデザインが印象的でした。
伴俊作がブラック・ジャックから500万円という多額の治療費を請求されたことがまさか伏線になるとは思わなかったので、終盤の展開には驚かされました。

『ラブライブ!スーパースター!!』の制作に関わっておられる皆さんへ。
『ラブライブ!』は2015年にNHKで無印版が再放送されていた頃に知ったのですが、知った時期が遅かったにも関わらずドはまりしてしまいました。
無印版だけでなく、『サンシャイン!!』や『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』のアニメも面白かったですし、今回の『スーパースター!!』も期待通りの面白さを見せて下さり、特に3話や6話ではギャグもありつつかのんちゃんの格好良い所もたくさん見られて良かったです。
今回の『スーパースター』ではメンバーが5人だけだったり学校が新設校だったりと新要素も多かったですが、同時に無印版へのリスペクトを感じる描写も多く感じました。
今後の展開も楽しみにして見ていきたいと思います。

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