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SFの歴史
SF(Science Fiction : Sci-Fci)の定義
まずは定義から確認。
5人のSF作家による、「SFとは何ですか?」の回答をおさえる。
①ロバート・A・ハインライン
”読むことのできる大半のSFの手軽で簡単な定義は、過去や現在の現実社会や、科学的手法の性質と重要性の十分な知識に基づいた、可能な未来のできごとに関する現実的な推測”
②ロッド・サーリップ
ファンタジーは不可能なことを起こりそうに描いたもの。
サイエンス・フィクションは起こりそうもないことを起こりそうに描いたもの
③アイザック・アシモフ
単に宇宙船や宇宙人が登場するのが、サイエンス・フィクションではなく、価値観の転倒による驚き(=センス・オブ・ワンダー)が必要
④長山靖生
新しくて古い。
遡ればどこまでも古く、人類の想像力の始まりの地点までも遡れる。これを厳正に定めるものは1920年代を成立とするのが常例だ
⑤大森望
SFの4つの指標
1.科学的理論を基盤とする。また異世界でもどこかで現実とつながってる
2.現実の日常ではぜったいに起きないようなことが起こる
3.読者の常識を覆す独自の発想がある
4.既存の(疑似)科学的なガジェット・アイデアがある
SF史
①~近代以前
・2世紀
ルキアノス:『本当の話』『イカロメニッパス』
…月の世界。世界の小ささを実感する
日本:『竹取物語』『浦島太郎』
…時空のゆがみの描写
・8世紀
『アラビアン・ナイト』
・14世紀
ダンテ:『神曲』
…天動説宇宙論に基づく天界の設定
・1620年頃
ヨハネス・ケプラー:『ケプラーの夢』
…地動説に基づいた月世界の旅
・1657年
シラノ・ド・ベルジュ:『月世界旅行記』
…最初のロケットによる月旅行を描いた
・1666年
マーガレット・キャベンディッシュ:『The Blazing World』
…北極に異世界があるという設定
・1741年
ルドヴィ・ホルバーグ:『Niels Klim's Undergrpound Travels』
…地球空洞説の設定
・1752年
ヴォルテール:『Micromegas』
…異星人が来訪するという設定
・1816年
メアリー・シェリー:『フランケンシュタイン』
…SF的怪奇小説
・19世紀
エドガー・アラン・ポー:『ハンス・プファールの無類の冒険』など
…科学知識に基づく設定
②SF創世記
本格的なSFの始まりを牽引したといえば、この二人だろう。
フランスのジュール・ヴェルヌと、イギリスのH・G・ウェルズだ。
ジュール・ヴェルヌ
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『気球に乗って五週間』(1869)、『月世界旅行』(1865)、『海底二万里』などにみられるように、彼のSFの立場は〈科学の進歩がもたらす新世界への冒険・世界の拡張〉。科学がもたらす人間への恩恵=光の部分を描こうとする。
とはいえ、『インド王妃の遺産』では当時の科学的見地を用いたり、『国旗に向かって』『二十世紀のパリ』では、科学の支配へ強い警鐘をならしていたりと、全肯定していたわけではない。
H・G・ウェルズ
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『タイムマシン』(1895)が顕著だが、彼のテーマはヴェルヌと相反する。〈科学の進歩がもたらす世界・生物の終焉〉=科学の闇の部分をテーマにする。
これにより「生物の終焉」というSFテーマが確立した(『最終戦争の夢』(ウェルズ)、『渚にて』(ネビル・シュート)、『幼少期の終わり』(アーサー・C・クラーク))。
また、多くの未来世界におけるガジェットを発明したことも知られる。
ex.タコ型星人、透明人間、冷凍睡眠、最終戦争など…
③ロボットとアンドロイド
ウェルズによってもたらされた科学の闇の部分は、次の世代に「急速な科学技術の発展や普及の危惧・警告」の立場をつくりあげた。
『R.U.R(ロッサムの万能ロボット社会)』(カレル・チャペック.1921)
…人間に代わる労働力としての人造人間=「ロボット」の単語の誕生
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『未来のイヴ』(ヴィリエ・ド・リラダン.1886)
…特定の人物のコピーとしての人造人間=「アンドロイド」の単語の誕生
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さらに、『フランケンシュタイン』(メアリー・シェリー)の影響もあり、「ロボットは製作者を破滅させる」プロットが確立し、アイザック・アシモフによる「ロボット三原則」を成立させた。
④黎明期
アメリカでウェルズのSFが、未来予測的・科学礼賛な希望に満ちた科学小説として再燃した。
『ラルフ124C41』(ガーンズバッグ.1911)
…未来予測的、当時にはなかった100の未来道具
ex.テレビ、ラジオ、プラスチック、自動販売機、睡眠学習、科学繊維
『火星のプリンセス(火星シリーズ)』(エドガー・ライス・バローズ.1912)
…科学的な中世ファンタジー(剣と魔法)=ヒロイック・ファンタジー
「スペースオペラ」(1920年代)…宇宙を舞台にした活劇。バローズの影響
『銀河大戦』(エドモンド・ハミルトン)
『レンズマンシリーズ』『スカイラーク』(E・E・スミス)
『ロボット植民地』『ガス状生物ギズモ』(マレイ・ラインスター)
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「アンチ・ユートピアSF(ディストピア)」(1920~1930年代)
…楽観的な空想だけでなく、科学の急速発展への倫理的歯止めを求める視点
『ドウエル教授の首』(アレクサンドル・ベリャーエフ)
『1984年』(ジョージ・オーウェル)
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⑤SFの黄金期時代:1940年代
それまでの荒唐無稽な小説であったSFに、”リアリズム”が導入されだす=ハードSF。これは、SF誌『アスタウンディング』の3代目編集長:ジョン・W・キャンベルの影響が大きい。
『2001年宇宙の旅』(アーサー・C・クラーク)
『われはロボット』(アイザック・アシモフ)
『夏への扉』(ロバート・A・ハインライン)
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さらにキャンベルは、当時の”こころの構造論(ダイアネティック)”に傾倒し、疑似科学的SFも量産した。
その後、第二次世界大戦がはじまると、紙の不足から過去のSFアンソロジーが広く出版される。と同時に、原子爆弾の発明で、SFが「未来を予測する洞察的文学」と評価される。
⑥社会的・風刺的テーマのSF:1950年代
キャンベルらによるSF誌の普及が、さらにSFを広める。より当時の社会に反映した作風がブームになる。
『ギャラクシー』誌(ホーレス・L・ゴールド)
…社会学的な未来予測を主導
『ファンタジー&サイエンス・フィクション』(アンソニー・バウチャー)
…文学的な作品を主に掲載
またこの時に「破滅もの、終末もの」という、冷戦・核戦争などによる現実的な人類滅亡の問題をあつかうテーマがうまれた。たとえば『渚にて』(ネビル・シュート)は、核戦争による死の灰の世界を描く。
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⑦ニュー・ウェーブSF:1960年代
イギリスを中心に、SFを対象を外宇宙(科学)から内宇宙(人間的問題)へ移す、文学的な前衛作品たちが登場する。
『狂風世界』『残虐行為展覧会』(J・G・バラード)
『地球の長い午後』『一兆年の宴』(ブライアン・オールディス)
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(フィリップ・K・ディック)
『宇宙大戦争』『死の鳥』(ハーラン・エリスン)
『禁じられた惑星』(ロバート・シルヴァーバーグ)
『バベルー17』『エンパイア・スター』(サミュエル・R・ディレイニー)
『光の王』(ロジャー・ゼラズニイ)
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⑧サイバー・パンク:1980年代
インターネットの発明、量子論、宇宙開発などのできごとが、SFの世界観にあらたな側面を生む。
1984年のウィリアム・ギブソン『ニューロマンサー』はサイバー・パンクの祖であるし、同じくブルース・スターリング『ネットの中の島々』も先導していった。
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『動力が衰えるとき』(ジョージ・アレック・エフィンジャー)
『時空ドーナツ』『ラッカー奇想博覧会』(ルーディ・ラッカー)
⑨インターネットの普及によるSFの拡張:1990年代
独自の世界が、個々に確立していった時代。また古典作風の見直しやアレンジ、再設定なども試される
「ニュー・スペース・オペラ」
…冒険小説プロットとサイバーパンク的なガジェットの装飾的文体。英国作家が中心となった。
『コンクリート・ジャングル』『シンギュラリティ・スカイ』(チャールズ・ストロス)
『啓示空間シリーズ』(アレステア・レナルズ)
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「スチーム・パンク」
…サイバーパンクから派生。2000年代後半から人気を博す。
『ディファレンス・エンジン』(ウィリアム・ギブスン、ブルース・スターリング)
『移動都市』(フィリップ・リーヴ)
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「ニュー・ウィアード」
…SF・ファンタジー、ホラーを融合させた作品群。
『インスマスの影』『クトゥルフの呼び声』(H・P・ラブクラフト
『ゾディーク幻妖怪異譚』『彼方からのもの』(C・A・スミス)
『バス=ラグシリーズ』『ジェイクをさがして』(チャイナ・ミエヴィル)
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「ヤング・アダルト作品」
…10代を中心にしたSF作品。
『ハンガー・ゲーム』(スーザン・コリンズ)
『ライラの冒険』(フィリップ・プルマン)
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日本のSF
①戦前
作家としては押川春浪、海野十三などが空想小説を発表。
1857年の『西征快心編』(巌垣月洲)はアジア植民地の開放を扱い、『新未来記』(ペーター・ハルティンク、近藤真琴)は日本初の翻訳SFとされる。
また、古典SF作品を学問として探求した人物として、横田順彌、長山端生などがあげられ、それによれば日本最初のSFは『悦贔屓蝦夷押領』(恋川春町.1788)とされる。
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②戦後:1950~1960年代(SF作家第1世代)
日本のSFが本格化した。1954年に日本最初のSF誌『星雲』、1957年にSF同人誌『宇宙塵』が創刊したことは大きい。
その後、1959年から『S-Fマガジン』創刊、1962年に第1回日本SF大会の開催とつづく。
また、戦後初の本格的なSF長編は『刈得ざる種』(今日泊亜蘭)とされる。
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小松左京『日本沈没』『さよならジュピター』
筒井康隆『時をかける少女』『旅のラゴス』『パプリカ』
半村良『石の血脈』『英雄伝説』
光瀬龍『宇宙年代記シリーズ』
平井和正『ウルフ・ガイ・シリーズ』『幻魔大戦シリーズ』
豊田有恒『大戦争シリーズ』『鉄腕アトム(シナリオ)』
眉村卓『僕と妻の1778の物語』
星新一『ボッコちゃん』
今日泊亜蘭『光の塔』『宇宙兵物語』
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③1970年代(SF作家第2世代)
1974年に『奇想天外』、1979年に『SFアドベンチャー』、『SF宝石』、1982年『SFの本』など、続々とSF誌が創刊されていった。
そこで活躍した、特に以下の作家を「SF第2世代」と呼ぶ。
堀晃『恐怖省』『マッドサイエンス入門』
横田順彌
田中光二『黄金の罠』『血と黄金』
山田正紀『神シリーズ』『神獣聖戦シリーズ』
かんべむさし『課長の厄年』『サイコロ特攻隊』
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④1980年代(SF作家第3世代)
1982年の『SFの本』で活躍した作家を指す。
野阿梓『花狩人』『月のイドラ』
神林長平『敵は海賊シリーズ』
大原まり子『一人で歩いていった猫』
火浦功『未来放浪ガルディーン』
草上仁『くらげの目』『よろずお直し業』
新井素子『扉を開けて『グリーン・レクイエム』
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⑤ライトノベル・ホラーへの拡張:1990年代
「ライトノベル系レーベル」
…スペース・オペラの影響を強く受けた作品が多い
野尻抱介『ロケットガール』『天使は結果オーライ』
山本弘『妖魔夜行シリーズ』『アイの物語』
嵩峰龍二『ソルジャー・クイーンシリーズ』
笹本祐一『ARIELシリーズ』『ミニスカ宇宙海賊シリーズ』
古橋秀之『ある日、爆弾が落ちてきて』
上遠野浩平『ブギー・ポップシリーズ』『恥知らずのパープルヘイズ』
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「日本ファンタジーノベル大賞」(1989)、「日本ホラー小説大賞」(1994)など、SFの文学賞が創設されたことで、より様々な作家が登場した。
酒見賢一『墨政』『ピュタゴラスの旅』
鈴木光司『リング』『らせん』『仄暗い水の底から』
瀬名秀明『パラサイト・イヴ』
北野勇作『昔、火星のあった場所』『生き物カレンダー』
高野史緒『カラマーゾフの妹』『ムジカ・マキーナ』
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参考文献:『現代SFの歴史』.ジャック・サドゥール,鹿島茂,鈴木秀治.早川書房.1984
〆
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