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【番外編】中国と台湾の関係をややこしくする「世界観」の違い

最近中国と台湾の関係がよくニュースになっており、中には近いうちに戦争が始まるのではないかといった不穏な話もあったりします。

一方で台湾にとって最大の貿易相手国は中国であり、中国本土で儲けている台湾企業も少なくないため、両者の関係は第三者にとってかなりわかりにくいと思います。

また、この問題は単純に「中国人」と「台湾人」の対立ではなく、一口に「中国人」、「台湾人」と言っても立場によって大きく変わってきます。

例えば私の場合はパスポートは中華民国(台湾)ですが、ルーツは完全に中国にあるため、自己紹介を行うときは「台湾籍の中国人です」という言い方をします。
(この言い方をする時点で私の立場がわかってしまいます)

しかし、日本人の方からすれば「何でお前は台湾人じゃないんだ?」と疑問に持たれることもあります。

この疑問に対して説明するためには、中国と台湾を見るときの「世界観」の違いから説明する必要があります。

まず、前提として、中国と台湾は別々の政府がそれぞれ実効支配しており、言語こそほぼ同じですが、文字(繁体字と簡体字)も通貨(台湾ドルと人民元)も政治体制(自由民主主義と社会主義)も異なります。

この状況をどのように見るかは次の3つの「世界観」に分けることができます。

1.完全に別々の国という世界観

何世代も台湾で生まれ育ち、「台湾人」としてのアイデンティティが強い人や、外国人にとってはこのように見えるのが自然です。

この世界観では以下のようになりますので、王貞治さんも「台湾人」になってしまいます。
●中国人=中華人民共和国のパスポートを持っている人
●台湾人=中華民国(台湾)のパスポートを持っている人

いわゆる「台湾独立派」もこの世界観に基づいていますが、中国共産党にとってはこの世界観は最大のタブーです。

実際に別々の政府なんだからこの世界観以外何があるんだという人もいますが、歴史的経緯から次のような見方もできてしまうのがこの問題のややこしいところです。

2.台湾は中国の一部という世界観

つぎが中国共産党の公式の世界観で、おそらく中国の偉い人は本気でそう思っていると思います。

中国共産党の立場から見ると、1949年の内戦に勝利して中国本土を支配することができたが、台湾だけは国民党という反政府勢力が居座ってしまったという状況です。(今は民進党が政権を担っていますが、中国共産党から見ると反政府勢力になってしまいます)

私が中国本土に行くときは中国の出入国審査のみに使用する「旅行証」というパスポートもどきを使います。これは建前上は「中華人民共和国の国民」として扱われます。

ちなみに、私が小学生時代に国民党の教育を受けたことがありますが、そのときの世界観は以下の図になります。要は立場が逆というだけで、本質的には同じ世界観です。

これは1の世界観を持つ人には到底受け入れられないものですが、世界には同じように中央政府の実効支配が及ばない地域で国家を名乗っている例もあります。

(参考)ジョージアの領土内にある事実上独立した地域

3.中国を文化圏とみなす世界観

3つ目の世界観が「中国」という一つの世界があり、その中でいくつかの政権があるという見方です。イメージとしては「三国志」の世界で、それが今は「二国志」になっているという感じです。

ここでの「中国」は国家というよりは中華文化圏といった緩いものであり、誰が中華の代表かはそのときの状況によって決まるというものです。

若き日の秦の始皇帝が出てくる「キングダム」という漫画もこの世界観をよく表していると思います。

中国では歴史的に統一と分裂を繰り返していますが、五胡十六国、五代十国とバラバラに分裂しても最後は統一に向かうのはこの世界観によるものではないかと考えています。

ちなみに中国と台湾の間で「92コンセンサス」(民進党政権は認めていない)というものがあり、中国共産党もこの世界観なら対話は可能というスタンスです。

良し悪しではなく「見えているもの」が違うだけ

ここまで挙げた3つの世界観はあくまで見る人の立場によって「見えているもの」の違いであり、それ自体の良し悪しを戦わせても意味がないと思います。

人によっては私のこの考え方自体が「許せないもの」に見えるかもしれませんが、それはその人と私の世界観が違うことが根底にあるため、どちらが正しい、間違いというものではないと思います。
(なので、「お前は間違っている!」と言われても反論はしません)

今回は世界観の違いを述べるにとどめたいと思いますが、中国と台湾のややこしい関係はこれだけでは伝えきれないところもありますので、別の機会でまた書きたいと思います。

今回もお読みいただきありがとうございました。



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