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1人暮らしがどうやら4年目に入るようでして

転居転送サービスの期限付き郵便物を見て、現在の賃貸での暮らしがそろそろ1年を迎えることに気づく。それはつまり、1人暮らしを始めて丸3年、もうじき4年目に突入することを意味していた。

とにかく早く家を出たかった3年前。毎日のように山崎実業とニトリと無印のサイトを往復して、インスタの投稿を片っ端から参考にして自分の理想の1人暮らしの部屋を作り上げるかを考えていた。とにかく白を基調にしたくて冷蔵庫から電子レンジからベッドフレームも、机に椅子も。そして、窓のなかった実家の部屋では付けることが出来なかった憧れのカーテンまで全て白で統一させることにした。細かなところでいえば、ドライヤーはSALONIAのホワイト。

実家を飛び出して築き上げた真っ白の城は、初めて手に入れた自分だけの。誰にも邪魔をされない空間のような気がして、すごく大切だった。身体も心も壊れかけていた時期だったから、誰かがその空間に来ることを私の心はとてつもなく拒んだ。

引っ越し祝いにひまわりが似合うから、と花束を持ってきてくれた当時のパートナー。嬉しいはずなのに、相手が部屋にいる時から嫌悪感を抱き、帰ってからどうしようもなく自分のテリトリーを汚された気持ちになった。申し訳なさと、好きなはずなのに近づいて欲しくない矛盾した気持ちで、目に付く場所のすべてを掃除しないと気が済まなかった。

とにかく、1人になりたかったのだと思う。
そして、独りになりたかったのだと思う。

けれど、なりたかった独りの状態はこの上なく1人であることを痛感させた。どんな作業も家事も手続きも、自分がやらないと他に誰もやる人がいないことを痛感した。それは1人になる自由とは引き換えに、背負う宿命だった。

まだ使える、と既にくるりと丸まった歯磨き粉をギリギリまで残しておく。今日の帰りに買おうと決めて、帰宅後に買い忘れた時の絶望たるや。買うも消費も自分だから、上手く携帯のカレンダー機能を使って明日こそは、と自分自身と約束をする。

実家で水回りやトイレ掃除をしたことは、恐らく数えるほどしかなかったと思う。それすなはち、排水溝のぬめりと格闘したことがなかった。そして1人になって初めて、それらの掃除にどんな用具が、洗剤が必要なのか。どれくらいの頻度で消耗するもので、ネットで購入するほうがいいのか、それとも近所のドラッグストアがいいのか。まるで考えたことのない世界線だった。

次月の電気代の請求書の金額が頭に浮かんで、暖房や除湿のスイッチを押すのを一旦ためらう。電子レンジと洗濯機のコンセントは基本抜いておく。暑いから、寒いから、と自分の感覚で無料で電子機器を使えることがいかにありがたいことであったか。

実家にはいつでもバナナと納豆があった。どれだけ食事が摂れなくなっても、バナナ半分と納豆半パックだけは食べていた私。自宅という場には、その2品は当たり前にあるものだと思っていた。けれど、1人で暮らして3パックですぐになくなる納豆より、3本束のバナナよりも、なんだかもっと買うべき品がある気がしてなかなか手が伸びない商品だ。というか、実家で食べていた、特に果物がいかに嗜好品だったかを痛感する。

そして、いつもあった母の手作りの料理。実家を出る時は、もう食欲なんて1mmもなくて、極小の胃袋の私は手料理をタッパーごとぶん投げて捨てていた。ありがたみにこれっぽちも気づけなかった。身体と心の全てが、「食事」を拒んでいたから、当時の自分を決して責めないけれど、今になってもっと母の味を食べたい、この先も食べていたいと思ってしまう。どんなに高級な肉も魚もいらないから、母の卵焼きと圧力鍋で作ったいわしの梅煮とそれから鮭の南蛮漬けを贅沢にずっと食べていたい。

1人暮らしを始めて1年半ほど経って、近くのお豆腐屋のお姉さんと仲良くなった時。私がアルバイトから帰る度に顔をのぞかせると、「おかえり」と言ってくれた。そうか、おかえり。いい言葉だと思った。実家に帰った時のぶわっと安心する匂いと、母のキッチンからすたすたとやってくる足音を思い出した。

1人になりたくて独りになって。けれど、1人ではなかった時にあまりにも愛を、支えを受けていたことに気づく。

最近はよく実家に行く。納豆もバナナもあるし、母は沢山おかずを作ってくれて毎回嬉しくて泣きそうになる。父は掃除にゴミ捨てを当たり前のようにやってくれてしまう。無料だ、と気づけないほどに当たり前だと思っていた環境が、実は当たり前ではないことに遅ればせながら気づく。

私なりに、少し床を掃除して帰ったり。一品だけ作ってみたり。1人になって、独りになって気づいたありがとうを伝えていきたい。そして、同時に4年目の1人暮らしも足るを知りながら。家事は6割で満点を肝に銘じて。

のんびり楽しんでいこうと思う。

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