それなのに

海はあなたに恋をしている

あなたは海を愛している

ふたりは同じあお色をして同じ景色を見ている

それなのにわたしはどうして

山の中にひっそりとたたずむ湖の

わたしにはどうして

あなたはたまにしか顔を見せてくれないの?

そのすこやかな笑顔を

こんなにも恋しがっているというのに

そりゃあ、海とくらべれば

すこし小ぶりではあるけれど

海と同じような形をしていて

さざ波だってたてられる

それなのに。

あなたはわたしに色を分けてはくれないから

自分であおをつくりだすよ

土の中に混じった鉱物や誰かが落とした指輪や

よどんだ水草やちいさな魚たちのうろこから

自分自身のあおをつくりだすよ

あなたの力なんか借りなくても

あなたになんか愛されなくても

わたしはあおをつくりだせるよ

でもあなたは知らないでしょう

わたしの底には沈没したボートやへどろ

腐った死体などが沈んでいることを

それらはわたしのあおのひとつになり

より深いあおを作り出すために必要なの

わたしのことをしたたかだと思うでしょう

でもね  たくましくならないと

あなたへの想いはつらぬけないんだよ




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?