マガジンのカバー画像

れいちぇるフォトを使ってくださったnote

627
みんなのギャラリーに公開している私の写真を使ってくださった方々のnote☺︎
運営しているクリエイター

2019年7月の記事一覧

きみの背中が、見えなくなっても。【ショートストーリー】

さっきまで何度も保安検査の手順を確認していたきみは、一度もこちらをふり返らずにゲートをくぐって行った。 きみは、リュックを背負いなおして前を向く。 12歳。まだ細く頼りない背中だけど、ずいぶんと大きな荷物を背負えるようになったものだ。 出発ゲートの場所を教えようと携帯を鳴らしても、応答はない。 大丈夫。きっと、大丈夫。 デッキへ行きたい気持ちを抑え、駐車場へ向かった。 さて、今日はなにをしよう。 きみがいない2週間、わたしは十数年ぶりの一人暮らし。 「定刻通りの予

その声、その笑顔

 ロビーには、アナウンスが繰り返し流れている。  アナウンサーの優しくて朗らかな声が、広いロビーに游いでいる。  この朗らかで、柔らかなメロディーの中で、  わたしの意識が、別の時空に飛び込まれそうだった。  ある名もない峰の端っこに、明るく朗らかな声が響いでいる。  それの声の持ち主は、宏大な空を駆ける鷲。  その青くて、ひろびろとした大地を覆う物の下で、  麗らかなくじらの鳴き声は、海の中に悠悠と広がっている。  それに、果てが見えない野原で、きわめて速い足を持つ

お母さん

心細くて、頭がぼうっとしていた。 前日によく眠れなかったのもいけなかった。 ひとりで、子を連れて途立つ。 途方もなく難しいことに思える。 胸に抱いた我が子は、椅子に座ると火が付いたように泣くのだ。 いつもはゆらゆらと歩いてやり過ごすけど、離陸ではそれもできまい。 心が静かに波立つ。 重いリュックを背負い、帆布の鞄を持つ。 搭乗まで、眠る子を祈るように見つめる。 ふと見ると、見知らぬ女性がにっこり笑って私の鞄に手をかけていた。 「機内まで持ちましょうか、お母さん」

ただいまと、さよならの故郷

生まれ育った場所から飛び立って行くのは、何度経験しても、慣れない。 歳を重ねて、住む場所が変わって、自分の生活に忙しくなって。家族や友達が待つ街へはなかなか帰らなくなった。 そうやって生きていくことを選択をしているのはまぎれもなく私なのだけど、たまの帰省に久しく触れていなかった温かさに触れると、旅立ちの日がいつまでも来ないで欲しいと、つい願う。 もちろんその願いは叶うことはなく、帰りのチケットを使うその日はやってくる。 見送られるまでの時間は、なるべく自然に、いつもの

叶えたい事ひとつ、今年も追いかけたい。

今年も「旅する日本語展」の企画がやってきた。私はどうしても、この企画だけは喉から手が出るほど受賞したい。受賞して飾られたところを見て欲しい人がいるから。なので、今年は昨年よりも頑張りたい。 +++ 昨年もちょこちょこと応募したのだけれど、まぁ難しかったのを覚えている。原稿用紙1枚分で綴るのは思ったより表現に限りがあり難しく、そして想像以上に面白かった。この企画がきっかけで書く事の楽しさに目覚めたと言っても過言ではないほど。 昨年は4つか5つしか書けなくて、かすりもしな