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灼熱の夏に木々は眠る

何年か前の事だ。

夜でも窓を開けられない位、気温の高い日が続く夏があった。風も吹かず、雨も降らず。

外を歩くだけで息苦しい、そんな夏の日。

ふと思い立って徒歩15分程の公園へ出かけた。凄く久しぶりなので、公園の木や鳥と話をするのが楽しみだった。

公園の入り口で、私は異変に気付いた。

しーんとしている。

いつもなら、この辺から楽しく木々が歌う声、お喋りに花咲く鳥が囀る歌が流れてくる筈だ。

どうしたんだろうと思いながら公園に足を踏み入れ、近くの木に挨拶をしてみる。

こんにちは。

暑いですね。

何も言わない。

そもそも、気配がないのだ。これは大変だ、きっとみんなどこかへ隠れているのに違いないと思いながらぐるぐる歩き回っていると「きゃー」という嬉しそうな悲鳴が聞こえる。

百日紅だ。

どうやら、百日紅さんたちは、元気なようだ。

みんな、どうしちゃったの?

そう尋ねると百日紅さんは「眠ってるのよ」と答えた。「暑いから悪いものがくるから魂を抜かれないようにね」そう答える声もあった。

比較的年寄りの百日紅さんが補足する。「こう暑くて雨も降らなければ木は死んでしまう。水を貰っても、もう意味はないんだ。太陽は照りつけるのだし、雨は降らないのだし、眠ることでしか命を保てない木がここには多くある」

つまり、冬眠ならぬ夏眠ということらしかった。

息苦しい程の暑さ、そりゃあ、確かに眠った方が楽かも知れない。

涼しくなればみんな起きる、という言葉を信じてその日は家に帰った。

そして、お庭の木に「あなたは夏眠しないの?」と聞いてみた。

答えはなかった。

寝てんじゃん。

私が気が付かなかっただけで、そういうことは自然に行われていたのだ。

今年の夏は、どうだろうか。暦の上ではもう、秋になろうとしているが。

涼しくなる夕方にでも、また公園に「今年はどうですか?」と遊びに行こうと思う。

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