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筋トレは「誘惑に負けない自分にしてくれる」という最新の系統的レビュー

 目の前にケーキがあっても、減量をしているときは我慢することができます。

 このとき、私たちの脳では、認知機能の実行機能が働き、減量するためにケーキを我慢するという行動を選択することができます。

 このように、仕事の目的(この場合は減量)を達成するために、計画を立て、選択や修正をしながら行動する認知機能のことを実行機能(Executive Function)といいます。

 実行機能には主に抑制的制御、ワーキングメモリ、認知的柔軟性の3つの機能があります(Reimann Z, 2020)。

 抑制的制御は「目的の達成に不適切な行動を抑える機能」です。減量中にケーキを食べることは不適切なので、抑制的機能が働いて我慢することができます。

 ワーキングメモリは、並列処理のことで「もともともっている情報や新たな情報などを一時的に保持する機能」です。減量中であれば、現時点での体重や体脂肪率、その日の摂取エネルギー、目標をのために制限するべき食事量など多くの情報を並列処理することで、ケーキを我慢するという判断につなげることができます。

 認知的柔軟性は「問題が起きても柔軟に対応する機能」であり、食べ過ぎたら、次の食事で調整しようと判断することができます。

 減量やダイエットなど、食べたい欲求を抑えながら、目的を達成するためには、実行機能をしっかりと働かせることが重要になります。

 そして、最新のシステマティック・レビュー(系統的レビュー)では、筋トレがこの実行機能を高める効果があることが報告されました。

*システマティック・レビュー(系統的レビュー)とは、これまでの研究結果をまとめて解析し、全体としてどのような傾向があるかを示すエビデンスレベルがもっとも高い研究デザイン

 今回は、筋トレが実行機能を高めるという最新のエビデンスをご紹介しましょう。

 


◆ 最新のシステマティック・レビューの結果とは?


 筋トレが実行機能に及ぼす影響について、これまでに報告された研究結果をまとめて解析したのがブリガムヤング大学のHuangらです。

 Huangらは、19の研究結果(被験者692名)を対象して、筋トレの強度別(低・中・高)による実行機能(抑制的制御、ワーキングメモリ、認知的柔軟性)に与える効果について解析しました。

 その結果は以下のようになりました。

・中強度の筋トレでは、13/18の研究報告(72.2%)で実行機能を高めることが示されました。
・低強度および高強度の筋トレでは、それぞれ4/7の研究報告(57.1%)、7/17の研究報告(41.2%)で実行機能を高めることが示されました。

 これらの結果から、低強度または高強度よりも中強度で行う筋トレは、もっとも実行機能を高めることが示唆されたのです。

 また、抑制的制御に対しては、どの強度のトレーニングでも有効であることも示唆されました。

 Huangらの系統的レビューから、目的を達成する実行機能を高めるためには、中強度のトレーニングが有効であり、目標達成に不適切な行為を我慢する抑制的制御はどの強度のトレーニングでも効果がある可能性が明らかになったのです。


◆ そのメカニズムを知っておこう!


 なぜ、筋トレによって実行機能が高まるのかというと、Huangらは「覚醒度」にそのメカニズムがあるとしています。

 覚醒度に関する脳の重要な部位に青斑核−ノルエピネフリン系(LC-NE系)があります。脳幹にある青斑核が活性化されるとノルエピネフリンが放出され、覚醒度が高まります。

 現代の脳科学では、運動によりLC-NE系が部分的に活性化することが報告されています。そのため、筋トレをすることによってLC-NE系が活性化され、覚醒度が向上し、実行機能が高まると推察されています。

 さらに、LC-NE系の活性化は運動強度と逆U字型の関係があり、中等度の運動強度がもっともLC-NE系を活性化させることが報告されています(Mather M, 2020)。これは、中強度の筋トレが実行機能をもっとも高めるという今回の知見につながりそうなメカニズムとしています。

 その他にも筋トレによって脳の神経栄養因子であるBDNFやIGF-1などの分泌量が増加することが実行機能を高めるメカニズムとして推察されています。


◆ 筋トレは誘惑に負けない意思を与えてくれる


 Huangらの系統的レビューは、筋トレが目的を達成するための認知機能である実行機能を高める効果がある可能性を示唆するものであり、とくに中強度のトレーニング強度が有効であることを示したことに価値があると思われます。

 この研究結果から、仕事の前に筋トレを行ったり、ダイエット中に筋トレを行うことは、実行機能を高め、目的を達成する後押しをしてくれることが期待できます。

 とくに減量やダイエット中にケーキなどの甘い誘惑に負けないための認知機能である抑制的制御は筋トレにより高まりやすいため、筋トレは誘惑に負けない意志を与えてくれるかもしれませんね。



◆ 参考文献

Reimann Z, et al. Executive functions and health behaviors associated with the leading causes of death in the United States: A systematic review. J Health Psychol. 2020 Feb;25(2):186-196.

Huang TY, et al. Effects of Acute Resistance Exercise on Executive Function: A Systematic Review of the Moderating Role of Intensity and Executive Function Domain. Sports Med Open. 2022 Dec 8;8(1):141.

Mather M, et al. Isometric exercise facilitates attention to salient events in women via the noradrenergic system. Neuroimage. 2020 Apr 15;210:116560.


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