筋トレとジョギングをすると「筋トレの効果が減少する」〜そのエビデンスと予防法を知っておこう!
「筋トレとジョギングをすると筋トレの効果が減ってしまうのは本当ですか?」
良く聞かれる質問ですが、現代のスポーツ科学はこう答えています。
「確かに筋トレとジョギングをすると筋トレの効果は減少する」
「しかし、それを予防する方法もある」
今回は、筋トレとジョギングをすると筋トレの効果が減少する科学的根拠(エビデンス)とその予防法の最新エビデンスをご紹介しましょう。
トレーナーやスポーツ選手、ボディメイクで筋肉量を増やしながらダイエットしたい方は知っておくと良いと思います。
◆ 筋トレの効果を減少させる「干渉効果」とは?
ボディビルダーは重いバーベルを持ち上げられますが、フルマラソンは走れません。
マラソンランナーは重いバーベルを持ち上げられませんが、フルマラソンは走れます。
このように「筋力」と「持久力」というのは相反する運動能力であり、筋肉にはその運動に適応する「特異性」というものがあります。
ボディビルダーのように重いバーベルなどで高い収縮力を筋肉に与えると、それに適応するように筋力が増強され、筋肥大が生じます。
マラソンランナーのように長い距離を走ることは、低い収縮力で長く収縮できるように筋肉を適応させます。そのため、筋力増強や筋肥大はあまり生じません。
このように筋肉には与えられた運動条件に合わせて機能を適応させる特異的な性質があるのです。
しかし、いろいろな場面で筋力トレーニング(筋トレ)と持久力トレーニング(持久力トレ)の両方を取り入れることがあります。
例えば、ボディメイクのために筋肉量を増やしながら、ダイエットもしたいというときには、筋トレにジョギングやサイクリングなどの有酸素運動を追加して行うことがあります。
また、スポーツは筋力と持久力という相反する運動能力が必要になります。たとえばサッカーは90分走れる持久力とアジリティといった瞬発力が求められます。そのため、多くのスポーツのトレーニングでは筋トレと持久力トレを組み合わせたコンカレント・トレーニングが行われています。
しかし、ここに「落とし穴」があることをひとりの研究者が発見しました。
1980年、イリノイ大学のHickson博士は、20代の被験者を集めて、筋トレと持久力トレを組み合わせて行わせた結果、筋トレのみを行った場合よりも筋力増強、筋肥大の効果が低下することを世界ではじめて報告しました。
Hickson博士は、筋トレと持久力トレを組み合わせて行うと筋トレの効果が減少する(干渉が生じる)ことから、これを「干渉効果(interference effect)」と呼びました(Hickson RC, 1980)。
この報告をきっかけに「筋トレとジョギングを行うと筋トレの効果が減少する」ということが一般的にも言われるようになったのです。
◆ 筋トレの効果を減少させる干渉効果のエビデンス
Hickson博士が干渉効果の存在を報告してから約40年、多くの検証が行われてきましたが、その結果は干渉効果を支持するものだけでなく、否定するものもありました。そのため干渉効果の有無について多くの議論が続いていたのです。
この議論にひとつの結論を示したのがタンパ大学のWilsonらです。
2012年、Wilsonらは干渉効果について報告された21の研究結果をまとめて解析するメタアナリシスを行いました。
*メタアナリシスとは、これまでの研究結果を統計的手法により全体としてどのような傾向があるかを解析するエビデンスレベルがもっとも高い研究デザイン。
メタアナリシスは筋トレのみ、持久力トレのみ、筋トレ+持久力トレの3条件における筋肥大、筋力増強、パワー増強の効果への影響について解析されました。
まずは、筋肥大の効果への影響から見ていきましょう(カッコ内は効果量を示しています)。
筋肥大の効果は、筋トレのみがもっとも高く(1.23)、ついで筋トレ+持久力トレが高く(0.85)、持久力トレのみがもっとも低い(0.27)ことが示されました。
Fig.1:Wilson JM, 2012より筆者作成
つぎに筋力増強の効果への影響です。
筋力増強の効果は、筋トレのみがもっとも高く(1.76)、ついで筋トレ+持久力トレ(1.44)、持久力トレのみ(0.78)となりました。
Fig.2:Wilson JM, 2012より筆者作成
さいごにパワー増強の効果への影響です。
パワー増強の効果は、やはり筋トレのみがもっとも高く(0.91)、ついで筋トレ+持久力トレ(0.55)、持久力トレのみ(0.11)となりました。
Fig.3:Wilson JM, 2012より筆者作成
これらの結果から、筋トレに持久力トレを組み合わせると、筋トレのみと比べて筋肥大、筋力増強、パワー増強の効果が減少することが示唆されました。
Wilsonらのメタアナリシスの結果は、筋トレに持久力トレを組み合わせると筋トレの効果を減少させる干渉効果が生じるか否かという議論に「干渉効果は生じる」というエビデンスを示したのです(Wilson JM, 2012)。
では、なぜ筋トレとジョギングをすると筋トレの効果に干渉効果が生じるのでしょうか?
◆ 干渉効果のメカニズムを知っておこう!
干渉効果のメカニズムは明らかになっていませんが、その要因として現時点では「残留疲労」と「AMPKの活性化」の2つが挙げられています。
ジョギングなどの持久力トレを行うとエネルギーのもととなる筋グリコーゲンが減少するとともに、微小な筋損傷が生じます。このような状態を「残留疲労」といいます。残留疲労が生じた状態で筋トレを行うと筋肉のタイプⅡ線維を多く動員することができなくなります。
筋力増強やパワーの増強は、高強度トレーニングや高速度トレーニングにより収縮力が強く、収縮速度の速いタイプⅡ線維を多く動員させることが有効になります。しかし、持久力トレによる残留疲労があるとトレーニングのパフォーマンスが低下して十分にタイプⅡ線維を動員できなくなります。これにより、筋力やパワーを増強させる効果が減少するとされています。
また、残留疲労はトレーニングの総負荷量も低下させます。
筋トレによる筋肥大の効果は、筋肉のもととなる筋タンパク質の合成作用が促進することによって生じます。この合成作用はトレーニングの総負荷量によって増大されます。総負荷量とはトレーニングの強度、回数、セット数を合わせた総量のことです。
『筋トレによる筋肥大の効果は強度、回数、セット数を合わせた総負荷量によって決まる』
そのため、残留疲労により十分にトレーニングの総負荷量を得られないことは、筋タンパク質の合成作用を促進することができず、結果的に筋肥大の効果を減少させることにつながるのです。
また、分子生物学からも干渉効果のメカニズムがわかってきています。
筋タンパク質の合成を促進するスイッチになるのが「mTOR」という酵素です。筋トレをするとmTORが活性化することによって筋タンパク質の合成が高まります。
ジョギングを続けていくとだんだん息があがっていきますが、これはエネルギーであるATPを生み出すための酸素が少なくなっている状態(低酸素)を意味します。体内の酸素が少なくなるとAMPKという酵素が活性化します。AMPKはエネルギーを生み出すために糖の輸送や脂肪の酸化を促進します。しかし、それとともにAMPKはmTORの活性化を抑えてしまいます。
このAMPKによるmTORの抑制が筋タンパク質の合成を阻害し、筋肥大の効果を減少させることが示唆されているのです(Baar K, 2014)。
Fig.4:Baar K, 2014より筆者作成
これが現在のところの干渉効果のメカニズムとされています。
筋トレにジョギングを組み合わせると、残留疲労やAMPKの活性化よる筋タンパク質の合成反応の低下という干渉効果によって、筋トレによる筋力増強や筋肥大の効果が減少してしまうのです。
では、筋トレと持久力トレを組み合わせることは諦めたほうが良いのかというと、そうではありません。
なぜなら、近年、干渉効果を防ぐ方法が明らかになってきたからです。
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