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書評『音楽メディア・アップデート考』 本当にアップデートしないといけないのは何なのか?

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うーん。

インタビュイーの豪華さに惹かれて、あとこの手の本は一応大体目を通していることもあって発売日に買いましたが、勇壮なタイトルのわりにはなんかぼやーっとした印象でした。

個々のインタビューはそれぞれに面白かったのですが(特に若林さんと柳樂さんのがよかった)、にもかかわらず通して読んだ時のこの消化不良は何なんだろう。

思い当たるのは、そもそもこの本を貫く「問い」自体がぼやーっとしてるんだろうなと。

要はここで問題にしようとしていたことって、8~10年くらい前から変わってないんですよね。

本書の「はじめに」では、

制作スタート時の本の仮タイトルは『音楽批評は本当に不要になったのか?』というものだった。つまり、”音楽メディアにおける批評の現在"をテーマにしようと考えていた。
(中略)
取材を進めていく中で、音楽メディアに関する課題が次々と浮き彫りになり、かえって”音楽メディア”そのものをテーマにしたほうが有意義な内容になると確信することになったからだ。

また「謝辞(あとがきに代えて)」では、

そもそもが大活躍中のライターや編集者に向かって、「今の時代、批評って必要なんですかね?」「音楽メディアって大丈夫なんですかね?」など聞きに行くわけだから、本当に失礼極まりないのである。

ということで、大きくは「音楽批評の存在意義」「それを踏まえた音楽メディアの役割・あり方」について考えていこうという問題意識で作られた本だということが明言されています。


ただ、この話ってもはやループ&ループっていう感じで、たとえば2013年11月にはこの本にも参加している石井恵梨子さんやリアルサウンドの神谷さんらが参加した『音楽どうする会議 第1回「音楽ライターはどうする?」』というトークイベントでまさに同じような視点からの話がされていたり、


同じくこの本に参加している鹿野さんが主役の音楽ジャーナリズムの紙・ウェブ論争も2013年ですね。これも「批評のあり方が変わろうとしている時代のメディアのあり方」みたいなアングル。


2013年はこの辺の話題が結構熱かったですね。自分の話で言うと、ブログはじめたのが2012年、いくつかバズったのを経て商業媒体に寄稿し始めたのがまさに2013年で、ある種こういう混乱の中で世の中にフックアップしてもらったという印象があります。


さらにさかのぼると、2010年12月に出た『思想地図β』に載ってる東浩紀×佐々木敦×渋谷慶一郎×菊地成孔という座談会の中では東さんから下記のような問題提起があり。もう10年以上前ですね。この投げかけは僕自身音楽について何かを書く上で常に頭にあることなので、『夏フェス革命』のインタビューの際にも触れました。

音楽にとって批評は必要か、の前に、批評にとって音楽は必要か、という問いもあると思う

批評にとって音楽が要らなくなったという側面もあるのかもしれない。言い換えれば、社会や時代を語るときに、音楽がとっても使いづらくかつ分かりづらい対象になっていったということもあるのではないか


10年以上にわたって使い古された問いで本1冊引っ張るのは難しかったんだろうなと…もちろんこの本は「今の時代の」この問題を掘ろうとしていたんだと思いますが、根幹が一緒なわけでそこを起点にまとめられる内容が目から鱗にはなかなかならないというか。

おそらく「音楽批評は必要か不要か」みたいな話で盛り上がるフェーズはもはや終わってて、

・いつの時代も”批評的な役割を果たすもの”は必要でFA→なぜなら"補助線"と"目利き"がないと人はコンテンツを楽しめない

・だけどその形は絶えず変わる(フェスのタイムテーブルこそが批評だったり、プレイリストが批評だったり、音声コンテンツが批評だったり、TikTokのUGC自体が批評だったり…)

・で、”その形”ってものを具体的に考えて、かつ考えるだけじゃなくてやってみようぜ

・大前提として押さえておくべきは、ストリーミングとSNSで作品も聴き手の声も情報過多、飽和状態

・そういう時代に”メディアとして≒何かしらの権威性を持って”発信する際に常備しておくべきものってなんだろう&発信のやり方として自分の肌にも世の中の空気にも合うものってなんだろう

みたいに個別具体的なところまで進んでいると思います。実際この本に登場する方々もそういうアクションとすでに向き合ってる人たちが多かったし、そういった各人の経験から問いの立て方を補強するような形でお話しされてる方も複数いた印象。

アップデートしないといけないのはこの本の問いそのものだったのでは、という…

自分にとって良かったのは、この本を読んでピンとこなかったのを通して、ここ数年「音楽メディア/批評とは?」みたいな話に全く関心が持てていなかった理由がわかったこと。ライフステージの変化(日々の暮らしの方がもっと大事)からくるものかなと思ってたけど、要は「アップデートされていない問い」をベースに再生産される論が大半だったんだなーと。

この辺の話は自分自身にも返ってくる(ブーメランになる)テーマだったりもするので、改めて考えてみたいと思います。おぼろげながら「生活の中にある批評」とかって新しい切り口になるんじゃないか、とか。この前の『花束~』論考はちょっとそういうものを意識したりもしてる(と言いつつ無意識の部分がでかい)けどまだどうなるかはわからない。


単純にインタビュー集としては有意義な話もあるので(本じゃなくてそれぞれ単発のウェブ記事で出てたら違和感なかったかも)、音楽メディアで働いてみたいとか業界の現状が気になるとかそういう人たちにとってはおすすめです。


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