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UNISON SQUARE GARDEN田淵智也インタビュー 『Patrick Vegee』と「15周年以降のユニゾン」を語る

9月30日にリリースされたUNISON SQUARE GARDENの新作『Patrick Vegee』。

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本日はこちらについての田淵智也さんインタビューをお届けします。

田淵さんにユニゾンの活動についてインタビューしたのは前作『MODE MOOD MODE』のリリース時、2018年初頭以来。


また、今年に入ってからは残念ながら中止になってしまったイベント『CAP A ROCK』についてお話しいただくインタビューも実施しました。

バンドとしても、また日本の昨今のバンドシーンにおいても明確に「傑作」だった『MODE MOOD MODE』を生み出して、次にユニゾンはどこへ向かうのか。また、15周年のお祭りモードを終えて、今ユニゾンはどんな状態でネクストステップを模索しているのか。

『Patrick Vegee』に込められた思いを通して、これからのユニゾンのあり方についても語っていただきました。それでは約10,000字、一気にどうぞ。


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ライブやっていないと死んじゃう!っていうSOSが自分の中から早々に出ていた

--アルバムの話にいく前に、先日行われた生配信LIVEイベント「fun time HOLIDAY ONLINE」のことについてお聞きしたいんですけど、あのイベントは終わり方がすごくかっこよかったですね。(注:ラストに「シュガーソングとビターステップ」が演奏され、DJを務めていた落合健太郎の締めのあいさつとともに楽曲が終わり、画面にイベントのロゴが表示されてそのまま配信が終了)

「ありがとうございます。あそこは映像スタッフと練習しました(笑)。あのイベントは、全体を通してロゴの出し方だったりスイッチングのタイミングだったりを、裏方のスタッフと楽しみながら作っていけた実感があります」

--7月と8月の生配信ライブが「バンドがライブをやる」ことをストレートに見せていたのに対して、「fun time HOLIDAY ONLINE」は「一つのコンテンツ」として作りこまれていたように思いますが、そういう2つ方向を対比して見せるような意識はありましたか。

「いや、対比というよりは7月からの延長線上っていう方が正確ですね。春先にいろんな人たちの配信ライブを見ている中で、やっぱり演奏している映像を工夫なく流しているだけだと1時間半もたないなというのはよく思っていて。だから自分たちがやる前にはカメラチームとかとも入念に打ち合わせをして、「配信ライブだからこその映像」みたいなものをどう作るか考えたんですけど…7月と8月の生配信ライブでそれぞれいろいろトライをして、そこで得た知識を少し違う角度から発展させたのが9月のイベントです。対バンイベントって転換の時間が長いのが好きじゃないんですけど、オンラインならそこについても飽きさせない工夫ができるなと。司会としてパーソナリティがいるといいんじゃないかというのも思いついて、メンバーからも「イベント自体がラジオ番組だったみたいなのはどうか」ってアイデアがあったので、そこから間のトークや終わり方を考えました」

--7月、8月、9月と生配信でのライブをユニゾンとしてやってみて、いかがでしたか?

「少なくとも演奏することに関しては、僕的には普段と変わらないですね。いつも客席をそこまで見ているわけでもないし、でかい音を出せてればOKっていうのが基本なので」

--わりとその「客席はあんまり関係ない」みたいなのがポイントだと思っていて、ロックバンドのライブが「オーディエンスとの一体感」を重視する流れがある中で、ユニゾンはそれとは違う価値観をずっと提示しようとしてきましたよね。結果的に、そういったスタンスをとり続けてきたユニゾンだからこそ、コロナ以降のロックバンドのライブエンタメとして新しいものを生み出せるポジションにいるんじゃないかなと思うんですけど。

「なるほど」

--さっき「楽しみながら」って言葉もありましたけど、制約がある中でいかに面白いものを作ろうかっていうことに対してすごく前向きに取り組まれているのが伝わってきます。

「自分としては、とにかくわくわくできることをやろうっていうことでしかないんですけどね。「自粛」みたいなモードになってから、ライブやっていないと死んじゃう!っていうSOSが自分の中から早々に出ていたんですけど…少しずつ世の中の雰囲気やルールが変わっていく中で、「今できる一番楽しいことはなんだろう、それをもっと楽しくするには何ができるんだろう」っていうのを日々考えている感じです」

--10月から始まる座りでのツアーも、そういった発想の賜物でしょうか。

「もともと昔から「ロックバンドのライブって座ってても楽しめるよね」っていうのはずっと思っていたんですよね。立てないから踊れない、じゃなくて、座ってたけど身体が動いちゃった、っていうのを今回のライブを通じて体感してもらいたいし、こういう状況だからこそ「ライブの楽しみ方」の固定観念がアップデートされていったらいいなと考えています。まあウケ狙いというか、大喜利的なアイデアを出すのはそんなに得意じゃないので、そういうのはほかの人たちに任せるとして…個人的には、せっかく配信ライブの知見がいろいろ貯まったので、それを生かせる機会を近いうちにもう一回くらいつくれたらいいなとは思っています」


その人たちが喜べばそれでいいや、っていうのは根幹にありますね

--ここからアルバムの話に入りたいんですが、『Patrick Vegee』はコロナ云々とは関係のないところでできた作品という理解でいいですかね。

「そうですね。リリースは当初予定よりちょっと遅れましたけど、楽曲も世の中がああいうことになる前から揃っていたので」

--ポップな方向に振り切った『MODE MOOD MODE』があって、15周年にまつわるいろいろなことを経ての今回のアルバムですが、読後感としてどういうものにしようという狙いがあったのでしょうか。

「僕らのバンド人生に最後までついてきてくれるやつにとって、『MODE MOOD MODE』から『Patric Vegee』までの流れは気持ちよかったよね!って思われるものにしたかったっていうのが大きかったですね。実際そういうものになったんじゃないかっていう自負はあるんですけど」

--「最後までついてきてくれるやつ」というのは、ユニゾンのことをこれからも長年聴いてくれるであろう人たち、というイメージですか?

「バンドを続けてると客の数って増えたり減ったりするし、それは自然なことだと思うんですけど、そういう中でもきっと最後まで残ってくれるだろうなって人のことが自分にとっては大事で。で、きっとそういう人たちは何かを面白がる感覚が自分と近いはずだから、自分のような人が聴いたら「15周年のあとのこのアルバム、たまんねーな!」ってなるアルバムにしたいと作りながら思っていました」

--そういったことを意識する中で、今作のサウンドは3人で鳴らすバンドそのものの音にフォーカスする形になりました。前作はストリングスやブラスの導入など「音の多彩さ」にこだわったアルバムだったと思うんですけど、「ユニゾンをずっと応援してくれる人たち」の顔を思い浮かべると、ロックバンドとしてガツっと音を出すということにやはりなるんでしょうか。

「えーと…客がどう思うかっていうのもなくはないですけど、それよりも「ユニゾンだけができちゃってること」にこだわりたい時期だったって方が大きいかもですね。ストリングスを入れてブラスを足せば楽曲が華やかになるっていうことは『MODE MOOD MODE』でよくわかったし、僕も他の仕事でそういうのは思いつくのでやろうとすればすぐできるんですよね。でも、ユニゾンがこの15年で培ってきた、というかできちゃってたのはそういうことではなくて、3人で音を出すと他にない感じの熱量が出て力技でねじ伏せられるってことで。最近ではバンドでも同期を普通に使うようになってきてて、もしかしたらフェスとかスタジアムを意識するならそっちの方が映えるのかもしれないけど、ユニゾンの長所はあくまでも3人の音が重なったときに出てくるものなんですよね。次のアルバムではそこに目を向けたいっていうのは当初から考えていたので、「春が来てぼくら」の後、「Catch up, latency」以降はそういうスタンスで曲作りをしてました」

--3人でドンと音を出した時のダイナミックさはまさにユニゾンならではの強みだと思うんですけど、アルバムづくりにおいてもそこに比重を置くとなると、楽曲制作におけるメンバー間の信頼関係みたいなものも大事になってくるんじゃないかと思います。最近は3人でのアイデアのやりとりが増えている、というのは「Catch up, latency」リリース時のインタビューでも語られていましたが、今作の制作を通しても3人のクリエイティブ面での関わり方はスムーズでしたか。

「そうですね。アレンジに関して、メンバーが持ってきたアイデアを基本OKにするところから始まることが増えてきている感じはします。今回のアルバムは、簡素なデモを渡したうえで「じゃあとりあえずやってみよう」って作っていた曲がわりと多かったかな」

--そうなんですね。

「曲の構成的にそこまで作り込む必要のないものが多かった、っていうのもありますけど。自分が気にいるレベルまでデモのクオリティを上げるんじゃなくて、思い入れが生まれる前に完成ということにしてメンバーに送っちゃう、っていうのは意図的にやっていました。そのくらいのレベルからみんなでアレンジ作業をやると大体面白くなっていくので」

--前作だと「君の瞳に恋してない」とかはデモをガッツリ作り込んで、コードを変える場合は逐一教えてほしいって斎藤さんにオーダーしていた、なんて話もありましたが…

「あれは…ほんとにめちゃくちゃ作り込みました(笑)」

--それとは対照的ですね。

「今回そういうことをやったのは「夏影テールライト」くらいですね。そういう「自分の美しい楽曲づくり」みたいなものは最小限にして、余白を残したデモに3人で熱量を注ぎ込んでユニゾンの良さを浮かび上がらせる、みたいなことをやろうとしていたと思います」


--なるほど。今回のアルバムを聴かせていただいたときに、最初はすごくフレッシュなアルバムだなって思ったんですけど、聴いているうちにだんだんロマンチックなアルバムだなって感じるようになったんですよね。

「(笑)」

--話を聞いて、その感覚がちょっと腑に落ちたというか。たぶん「フレッシュ」だと感じたのは3人の生っぽいアイデアを起点にまさにロックバンドとして組み立てられていったアルバムだからで、「ロマンチック」っていうのは田淵さん自身にとっての気持ちいいアルバム、つまりは個人の理想を徹底的に追求していった作品だっていうことに何となくピンと来てたんじゃないかなと。

「うんうん、なるほど」

--あと、今回のアルバムを聴く前に想像していたのって、「シュガーソングとビターステップ」がブレイクした後に『Dr. Izzy』のような無骨なアルバムをリリースしたときの空気だったんですよね。ただ、『Patrick Vegee』は、『MODE MOOD MODE』や15周年の時の雰囲気とは一線を画しつつも、『Dr. Izzy』のような突き放した雰囲気とは違う優しさを持ったアルバムだなと。もしかしたら15周年でいろいろな人たちにお祝いされたことで、バンドとして、もしくは田淵さんとしての心の持ちようみたいなものが変わった部分もあるのかなと思ったんですけど。

「心の持ちよう…どうだろうなあ。現時点ではそんなにないかもしれないですけど」

--ちょっと言い方を変えると、「シュガーソングとビターステップ」に対しての田淵さんのスタンスって、「よくわからないけど売れた」「自分たちだけの力ではない」ってものだったと思うんですよね。一方で、15周年で自分たちのことを祝ってくれるたくさんの人たちを目の当たりにして、「伝えたいところには伝わっている」というような気持ちのゆとりみたいなものが生まれたのかも…なんてことを考えていました。

「ああなるほど、そういうことでいうと…でかいワンマンを一回やって、そのあと地味なカップリングツアーをやって、っていう中で、大体どのくらいの人たちが自分たちのことをわかってくれているのかが何となくわかったんですよね。「シュガーソングとビターステップ」のときはどんな人たちが支持してくれているのかがほんとにわからなかったので、どうせよくわからない理由で好かれ続けてもいつかがっかりされるだけだから…くらいのことは思っていたんですけど、今回は、「一生懸命作って届くのはこのくらいの人たち」っていうのがイメージできてたから、そこからくる安心感みたいなものはあったように思います。15周年ライブだからお祝いしてくれ!って言ったらわざわざ大阪まで来てくれるやつに対しては「ほんとに物好きだなあ」って思いますけど…こういう言い方をするとそれこそロマンチックになっちゃいますけど、その人たちが喜べばそれでいいや、っていうのは根幹にありますね」


「アルバムって曲順通りに聴いたら楽しいよね」という提案でもあり意思表示です

--今回のアルバムを3人の音にフォーカスしたサウンドに持っていくにあたって、ストリングスが大胆に導入された「春が来てぼくら」の位置づけをどうするかというのは一つのポイントだったのではないかと思います。


「そうですね、あの曲がアルバムのどのタイミングに来ると一番いいか、僕らの15周年が終わって今現在のモードを伝えるにあたって違和感のない場所はどこか、っていうのをすごく考えました。『Populus Populus』の「オリオンをなぞる」の置き位置の話と近いかもしれないですね。あの曲は結局最後から2曲目になりましたけど、「オリオン~」が一番ドラマチックに響くのはどこだろう?っていうのを試行錯誤したので」

--「春が来てぼくら」はその1曲前の「弥生町ロンリープラネット」のラストの歌詞、<そしてぼくらの春が来る>というフレーズに導かれるようにして始まりますね。

「歌詞でつなぐっていうのはベタと言えばベタですけど、こういう形にするとこのアルバムに「春が来てぼくら」をうまく配置できるんじゃないかなって思ったんですよね。で、このつなぎ方が他に何曲かあったら、アルバムとして結構グッとくる構成になるんじゃないかなという読みはありました。僕なりの「アルバムって曲順通りに聴いたら楽しいよね」という提案でもあり意思表示です」

--ちょうどフィジカルとストリーミングを同時リリースするようになったタイミングで、こういう「曲順」にこだわったアルバムをリリースされるところにも何かしらの意図を感じたりもします。

「まあストリーミングあるからどうってわけではないんですけど、リリースの仕方や聴き方がどう変わろうが、「こう聴くと楽しいでしょ?」っていう提案の手を緩める理由にはならないって感じですかね。若い人たちの中には「アルバムを曲順通りに聴く」っていうことになじみのない層がいるんだろうなって思うんですけど、そういう人たちの中で1人でもいいので「このアルバムだけはこの曲順で聴きたい」ってなってくれれば、気の合う新しいファン1人ゲット!みたいな(笑)」

--「歌詞でつなぐ」ということに関連して言葉の話で言うと、一番びっくりしたのが<教育の死>(「摂食ビジランテ」)なんですけど…

「(笑)。はい」

--最初「聴き間違えかな?」と思って確認したら、本当にそう言ってて「なんじゃこりゃ?」ってなったんですけど(笑)、あれはどこから出てきたんですか?

「あの曲はアルバムの中でも最後の方に書いた曲で、アルバムとしての足りないピースを埋めるものとして「何も言っていない曲」がほしかったんですよね。ロマンチックな言葉もある、とがった言葉もある、ダークな雰囲気のものもある、っていう中でのバランスをとる意味でああいう曲を作ったんですけど…「何で?」と思う気持ちもわかります(笑)」

--「Catch up, latency」と「夏影テールライト」の間にあの曲が入っているのがアルバム全体のスパイスになっていますよね。アルバムとしてのコントラストが凄く際立つ流れというか。


「そうですね。曲順が大事、って言っている割にはあそこの並びはすごく違和感のあるものになっていると思うんですよ。ただそれも意図的なもので、多分はまっちゃえばあの不穏な感じがクセになるはずなんですよね。シングル曲の後にああいう謎な曲が入るっていう」

--なるほど。今回のアルバムは4曲ごとのブロックになっているなと思いながら聴いていました。

「確かにそうかもしれないですね。「Catch up, latency」で一回安心するところまでが最初のブロック。で、その後に「何かよくわかんないアルバムだな、これ」って印象に持っていくためのよくわかんないゾーンが次の4曲」

--よくわかんないゾーン(笑)。それで言うと、そのブロックにある「世界はファンシー」がリード曲になっていたのがこのアルバムの雰囲気を体現していますよね。あの曲もきっとシンプルな構造のはずなのに、ユニゾン3人がガツンと音を出すとものすごく複雑に絡み合っているようなバンドサウンドになっていて、確かにこれはユニゾンじゃないとできないなと思いました。


「あの曲は僕らが15年やってきて個々ができちゃってきたことの寄せ集めというか、集大成みたいなものになっていると思います。作ったときには「ちょっとわけのわからない速い曲ができたな」って思ったんですけど、メンバーのうけもよかったので、それぞれが「ユニゾンってこういう感じだな、これだとユニゾンの良さが出るな」ってのをわかってるんじゃないかなと」

--あとは「スロウカーヴは打てない(that made me crazy)」も聴いてて楽しいですね。この曲はタイトルにもなっているバンドからのオマージュになっていますが、15周年明けのアルバムでこういうルーツを引っ張り出してくるようなアプローチがあるのは、何らか「ここからもう一度始める」みたいな意味合いもあるんですか?

「んー、特にそういうことではないです。それよりは、15周年も終わって、めちゃくちゃ遊び回れるタイミングに来たからこそ、ああいう曲が出せるって感じですかね。もともと2000年代に下北沢にいたthrowcurveっていうバンドを僕は大好きで、ユニゾンの楽曲にはthrowcurveのエッセンスが感じられるものも実は多いんですよ。その流れで今回の曲は「ふざけてんのか?」ってくらいthrowcurveの楽曲を引用してまして。その手の遊びって、ある程度キャリアを積んだうえでじゃないと成立しないと思うんですよね。そういうのをやってもいいフェーズに入れたのかなとは認識してます。僕としてはリードにしたいくらい好きで、MVもthrowcurveのものを完全に再現して…というイメージまであったんですけど、チーム全体としては「いい曲だね」くらいの反応だったので、あんまり強くは押しませんでした(笑)」

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ここから先はちょっと違うゾーン

--15周年が終わってバンドのフェーズが変わってきたというお話ですが、そういう中でバンド運営のやり方というか、活動スタンスの変化みたいなところで考えていることはありますか。

「そうですね、何て言ったらいいかな…「楽にユニゾンをやる工夫」ですかね」

--「楽にユニゾンをやる」ですか。

「語弊があるとあれですけど手抜きをするぞというわけではないですし(笑)、もちろん他が忙しいから、とかそういうことでも全然なくて。まあやっぱり、15年もやっていると、いつもべったりくっついているような仲の良さでは当然ないわけで。それにみんなもういい大人だから、それぞれにとっての理想的な生き方みたいなのもやっぱり違うんですよね。そういう各自の世界があったうえで、「でも3人でライブやるのって楽しいよね」っていう前提が崩れないからバンドは続いているわけですけど、そういう距離感で成立しているユニゾンを今後も続けていくためのちょうどいい温度感を今は探してるのかなあと自分で思います。3人の「ユニゾンやりたい」っていう気持ちが上手く重なるところを探しつつ、各自が外でもやって、その結果それぞれの個性が磨かれていくからバンドにとっても良い…みたいな感じは長く続いている先輩バンドたちのやり方でもあるし、その辺のいい塩梅を見つけていきたいなと。とりあえず今年に関しては、そういう観点ではうまくいったなと思っています」

--なるほど。制作面についても、そういったモードの変化の影響はありそうですか?

「本音で言うと、15周年までに力作アルバムはいっぱい作ってきたし、これ以上楽曲を増やし続ける必要ってあるのかな?とかって思ったりもして。自分としては『MODE MOOD MODE』と『Patrick Vegee』で「こんなロックバンドのアルバムがあったらいいのにな」を結構な純度で形にできたと思っているので、かなり達成感があるんですよね。で、ここから先はとにかくいろんなライブツアーをやって、暇になったら新曲を作る、みたいなバンドにしたいんですよ。この先世の中がどうなるかわからないけど、ツアーにしてもたとえば3つのバンドで一緒に全国を回るとか、いろいろやってみたいことがあって。そんなことを考えたときに、僕ががっちり設計図を作ってそれに基づいて制作を進めるっていうよりは、それこそ「スロウカーヴは打てない」みたいな遊びっぽい曲からアルバムづくりを始めるのも面白いんじゃないかなと思っていて。たとえば最近鈴木くんが作曲の勉強をしているらしいんですけど、だったらまずはメンバーの共作曲を作って、それを起点にしてアルバムのあり方を考えてみるとか。まあこの辺は今自分に次の作品のイメージがないから言えることかもしれなくて、またツアーに出ていろいろ思いつき始めたら全然違うことを言い出すかもしれないですけど(笑)、現時点ではそんなことを思ったりもしてます」

--今までそうやってクリエイションの核になる部分をメンバーに委ねよう、みたいに思ったことってあったんですか?

「ないですね。今までは全く思ってこなかったことというか…15周年までは「こうやってたどり着かないとこの先もうまくいかなくなるからそこまでは俺にやらせてくれ」っていう気持ちが強かったんですけど、無事にそこまでは行けたと思うので、ここから先はちょっと違うゾーンというか、これまでは考えてこなかったことも楽しみながら受け入れていくのもありなのかなと思っています」

--今すごくバンドとしての手札が広がっている感じですね。田淵さんが作り込むこともできればメンバーで一緒にアレンジを詰めていくこともできるし、大きいライブの会場もひとしきりやったわけで、どっちにもいけるというか。

「確かにそうですね…そこに関しては、さっきも言ったけど「どれくらい届いているのか」が何となく見えたっていうのが励みになっていると思います。単純な客数はこれから減るとは思うんですけど、「ユニゾン何やってくれるんだろう?」って面白がってくれる人たちの顔がわかったから、いろいろ気にせず振り切ったことも流行らなそうなこともできるなっていう安心感みたいなものが今すごくあって。そういう心持ち穏やかな感じっていうのは、15周年に関する活動を通じて得たものかもしれないですね」

--ちなみに、そういった支持してくれる人をもっと増やしたい、みたいなことって思いますか?

「うーん…音楽的にかっこいいことをやっているからもっと好きになるやついてもいいんじゃない?って思う自分もいるにはいるんですけど、一方で僕がロックバンドに望んでいることと好みが一致している人はさすがにもう見つけてくれてるんじゃないかなというのもあって。例えばここからさらに拡大!みたいなことを考えるとじゃあメディアにもっと出ようとかなるのかもですけど、僕としてはテレビ得意じゃないし、広くアピールしていくの嫌なんですよね。そういう状況下で苦労している僕を見て「そんな田淵もかわいい」みたいなことを言われても、大して僕の気持ちにプラスにならない(笑)」

--なるほど(笑)。

「まあでも、とにかくめちゃくちゃライブツアーやってるバンドがいるらしい、面白い配信ライブをしてるバンドがいるらしい、3人がよくわからない細かい技術でまあまあポップなことをやってるバンドがいるらしい、そういう理由で入ってきてくれる人たちはもちろん大歓迎なんですよね。たまたま聴いたら衝撃が走って、昔の作品も掘り下げて、ライブに行ったら人生変わった…みたいなケースがたくさんではなくてもあったら嬉しいので、そういうやつらのためにも目につくところに入口を作る努力はし続けたいと思っています」

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