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【ドラマ・ショート】探偵・真島吾一#2 『無言のカスハラ〜降りない乗客の呪い〜』


私は私立探偵の真島吾一。今日もある依頼者様がうちの事務所を訪れてきた。
職業はバスの運転手で、客絡みのトラブルらしい、そんな事は会社に相談すればいいのだが、何やらちょっとばかり面倒な事になりそうだ。まあ、どりあえず話しを聞いてみよう。



「私は、バスの運転手をやっております。これは同僚から聞いた話しで、ある運転手の話しなのですが、その運転手はバスを終点まで運行したそうです。全ての客が運賃を支払い降りていったのだが、一人だけ降りない客がいたんだそうです。その運転手はマイクロホンで、そのお客に呼びかけた「お客さま終点です、前からお降り下さい」と呼びかけたのですが、お客は降りようともしないし、動こうともしなかったのです。

運転手は、少し心配になった。この乗客は具合いでも悪いのか、もしかしたら耳が不自由な障害者かもしれないと…。
運転手は席を立ち、お客のところへかけ寄りました。
お客は女性で学生っぽい感じだったそうです。

運転手「お客様、終点になりましたので、お降り下さい」

客「………。」

問いかけに対し、そのお客は無言の乗客、表情も無表情、真っ直ぐ前を見て動こうとしませんでした。

もうこれで今日の運行は終わりだし、営業所へ回送すれば帰れるのに…。しかし、怒る訳にもいかないし、やはり具合いが悪いのかもしれない。たまらず運転手はこう聞いたそうです。

運転手「お客様、大丈夫ですか、具合いでも悪いのですか?」

少し心配そうな表情で優しく問いかけた。

客「………。」

その客は相変わらずだんまりを決め込んだため、運転手はさらに問いかけました。

「話せない状況なのですか、救急車呼びましょうか?」

と問いかけたが、やはり

客「………。」

雨は降ってはいないし、帰れる状況にもあるのにもかかわらずです。…きっとお客は嫌がらせでもしているのかと思い、運転手はこう聞いた。

運転手「お客様、どうされましたでしょうか、降りていただけないでしょうか?」

さらに優しさと心配した表情で聞いてみた。

客「………。」

これは困った、こんな事で会社に連絡するわけもいきませんでした。

さらに続け、

運転手「お客様、終点ですので降りていただけないでしょうか、私も会社に戻らなくてはなりませんので、お願いします」

運転手は困惑した表情で問いかけた。

お客「………。」

それでも無言と無表情の様子は変わらなかったそうで


運転手「お客様、終点です、降りて下さい」


お客「………。」


変わらず応答はありませんでした。


運転手はたまらずでこう言いました。

運転手「降りてください、終点ですので!」

お客「………。」


これは無言のカスハラだ!きっとそうだ
運転手はそう思ったそうなんですが、するとお客はそれまで応答がなかったのに、突然運転手の方に目線をやり、体を向けて、こう言ったそうです。





乗客「あなたは1週間後に死ぬ!」



呆気にとられた運転手は、茫然としながら、その空気感を残し、すぐにその乗客は精算を済ませ、降りて行ったそうです。


確かに腹立たしい話しなんですが、乗客はきちんとお金を支払っているし、良くある一風変わったお客という、運転手の内輪の話しで終わるんですが、話しには続きがありまして…。

実はその運転手なんですが、なんとその一週間後に本当に死んでしまったのです。


死因は心臓発作らしく、その運転手はまだ20代で寮に住んでました。
その出来事から一週間後、出勤時刻になっても会社に来なくて、それで寮の方へ同僚が部屋へ見に行くと、亡くなっていたそうなんです。

真島「それから?」


依頼人「これからが、本題なんですが…今日、そのお客が乗ってきまして、同じように"あなたは1週間後に死ぬ"と言われました…。いえ、その事よりも、一週間後の方が怖くて、私は死ぬのかな、と…そこでこうして相談に来ました、本当に私は死ぬのでしょうか?

真島「……う〜む、それは私には今のところ分からない…」

「1週間後ですか、まるでホラー映画みたいな話しですな」

「ただ、この手の話しはあります。病気や死刑以外で、死を宣告された人間が本当に死んでしまったことが…」

依頼人「それは本当ですか?」

真島「うん、本当にありました」

「だから大丈夫です、死ぬわけありません…とは言い切れないですね……」

「なので、あなたは本当に死んでしまう、と仮定した上で、解決策を見つけねばなりません」

依頼人「私は、どうすればいいのでしょうか?」


真島「…無言のカスハラでしたっけ?……つまりその少女の言ってる事が真実なのかどうか、それを調査すればよいのですね……」


依頼人「はい、お願いします…」

真島「あの…、ドラレコ。もって来たんでしたっけ?」

依頼人「はい、本当は持ち出し禁止なのですが、会社に言って何とか持ってきました」

真島「とりあえず、ドラレコ見せてもらった上でまたご連絡します」

依頼人「そうですか、でもあと6日間しかないのですが大丈夫なのでしょうか?本当に……死にたくない……助けて下さい…。」

涙を浮かべ、真島にすがりつく依頼人

真島「大丈夫です、あまりご心配なさらずに、私は受けた仕事は全て解決してきましたので、あなたは安全運転に努めて頂ければ良いのです」

「とは言え、死ぬかもしれない状況では仕事は手につかないでしょう」

「有給でも取って休んだ方がよいかもしれないですね」


依頼人「そうですか、それではそうします、私の命がかかってますので、本当によろしくお願いいたします」

真島「全力を尽くすまでです…」



真島は早速、依頼人の松田からドライブレコーダーを再生し、原因究明に乗り出した…。

………………………………………………………………………………


……そして2日後、真島は依頼人でバスの運転手の松田を探偵事務所に呼び出した。

真島「松田さん、なぜあなたが死ななければならないのかが分かりました」

松田「えっ、それはほんとうですか?なぜなんです?」

真島「松田さんに向かって、『あなたは1週間後に死ぬ』と言い放ったあの女性は、予知能力者でした」

松田「予知能力者って、あの霊能力者みたいな存在の人って事ですか?」

真島「はい」

松田「そんな…、冗談はやめてくださいよ、そんなの全く信憑性がないじゃないですか!私は信じませんよ」

真島「そうですか、それは残念です。ですが松田さん、このままだとあなた本当に死にますよ…」

「実はその女性に会って来ました、ドラレコから人相を割り出し、彼女の足取りを追って自宅も分かりまして、彼女と話してきましたが…」

「あの娘は本物の霊能力者でしたね。あなたはあと4日後に亡くなるそうです……。」

絶句する依頼人の松田


「しかし、霊能力者と一口に言ってもピンキリでしてね、彼女はその界隈では有名な能力者でして、本物でした…」

「そのガチで本物の彼女が死ぬと言ったら、本物にそうなります。しかし、バス運転手が偶然にも立て続けに宣告したのは驚きでした」

「彼女に聞いたら、偶然にもあなたが見えたとか、立て続けに見たのは分からないと言ってましたがね」

松田「私は死ぬんですか?」

真島「まあ、このままでは…」

松田「そんな…私はまだ死にたくない!それから私の死因って何なんですか?心臓発作ですか?」

真島「いいえ、彼女が言うには自動車事故だそうです。…じゃ、車に乗らなければ大丈夫だと思いでしょうが、死ぬ運命は変えられません、別の死に方に変わるだけです」

絶望的になる松田

松田「もう、死から逃れられないのでしょうか…もうだめなんですね…」


2人の間に沈黙が流れる…

その時だ、


真島「いや、まだ諦めるのは早いですよ、ひとつだけ、助かる方法があります」

松田「ドラレコですか…ダビングして誰かに見せるとか…」


真島「…いや、無理でしょう、映画ではあるまいし、そんな手は通用しないでしょう…。」

松田「ではどうすれば!…」

真島「私は探偵でもあり、そして法律家でもあります。」

「あなたの存在、変えられない運命があるのなら、その運命を断ち切るしかありません」

松田「と言いますと?!…」



真島「それではお教えします、その方法とは…」


「あなたが松田家から独立するのです。」

「つまり本籍から抜け、除籍するのです。籍を抜けるには結婚して婿養子に行くとか、死亡した場合でなければ出来ませんが、同様の効果を得る方法があります。それは独身である、あなたなら分籍するのが一番の方法です」

「分籍して、分家として松田家を新たな籍を設ければよい、という訳です」

松田「………」

「ですが、果してこの方法が成功するとは限りません……やるか、やらないかは松田さん、あなた次第ですが…」


松田「分かりました、やってみましょう」



松田は真島の言う通り、市役所に行って分籍の手続きをした。幸い3日ほどで取得でき、晴れて新たな松田の名字を手に入れたのだった。

だが、問題は果たして死なずに済むかである。

この1週間、松田は生きた心地がしなかった。死ぬかもしれない、その恐怖が4日間、地獄のように襲いかかったのだ、まさしく恐怖との闘いであった。気が変になり狂いそうだった、死んだも同然な状況に置かれた彼だったが……。


そして、運命の4日後の午前0時を過ぎた。


松田は生還した!真島の言う通り、分籍したことで死なずに済んだのだ、自らの運命を断ち切り、新たに運命を切り拓いたのだった。


松田は生き残った、あの忌まわしい出来事から1週間。松田はこれまでの人生でもっとも生きている、という事を実感したのだった。


今回の依頼は危なかった。もう少しで依頼人の松田氏を死なせてしまうところだった。
ただ、あの予言がアタろうが、ハズレようが、分籍した事が功を奏したのかどうかは、全ては謎のままだった。どれが本当で何が正しいのかは分からない。もし分籍しても死んだとしても、それは致し方なかった。
ただ、何もせずに死を待つよりも、生きたい!生きなければ、と努力し、その方法に向かって進んで行く事は、人生において重要な事だ。その方が生きた証を残せるからだ。
今回は、今更ながらその事を痛感した一件だった。



        #2 終



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