見出し画像

恐怖の帰り道#4最終回


これまでのストーリー


ミステリー作家のM田は、講演会の帰り道に狂人から車で執拗に迫られ、ついには命の危機を感じ、警察に通報するも犯人は走り去ってしまう。警察からはそのまま帰宅するよう求められたため、M田は別荘アトリエへ向かったのだが…。


本編



再び警察署にて。

バードアイマップでM田のアトリエの住所を調べるS島

カチカチ…マウスを操作する。

S島「あったぞ、作家先生のアトリエ…。」
「ここか?ん、アトリエね、別荘兼アトリエにしては…」

A野「S島さん、分かりました。M田氏が講演を行った会場の摩天楼コミュニティホールとその後、交流会場の居酒屋skyscraperなんですが、どちらもT都にあります。そこから車でならあの山道までは4時間はかかりますね」

S島「今、2時47分だからな、つまりM田氏は嘘をついたか、そもそも講演会や交流会なんてやってない可能性もあるという事か…。」

A野「何だか妙ですね、なんでそんな嘘をついたのでしょうか…」

S島「ん〜…」


M田の車は別荘アトリエにどうにかたどり着いた。

人気作家のアトリエは一軒家で西洋風で立派な建物だ。元大物歌手の別荘を3年前に買ったものだ。


M田は疲れ切っていた。講演会のあと交流会、そして怖い思いをした帰り道と色々あったが、作家としてのスケジュールをこなし満足はしていた。あおり運転の被害届も作家としてのアレもあるし、スキャンダルになりかねないので、提出しなかった。


夜中にシャワーを浴びるM田

シャワーを浴びたあと、ソファーでくつろぎ、加熱式タバコを吸った。ひと息つく瞬間だが、しばらくするとM田は、うとうとし始め、いつの間にかソファーで眠ってしまうM田。


しばらくして、玄関のチャイムが鳴る。


ピンポ~ン

ピンポ~ン


ピンポ~ン


何度かチャイムが鳴り、そのチャイムで目を覚ますM田だった。




M田「んん~、誰だっ!こんな時間に」


時計を見ると真夜中の午前4時44分だった。


M田は当然出なかった、チャイムは無視してそのまま放置していたが、チャイムは鳴り止んだ。


もう帰ったのだろう。こんな夜中にチャイムが鳴るのは、はっきり言って怖いし、人里離れた山奥の一軒家に一人。状況から考えても応答しないのが賢明だ。

だが、M田は気になり、玄関まで行き、覗き穴からそおっと覗きこんだ。




すると暗がりの中、全身黒尽くめの男がこちらを睨み立っていた!



M「うわっ〜!」



M田は慌てて、居間へ戻り自宅の固定電話で警察へ繋いだ。


警察「はい、警察です、事件ですか事故…」


M「早く来てくれ!さっきあおり運転を受けたM田だ、早く来てくれ!アイツだ、アイツが家に来た!玄関まで来てる!…」


その時だ、電話のそばにある窓から、睨み立った黒尽くめの男と目が合うM田。


その男の顔は、目はギラギラとさせながらもどこか哀しい目つきで嘲笑うかのような表情だった。


M田「うわっ〜!」


M田は受話器を投げ捨てた。


その黒尽くめの男は、窓ガラスを拳で割り侵入してきたのである。


M田はあまりの恐ろしさに腰が抜け、歩く事も出来なかった。

それでもM田は、はいづりながら逃げる。


男はポケットからナイフを取り出し、M田にのしかかり、馬乗りになってナイフでM田をめがけて振り下ろした。


「やめろっ〜!」






気がつくと、M田は病院のベットの上だった。



M田の母「気がついた、大丈夫O広」


M田「ここは?」


母「摩天楼病院、O広の住んでる家で、倒れて気を失っているところを警察の方が見つけて、救急搬送してくれたの」

母「あなた帰宅途中に、車から追いかけられたんだって?そしてあなたの家までついてきて襲われたとか警察が言ってたんだけど…」

M田「それがよく、覚えていないんだ」

母「ちょっと待って、今警察の方を呼んでくる、来てるの、O広の具合を知りたいんだって」

病室のドアを開け、廊下で待機している警察官を呼んだ。


警察S島「M田さん、具合の方はどうですか、大丈夫ですか?怖い体験をされて気が動転しているかと思いですが、その…侵入してきた犯人なんですが、どこにも見当らなかったんです。家の中に侵入した形跡もありませんでしたし…、それからあなたは講演会など行ってはいませんでした。講演会場も居酒屋も昨晩は利用がなかったと、受付の方から証言が取れてます。講演会の主催者の団体も存在していませんでした…」


M田「……。」


S島「別荘も母親のK子さんの話しではアトリエというより町から離れた静かな場所に古民家を借りて、住んでるだけで、別荘ではないと」

M田「でもあいつは家の中へ入ってきたんですよ、窓ガラスを割って…」


S島「それなんですが、犯人がもし窓ガラスを外から割って侵入してきたのなら、家の中にガラスの破片が散らばっているはずなんですが、破片は外に散らばってました。つまりあなたがご自分でガラスを割られた…。右手の包帯がその証拠です…。でもご心配なさらずに、幸いかすり傷で治療済ですので…」

「ですが、まあ…、その…そういった…等の物質も体内からは検出されませんでしたし…精神的なストレスというか、それは私どもは専門外でして…、ゆっくりとご静養下さいとしか言えないのですが…、ご無事で何よりでした、あとは病院の先生とご家族の方にお任せして、私はこれで失礼させていただきます」



敬礼して、病室から出ていくS島。


M田「信じられない、私はどうしてしまったんだろう」


母「あなた小説の執筆で疲れているのよ、きっと…」

M田「…ああ、それもあるかもしれないけど、私はこれまでミステリー作家として様々な人物や犯人の、奇っ怪な話しを書いてきた。その反面、肝心な小説は全く売れず、同期の作家たちは皆売れっ子で成功している。その焦りからか、恨み、妬み、悔しさ、華が咲かない自分への怒り、そうしたものが、ああいった形で生霊となり、おぞましい幻影として怪人を生み出し、現れたのかもしれない…」




その後、私はあの日に使用した車のドラレコの映像が気になり確認したが、やはり何も写っていなかった。



故郷で錦を飾るかのように、成功した自分の姿を想像し、地元で講演会という夢を自分の中で思い描いてしまった妄想、そんな理想論でしか自分を満たすことしか出来ない現実に、未来を託し、私はこれからも書き続けなければならないのだろうか…。

しかし、あれ以来、あの怪人が私の前に現れることはなかった。私の心の闇の部分の分身でもあるかのようなあの怪人に、あの時殺された。そして私は生まれ変わったのかもしれない。私が描く未来はきっと明るいはずだ…!。


        終

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?