海の中

少年は些細なことで家出を決意した。自宅玄関。少年が怒声を挙げながら、ドアノブに手をかける。玄関のドアを開けたとたん司会は海の中だった。海の中・・・。

 息が続かず、苦しむ少年。しかし、だんだんと呼吸ができるようになる。

 水の運動に身を任せて漂う少年。無表情の少年は時折、寂しそうな顔をするのみである。しかし、だんだんと自分が自由に泳げることを発見する。

 周りの景色を楽しむ余裕が出てきた。少年は三日三晩あちこちを泳ぎ回る。そして何日か過ぎた。すっかり泳ぎが得意になった少年は、自分は魚になったのだと思うようになりとてもうれしくなった。しかし、ふいに上を見上げると、海面には人間のままの自分が映り込んでいた。少年はショックだった。それまでの晴れ晴れとした喜びが途端に消え、気持ちがふさいでしまうのだった。このようなことが一日の間に何回も繰り返し起こった。

 しばらくすると、少年は自分が衝動的にしてしまったことをとても後悔するようになった。そして、とても心細くなった。少年はもと来た方向に戻ろうと思った。でも向きを変えることがなぜか出来ない。少年は泳ぐのを止めた。でもその瞬間息ができなくなった。この時少年は自分の体がマグロの硬い鱗に覆われていることに気づいた。自分が泳ぎ続けなければならないことを自覚した少年は、迷いを捨てた。そして少年は一匹のマグロとなりひたすら泳ぐのだった。海の中・・・。

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