トラウマ

注意!虫が苦手な方は読まないでください!

カミキリムシとトラウマ

小学2年生。
学校の帰り道はいつもセミの鳴き声に、草の匂いと、なんだかよくわからない湿気で肌がべたついた。

べつに虫に特別興味はなかったけど、
蜘蛛の巣に引っかかっている虫を見つけると、
つい立ち止まってじっと見ていたりした。
道端にアリンコの巣を見つけると、砂で埋めてみたりもした。
特に理由なんてなかった。ただそうしたかったんだ。

その日はまっすぐ家に帰った。
麦茶が飲みたかった。
かぎっ子だし、どうせ帰っても誰もいないし、特にやることもない。
ただ何となく帰ろうと思った。
だからいつもの裏道を、いつも通り石を蹴りながら帰った。

けど帰ったら思い出した。
そうだ、カミキリムシだ。昨日捕まえたんだ。


「カミキリムシって、紙を切れるの?」
母に聞いてみた。けど母の答えは心に残らなかった。


それよりも、虫かごの中でじっとしているカミキリムシを見ると、
なんだか特別なものを捕まえたようで、心が高鳴った。


でも、高鳴ったのは昨日の話で、今日は違う感情が沸いていた。
昨日より少し彼が弱っているのが伝わってきたからかもしれない。


 僕は彼を逃がしてあげることにした。


麦茶を置くと僕は、そっと虫かごを縁側に持っていき、ふたをあけた。
虫をつかむのは怖くなかった。いつも触ってたから。

いつも通り彼の首元をつかみ、
そこから取り出し、いろんな角度から眺めた。

ふぅん、紙が切れるんだ。

彼を帰す前に、試しにしんぶん紙をくわえさせてみると、
さくっ、とはいかない。小さな穴が開くだけだった。


カーペットの上で、少し眺めたあと、
今度こそ彼を帰すことにした。

さあお帰り。
遊んでくれてありがとう。じゃあね。また遊びにおいで。

首をつかむと彼は、カーペットに食いついて踏ん張った。
おいおい。帰るよ。ほら。


ぷちっ


あっ


首。とれた。


彼の首は、5~6回あごを開け閉めしたあと、力尽きた。
僕のせいなの?君がカーペットを離さないから・・・

なにこの後味・・・



今でも思い出す。
僕の夏のトラウマ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?