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鳥飼茜『サターンリターン』完結。

鳥飼茜さんの『サターンリターン』
普段本ばかり読んでる私が、どハマりしたコミックが、9巻10巻の2巻同時発売で最終巻を迎えた。

『サターンリターン』鳥飼茜 小学館
ビッグコミックス


本屋大賞の投票を終えたら絶対やる!って意気込んでいた最終巻を読む前に全巻じっくり読み返すフェスティバルは無事決行され、1巻1巻隅から隅まで読んでは1冊読むのに約1時間。つまりは全部読み返すのに約8時間?結局、新刊ゲットしたのにすぐ読み出せないというもどかしい事態に。早く読みたいけど終わりたくない。そんな想いの中、ただ、ひとつひとつ大切に読み進める。

『サターンリターン』は喪失を描く物語。
本当の喪失というのは、穴埋めとか代用とかそういう類いのものは一切ない。
失って何も無い、喪ってもう二度と何処にも無い。
そういうものが満ち溢れているという、喪失の充満。闇と光。死と生。絶望と希望。
闇夜こそ見える星を信じて。

心の芯を通って身体を震わす不規則呼吸。
何を抉って何を散りばめたら、こんなに空気が淀むの?
濁った闇に足が泥濘み、ジタバタする様にページをめくるもいづれ足らず。

カバーもしくはカバーを外すと現れる小説を読むのがすごく好きなのだけど、2巻の小説の一文には、目が何度も溺れて胸に渦巻いた。

〝言葉はセックスなんかよりも最強の絶頂をくれることがあるのだ、アオイと居るとそんな事を思って、すぐ横からさっきまでの哲学からくだらなすぎる冗談にシフトした彼の雑談が私の耳に再び挿入されて、私は正気を戻そうと苦笑いを決め込んだ〟
サターンリターン2巻 小説部分より

もう昇天……
最早小説で出して!

闇夜にめくった、捲れない闇。
夜の出口にページを失くす。
見えない星に目を凝らすよに、表紙やカバーの言葉も全て、取りこぼすことなく掻き集めるも、白む空だけが希望の幕。
もたれた夜明けが無かったように、しらけた朝が心地無い。

濃密に漂う不穏な香り。
空白と喪失の境界線がぼやけて、空虚になんもかんも投げ捨てたら少しは埋まるんちゃうかなって思えてきたり。

血が流れてる作品だなって思う。
どろりと重い液状が、うねるようなあとがき。
喪失を得て得続けて、微かな光も見過ごすものかと、この闇の中に目を凝らし、ただ最後まで見届けたくて。

そんな頃、社会学者の岸政彦さんがどハマりして一気読みしていて…歓喜!
文學界12月号には、鳥飼茜×岸政彦「物語を駆動させる風景」対談が掲載された。
あれは最高に良かった。
考えたのではなく、引きずり出された物語は、人間のリアルがまんま生きてるんだな、と。
空気感を纏い、鼓動を感じる風景が動く。聖地巡礼ってこうやってしたくなるのね。

人は生きていくのに何度嘘吐くんだろう。
ペン先で心の臓をつぷつぷ刺して描いてるんじゃないかって程のこの作品を最後まで見届けるのに、一体私は何を差し出せばいいんだろう。
ほんととんでもない漫画。
その上、岸政彦さんの解説があったりで、最高に最強なサターンリターンは、とうとうクライマックスへ!

9巻10巻の2巻同時発売!どどんと濃ゆい!
最後の一コマを見た瞬間、波泣き‼︎
主人公の理津子がこの表情になるまでの、今の今までだったのか、と。
この一コマにどれほどの想いが込められているんだろう、って。もうね、魂がおんのよ。その表情が、ほんと思い出すだけで何度でも涙が込み上げてくんのよ。
作品には刺さる言葉が散りばめられていて、付箋貼りたくなる稀有なコミックで、小説書いてくれないかなってよく思ったりしてたんだけど、でもこの表情見たら……ほんとに画力凄い!言葉以上のものをその表情は語り出してて、それが胸にこんなにも刺さる!これが漫画家ってことなんだ!って思った。最強の漫画家や。
本当に身を削って書き続けてきたんだと思う。
私の人生のうちに、この作品を生み出してくれたこと。なんという恵み。本当に心から感謝します。鳥飼茜さん、本当に本当にありがとうございます。

途中大幅に部数減らされたりとか、色々あったみたいだけど、私には何故なのか全く意味がわかりません。むしろ最終巻の最後の一コマ。それを見るために全10巻読むだけの価値があると思っています。
みんなにも加治理津子に出会ってほしいです。

完結して、もうこれ以上会えないのは寂しいけど、でも、最後の一コマで、あの理津子に会えたから、寂しいけど、寂しくないや。

ありがと、加治理津子。

『サターンリターン』全10巻

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