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「それは、ヒャッホー?」 コミュニケーションの揺らぎがイノベーションを創る ―組織開発と新規事業の先駆者が仕掛ける変革のデザイン アデコ土屋恵子×ドコモ笹原優子(前編)

まずは、自らの会社をどう変えようとしているか伺えますか? そのうえで、「社会を変えるには自らの会社から」というお二人の視点に移っていくことができれば。

土屋恵子
アデコ株式会社取締役
ピープルバリュー本部長
ケース・ウェスタン・リザーブ大学経営大学院組織開発修士課程修了。ジョンソン・エンド・ジョンソン、GEなど、主にグローバルカンパニーで20年間以上にわたり、統括人事・人材育成部門の統括責任者として日本およびアジアの人材育成、組織開発の実務に携わる。

笹原優子NTTドコモ イノベーション統括部 グロース・デザイン担当部長
1995年日本女子大卒2013年MITスローン・フェローズ・プログラム卒。
NTTドコモ入社。iモードサービスおよび対応端末の企画に携わる。その後、端末のラインナップおよびデザイン・UX戦略を策定。現在は新事業創出を目的としたプログラム「39works」を運営。プライベートでは東北エリアの社会起業家と共に未来を創造中。

「ヒャッホー」かどうかを事業アイデアの判断基準に

笹原 今、ドコモで新規事業創出のプログラムを運営しているのですが、そのプログラム運営チームの行動指針を「エベレスト・ヒャッホー」で測っているんです。チームから湧き上がったアイデアを「エベレスト」か、「ヒャッホー」なのか、って。

土屋 それは、どういうことでしょうか?(笑)。

笹原 「エベレスト」「ヒャッホー」という言葉を使って、それが高い山、世界一を目指せるようなアイデアかどうか、そのアイデアを心から楽しめているどうかを共有しているんです。

「それはちょっと、『浅間山ぜえぜえ』じゃない?」みたいなアイデアも多いんですよね。

エベレストに比べて「低い山」っていうことなんですけど、やっぱり、より高いものに挑みたいじゃないですか。

私の判断はチームに対しては否定に聞こえたりもするはずなのに、「浅間山ぜえぜえじゃない?」とか、言葉を変えることで、楽しくなるんですよね。

土屋 「そのアイデアがよいと証明しろ」と言われたとたんに、アイデアが出なくなる。ダイバーシティとかイノベーションっていうときに、いまみたいにちょっと子どもっぽさを持ちながら、真剣にやり取りをするのが大事なんですよね。

ヒャッホー感あふれる笹原の表情

「実は聞きたい」をどう引き出すか?―会話の変化すらデザインしていく

土屋 そういう意味で、「ヒャッホー」はたしかに新規事業にフィットしていますよね。いま、脳科学とかいろんな研究が進んできていて、楽しいほうが創発的な取り組みが進むとか、リラックスしているほうがアイデアが出るということがわかってきている。もちろん、記憶にも残る。

笹原 チーム内や社内の日々の会話でも、本心の近くに迫って確かめたいっていう気持ちが強くなってきてますね。会議でも形式上の議事だけで終わるのは好きではなくて、オフィシャルな話し方をしつつ、突然「いまのわかりました?」とかってわざと近しい雰囲気で聞いて、場をなごませたりしてます。

土屋 笹原さんの「「いまのわかりました?」ひとことで、「実は聞きたい」が生まれる。それを引き出すことが最も重要で、会社の中の会話が変わらないとイノベーションは起きないわけです。

ダイバーシティ重視の原点は、iモードの立ち上げからだった

土屋 そもそも新規事業への取り組み始めたのはいつ頃からなんですか?

笹原 データ通信系の部署に3年いて、それが楽しかったので、急にiモードの部署に異動ですって言われたときは、希望してなくて、びっくりして泣いてしまったくらいで。

新部署には転職組の人もたくさんいて「誰なんだろう」っていう人たちばかりで、社内の流儀とかカルチャーとちょっと違うんです。外国の人より外国人みたいな。

土屋 面白いですね。

笹原 もともと「あの部署はなんだろう」と思ってたので、それで異動って言われた瞬間に「えっ、あの部署に行くんだ」と思って。

土屋 もう海外へ行くんだ、ぐらいの衝撃?

笹原 もう海外行くぐらいのレベルでびっくりして(笑)。で、行きました。

土屋 最初はどんなことをされたんですか?

笹原 その前はずっと端末の企画をやっていたので、やっぱり端末。iモードの携帯電話の企画と仕様検討をやって、iモードのサービスでこういうことをやりたいって言ったときに、どういうふうにこのボタンキーで操作するのかとか考えたりとか、あと絵文字をどう乗せるのかとか。

土屋 絵文字!すごい面白かったですよね。iモードの最初の頃って、本当に「わー」ってみんなが楽しんでいる感じがあって。iPhoneより先ですもんね。

笹原 iモードは1999年ですから。iPhoneは2007年。

笹原 異国の地に飛ばされたのかと思いきや、そこがゆくゆくすごい華やかになったというわけなんですよね。

行ったら行ったで、ここの部署って「あっちに行くぜ!」というのがすごく明確に示されていたので、担当者として心配とかあんまり考えなくてよい部署だったんです。

ただ一生懸命「あっちです」って言われたところに達して行ったら、気づいたらあれよあれよとユーザー増えていて、何百万人になってしまった。あんなに旗の立て方が明確だったのはいまでも忘れられないです。

土屋 ドコモのように、NTTグループの中でも最先端の会社で、その中でも笹原さんのように、いろんなところから人を集めてきて、そのトップランナーたちが集まって旗を立てるチームをつくってっていうこともすごいし、そこにいらしたっていうのも出会いですよね。

「これ、落ちてました」と笹原

落とし物みたいな仕事は、勝手にやれば良かった

笹原 事業の成長も早いので、落とし物みたいな仕事もたまに見つかるんですよ。「これ落ちてました」みたいな。

それで、上司とかに「すみません、これ落ちてました」って言うと、「やれば」って言われて。当時は私のほうがどちらかというと組織を考えすぎるというか、ちょっとバイアスがかかっているというか、変に慎重になってしまって。

だから、「いや、この仕事は整理上はあの担当だと思います」とかって渡そうとしたら、「でも、あの担当がいまできると思う?」「できません」「じゃあ、やったらいいじゃない」って、「そうですよね」って。

土屋 面白いですね。

会議室に行くと「しゃべらないやつは出ていけ」

笹原 だから、自分が拾いたくなくても、落とし物に気づいたらやる。なんか楽しい部署でした。いい上司に恵まれて。

会議室に行くと「しゃべらないやつは出ていけ」って言われたりとか。その後、MITに留学する機会があったのですが、そこで学びたかったのは、iモードの組織が一体何だったのかということでした。

わかったのは、ダイバーシティがあの中であったということ。オープン、フラット、ダイバーシティの3つの要素が揃っていた。互いをちゃんとリスペクトして聞いてくれる感じもあった。それがすごいよく作用していて、あれがイノベーションを起こした理由だったんだなって気づきました。

日々、ものの見方を刷新していくきっかけがあるかどうかで、イノベーションを起こせるかは決まってしまう

話は戻りますが、ドコモのような巨大企業であっても、「ヒャッホー」で、組織の硬さや敷居が取れるということですか?

土屋 取れます。「ヒャッホー?」と言われると、チームならではの意味が生まれる。ものすごくセンスがいいと思います。

「ヒャッホー」のいいところは、普段だったら選ばないことを思い切ってやってごらん、という誘いにもなっているわけですね。

笹原 誘っているというか、「はめません」と思わせるようにしてます。若かりし頃は策に溺れることもありましたが、腹を割って話せるほうが単純に楽しいですからね。

土屋 イノベーションは日々の人との対話から生まれるので、学ぶことが多いほどイノベーションは起きやすい。だから、ぶつかったりする環境が組織の中にあるかどうかが大事。それが普段からあるかどうかですよね。

日常のなかに、ものの見方を刷新していくきっかけがあるかどうかで、イノベーションを起こせるかは決まってしまうわけです。

笹原の話を受け止めて広げる土屋

だから、互いの中にある多面性を、どう掛け合わせていくか

土屋 たとえば、日本で「大手企業で勤めている」というメインストリームにいると、無自覚にイケてるって思ってしまうところがある。だから、成田を一歩でて、世界の中でひとりになると、あれ、違うぞ、どうしようと思ってしまう。でも、この感覚って大事なんですよね。自分の中の多様性が開かれる感覚。

みんなそれぞれ、会社員でありながら、もちろん家族の成員であるし、社会というコミュニティの一員でもある。いろんな多面性を持っていて、そのお互いがチームになって関わりを持っているわけです。

だから、一人の自分としての感覚から始めることって大事ですね。

笹原 お父さん、お母さんっていうだけでもすごいですもんね。

どんな人にもいろんな面があって、実はみんなマルチワークをしてる。そこから認め合えるといいですね。

2018.1.24
書き手・加藤徹生


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