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たった一日のボランティアですら、組織は変えられる ―組織開発と新規事業の先駆者が仕掛ける変革のデザイン アデコ土屋恵子×ドコモ笹原優子(後編)

加藤 お二人とも、社会的な何かと事業的な何かを両立しようとしていますよね。そのために必要なことを直感的にわかっているように見えるのですがその感覚はどういったところから生まれてきたのでしょうか。

外で起きていることは中にあったほうがいい

土屋 たとえば海外で会議をすると、滞在中1日は現地でボランティア活動をしたり、普段行かないところに行ったりすることがあります。わたしも以前、タイで水害があったときに、奥地にある小学校へ手伝いに行ったことがありますが、それだけでいろんなことを考えさせられます。

海外に行かなくても、ちょっとしたボランティアで社会課題に触れることが大事だと思っています。企業って、社会に向けてサービスやモノを提供しているので、社会と切れちゃうとイノベーションは起きなくなる。「外で起きていること」は「中(組織内)」にもあったほうがいいですね。

ダイバーシティについても、少子高齢化の中で起きているいろんな変化を企業でも先取りしたほうがいい。それには、社外での体験や学習をデザインしていく必要があるわけです。

たとえば企業組織が同世代の男性ばかりで構成されているとすると、「変数」が少なすぎる。ある程度の規模になったら、社会に近い多様性があったほうがいいわけです。

生態系というようなキーワードも使われ始めていますが、学習のプロセスは本来有機的なもので、それを取り戻していく必要があると考えています。

話し「手」の豊かな表情と、聞き「手」の傾聴の姿勢

エグゼクティブになればなるほど、学ぶ場がなくなる

笹原 ボランティアを通して、地域に入って過ごすっていいですね。やってみたいです。

土屋 エグゼクティブになればなるほど学ぶ場がなくなりますからね。どうしても、学びを提供する側になってしまう。それが、もったいない。

もっと意外性に開かれるとか、新しい観点を体験するとか。できれば時間も場所も違うところで、新しい人や空気から何か違うものを体験する。

そういうところで社会システムで何が起きてるんだろうって考えないと、未来は考えられないんですよね。

多様性は自分の内側を開くことから―「けいちゃんって呼んでください」

土屋 ボランティアを通して、地域に入って過ごすっていいですね。やってみたいです。

たとえばわたしは、常に「○○部長」って記号で呼ばれるのっておかしいなと思って、あるときから「けいちゃんって呼んでください」って言ってるんです。

加藤 会社で、ですか?

土屋 会社では言いませんけどね。まずは、自分のネットワークの中で「恵子さん」っていうのを「けいちゃん」と呼んでくださいというと、揺らぎが起こる。その中で新しい価値観が生まれてくるんです。

「一番エネルギーを使っている世の中との関わり方はなんですか?」

土屋 海外に行って「あなたは何をしている人ですか?」って聞かれたときに、通常はプロフェッションを聞かれているわけですが、日本では会社名、所属を名乗るじゃないですか。それぞれみんなアイデンティティは違う。いろんなアイデンティティがある中で、自分が一番しっくりくるアイデンティティが何か、改めて見てみるのはいいですよね。「自分が大事だと思っていて、一番エネルギーを使っている世の中との関わり方はなんですか?」という聞き方もいいかもしれません。

「けいちゃん」と「裏口」で揺らぎを起こす

あえて、ドコモで「裏口」という役割を取った理由

加藤 笹原さんは周囲の方々に「ドコモの裏口」って呼ばれてるとか。

笹原 自分で自分にキャッチフレーズを付けたら、周囲にバカ受けしてしまって(笑)。

裏口といっても、不正な入口といった悪い意味の裏口じゃないですよ。勝手口、みたいな。

大企業って正面から入りにくいですが、「ここから入れます」みたいな空間って大事じゃないかと。大企業って結構、そういう役割を担う人の価値ってあると思うんです。

土屋 たしかに、裏口がある企業って懐が広い。

笹原 「自分の役割」を取ることができると、「ドコモ」という看板から、急に自分を見てくれるようになる。一気に距離が近くなる。それがたまたま、「裏口」だったんですよね。

土屋 笹原さんは、その達人かもしれないですね。企業の名刺を持ちながら、スパンとその役割を外す。名刺の世界も大事にしながら。

多面性を回復する機会としてのパラレルキャリア

加藤 世界と企業、個人と企業というものをあまり分けていない印象を受けますが。

笹原 わたしは全然分けてないですね。

土屋 昔の組織と違って、いまは多面性を持つことが重要ですからね。そういった意味からも、アデコではパラレルキャリアを採用しています。好きな仕事をしてますというだけではなく、それ以外にもパッションを燃やせることがあるときに、会社が認められるといいなと思って展開しました。

最初は心配の声もあったんです。働きすぎるんじゃないかとか、本業への情熱がなくなるのではないかとか。ただ、紆余曲折を経て、心配だから規制するのではなくて、信頼して開こうという結論に至りました。

社員にとって大事なことはひとつじゃない、複数あったときに会社を辞めなくてもできる。そういう状態を目指そうと。でも私個人としては、どんな申請があがってくるかとドキドキしていました。

第1号は、腎臓移植を待ってる患者と医者をつなぐドナーコーディネーターでした。月に1回半日ですが、いつそれが来るかわからない。だから、パラレルキャリアとして認めて欲しい、と。第1号がそういった申請だったことは、アデコ全体にとって、心が洗われるような気持ちになりました。

その人なりの人生の価値観があって、いろんな人がいろんな価値観、いろんな情熱を燃やすときに、働く職場がその選択肢を増やすのはいいな、と改めて感じました。

苦労話にも笑顔があふれる

ダイバーシティってすごく面倒くさい。だから、楽しむ。

土屋 人事の立場で言うのも何ですが、ダイバーシティって手間がかかることが多い。コミュニケーションひとつとってみても、たとえばインド人から「パーフェクト!」って言われて「どういう意味だ」と聞き返すと、「ワーカブル(workable)だ」と言われる。その差ですよね。

完璧主義の日本人が、「パーフェクト!」と言われてイメージするものと、とりあえず動けばいいというインド人らしい感覚にはずれがあって、意思疎通をするのにも時間がかかることが多い。

笹原 面倒くさいですよね。だから、楽しい。

土屋 そう、その多様性を楽しむのがいい。

笹原 それが通じ合ったときの快感を大切にしていきたいですね。

2018.1.24
書き手・加藤徹生


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