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個別の建築デザインだけでは解決できない社会問題がある。目指すのは、人口密度の高いコンパクトな街づくり

 「想像する建築」。ReeLが実現するのは、土地や建物が秘めた潜在力を引き出すこと。あらゆる不動産をあるべき姿に変え、経済の活性化と都市の最適化を目指す。企業理念は「今の資源で未来の宝を作る」。その第一歩として、4月20日にマンションリノベーションの常設モデルルーム「Vintage01」を新潟市の人気エリアにオープンした。都市部のリノベこそ、これからの時代の最適解。想像する建築家・私 弦巻大輔が思いを語ります。



今の時代の豊かさの追求が、未来の世代の不幸せに繋がっている


 2024年4月20日、ReeLはマンションリノベーションの常設モデルルーム「Vintage01」を新潟市西区に開設しました。2021年、掲げた理念達成のために立ち上げたReeLの思想を吹き込み、モデルルームという形にすることで、リノベーションの魅力を具体的にお伝えすることが目的です。
 今、なぜリノベーションなのか。少し長くなりますが、僕がReeLを立ち上げた経緯から説明したいと思います。

 以前、僕はキューブデザインという設計事務所で代表を務めていました。
そもそもキューブデザインを立ち上げた理由は、「格好悪い建物ばっかりだな。絶対、俺が考えた方が格好いいものができるわ」という思いから。まあ、当時は26歳だったので(笑)。当時、デザイン住宅は設計事務所さんが年間1〜2棟、小規模で手掛けている程度で、広くは周知されていなかったと思います。そうした背景もあり、キューブデザインが打ち出したデザイン性の高い住宅は、これまでになかった選択肢として受け入れられていったところもあると思います。
 新潟の業界内だけですが、「破竹の勢い」と言われていました。同業者から「アイツら、突然出てきてすごい勢いだな」みたいな感じでした(笑)。
2名のスタッフと共に2002年に立ち上げてから、業績は右肩上がり。10年ほどでスタッフを多数抱える事務所になりました。創業14年目の2016年には、売上は年間7億円ほどに成長していました。

 そうなると、次は10億円、その先は100億円、と売上目標を増やすステップになると思うのですが、何のために増やすのか。その理念と、それに基づくビジョンが僕には構築できなかった。
 数字上の目標なら、いくらでも組み立てられたとは思うんです。でも、目的がしっかりしていなければ、ただ数字を追いかけているだけになってしまいます。
 キューブデザインで「デザイン性の高い建築を普及する」ことが、ある程度、達成できたこともあって、その後、何のために事業を拡大するのか。大事な理念が作れなくなっていったという感じです。

 これは僕の性格なんですけど、子どもの頃から自問自答するのがクセなんです。資質診断みたいなものをすると、必ず「内省」っていう資質が出てくる。だから、調子がいいときほど、「いや、なんかこれ、ちょっとおかしくないか?」と頭が動き始めちゃうタイプなんです。

 業績は好調なのに、なぜ数字を増やしていくことに、納得いく答えを見出せなかったのか。詰まるところ、今の時代を生きているわれわれの豊かさの追求が、結局、未来の世代や人間以外の生き物の不幸せに繋がっている感覚が、ずっと無くせなかったんです。

 調べてみたら「アースオーバーシュートデー(Earth Overshoot Day)」といって、地球の生態系がその年に食料や衣類・建材などとして供給できるすべての生物資源の容量を、年初から数えて人類が使い果たす日があるんです。人間活動による環境負荷を可視化する目的で、毎年国際環境シンクタンクのグローバル・フットプリント・ネットワークが発表しています。オーバーシュートは「行き過ぎる」という意味で、人類の資源使用量はこの日に地球の再生能力を超え、年末まで未来世代に「借金」しながら暮らすことになります。
 日本のアース・オーバーシュート・デーは5月で、世界平均より約3ヶ月早いです(注:2000年は5月2日、2021年から2023年は5月6日。)。そこから12月までは、未来の資源を前借りしているということになります。やはり、僕の感覚は、間違っていなかったなって。

 それを知ってもなお資源の前借りがやめられず、今の富や幸せの追求をするって、一体なんなのかなっていうのが、自分の中にずっとある課題だったんですよね。
 大体みんなにこの話をすると、ポカーンとした顔になって「なんか、いろいろ考えてるんだね……(苦笑)」みたいな感じで終わっちゃうんですけど、自分はそれで終わらせられなくて。こういう現実が目の前にあるのに、ビジネスを拡大していく正当性みたいなものを、自分の中で作れなかったんです。

 会社が少人数の頃は、人間同士の関係性でビジネスができていました。でも、社員が増えてくると「こっちに行くぞ!」と掲げる理念がないと、全員の力を結集できない。そういう理念を構築することすらできない経営者がスタッフを率いることは、絶対に良くないし、会社も良くなっていかないだろうなと思いました。
 何より、違和感を持ちながらも続けている自分が許せなかったんです。もう、個別の建築デザインや個別の住宅性能では、自分が抱えている問題意識を何も解決できないと気付いてしまったので。

 引退を決意したのは、2016年でした。信頼のおけるスタッフに、「事業継承をしてみないか」と打診すると、「社長がそう言ってくれるんだったら、ぜひ」と引き受けてくれました。
 ただ会社の規模が大きくなっていたこともあり、引き継ぎやお客さまへのフォローも万全に行うことを考慮して、決断から5年間をかけて事業継承を行いました。



「今の資源で未来の宝を作る」 それは、整理された人口密度の高いコンパクトな街


 キューブデザインで理念とビジョンを構築できなかった反省から、新しい会社では、まず「何のために自分たちは事業をやるのか」を突き詰めるところからスタートしました。

 これは例え話ですが、オリンピックのメダリストには、2通りの人がいるらしいんですよ。1つは小さい頃から好きなことをやり続けていたら、メダリストになっちゃったっていうタイプ。もう1つは「メダリストになろう」と決めて、そこからの逆算で練習メニューを決めてメダリストになっていくタイプ。
 キューブデザインの頃の僕は、どちらかというと好きなことをやっていたらメダリストになっちゃったっていう、前者タイプだったんですよ。 ただ、そこで理念構築という壁にぶち当たったので、次の会社は必ず逆でやろうと考えていました。ReeLでは、成し遂げたいことを決めて、そのためには何が必要かを考えて動き出しました。

 導き出したReeLの理念は、「今の資源で未来の宝を作る」こと。だって、資源を前借りしているんだから、何らかの形で未来世代に返さないといけないですよね?

 例えば、エコロジーの観点からいいものを作ったつもりでも、長い目での想像力を欠くと最終的にはゴミになってしまう可能性もある。未来世代から前借りまでして、未来世代のゴミを作ってしまっていたという恐ろしいオチに繋がりかねない。

廃棄された未使用のEV

 だからこそ、未来の宝を作るには、「想像」が本当に重要になるんです。
クリエーション(創造)の前にイマジネーション(想像)が絶対に必要。未来のことを考えるには、めちゃくちゃ想像力が大事なんです。

 じゃあ、僕が今いる不動産業界や建築業界で作ることができる「未来の宝」って何だろう。最大限、想像力を働かせて出た結論が「人口密度の高いコンパクトな街」を作り「街を整理整頓する」ことでした。
 密度の高まった街の中で、何が供給過剰で供給不足なのか。テクノロジーも活用した合理的な判断に基づき整えていくということです。整理された「人口密度の高いコンパクトな街」は、未来世代にとっても、人間以外の生物にとっても間違いなく宝になる。それは、今の時点で自信を持って言えます。



郊外に広がった街を“逆再生”するのは、不動産や建築業界の責任


 「人口密度の高いコンパクトな街」のメリットは、国土交通省が打ち出している「コンパクトシティ政策」を参照していただければ分かりやすいと思います。
 街が小さいと、職場や学校への移動、買い物、公共施設への移動時間が減り、時間を趣味などに有効活用することが可能になります。また行政サービスも充実します。住民が集まれば税収も増え、地域の財政基盤が安定します。生活に必要なインフラの整備も進み、道路や橋、給水管や排水管の維持管理も限られたエリアなのでスムーズで低コストに。また環境面でも、車に乗る頻度が減るためCO2(二酸化炭素)の発生による地球温暖化も抑制。郊外の山や森を切り開いて宅地にする必要もなくなります。
 もちろん今はインターネットの技術で、遠く離れていても成り立つことは多いんですけど、やっぱり人間って物体なので、エリアの問題はとても重要だと思うんです。

 高度経済成長とともに広がってしまった街を“逆再生”して、コンパクトで密度の高い状態を作る。これは、建築や不動産の業界にいる人間の責任だと思いますね。
 郊外に人が移って都市の中心部が空洞化することを「ドーナツ化現象」と言いますが、それは中心部の住居費が高くなって、外に行かざるを得なくなったから。
 今、新潟市中心部で新築の家を建てようとすると、土地含めて平均4500万円ほどかかります。そんなの、一般的な所得の人たちはなかなか手が出ない。じゃあ、一般的な所得の人たちが、新潟市の中心部分に住むためにはどうするべきか。
 例えば、平均的な世帯年収800万円ほどの家族が中心部で生活するためには、2000万台半ばぐらいの予算で整わないと、苦しい。それをかなえる手段の1つが、中古マンションのリノベーションなんです。

 まず、価格が安く済む。新築の6〜7割ぐらいの金額で済むのは、ものすごく大きいことだと思います。
 少し前に話題になった「老後2000万円問題(※)」も、新築せずに浮いたお金で解決できるんじゃないか。そういう意味でも、価格の部分はすごく大きいと思います。
(※注:金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」による「老後20~30 年間で約1,300 万円~2,000 万円が不足する」という試算に基づく、老後資金形成をめぐる問題)

 とはいえ、若い人たちも安かろう悪かろうみたいな家に住みたくはないと思うので、デザイン性、機能性を含めてしっかりと作られたものなら、刺さると思うんですよ。

 都市部のマンションは、利便性の高さも魅力です。今回、モデルルームを作らせていただいた 新潟市西区青山エリアのマンションは、最寄りのバス停には10分に1本くらいバスが停まりますし、最寄りのJR青山駅まで徒歩8分。大型スーパーも近くにあります。
 人口が増えれば需要が生まれ、供給も発生するので、徒歩圏内でいろんなものが成り立つ状態になっていく。街の人口密度が高くなれば、ますます利便性も高くなります。
 それに、中心エリアなら、将来的な資産価値の面でも有利ですよ。今、郊外にある住宅は、人口がこれから急激に減っていく中で10年、20年経ったらどうなるか……想像がつきますよね。住宅地の郊外化は、すごく楽なビジネスの手法なんですけど、必ず負の遺産になる。もう、これは断言します。それこそ前借りした資源で、確実に未来のゴミを作っています。


常設モデルルームで、マンションリノベーションの価値を伝える


モデルルームのリビング

 今回、マンションリノベーションのモデルルームを作ったのは、ケーススタディーとして見ていただきたいから。このモデルルーム自体を売りたいというより、「こういう家の買い方があるんだ」と気付いていただくためなんです。
 周りの皆さんからの声で多いのが「こういう手があることを知らなかった」「リノベーションは聞いたことがあるけれど、商品になっていないからよく分からなかった」というもの。それも、これまでできていなかった僕ら不動産業者、建築業者の責任だと感じています。

 ただ「中古マンション」と聞くと、少しネガティブなイメージを持たれる方もいると思います。そういう方にこそ、ReeLのモデルルームを見ていただきたいです。「スケルトンリノベーション」といって、骨組み以外はすべて取り払ってデザインするため、ほぼ新築同様のオーダーができるんですよ。
鉄筋コンクリートのマンションは、維持管理がしっかりとできていれば100年以上持つ。モデルルームのあるマンションは、まだ築44年なんで、あと50年は住めるわけです。


モデルルームのダイニングキッチン

 もちろん新築の住宅に比べたら、性能面で劣るところはあるかもしれませんが、購入費用や立地などのメリットも大きい。「未来の世代に宝を残す」ということがみんなの共通意識になれば、少しのデメリットは許容できるものになると思います。

 もちろん、一定以上の世帯所得の方は、どんどん新築で建ててくださっていいと思うんですよ。僕も新築住宅の設計は大好きですし。性能のいい住宅を作って、地球環境に貢献してくださればいいなと思います。でも今は大半の人が、そうした高性能な住宅には手が届かなくなっているという矛盾がある。
 だからこそ、マンションリノベーションという選択肢の魅力を伝え、積極的に選んでいただくことで、「人口密度の高いコンパクトな街」づくりを進めていけたらと考えています。
 これから家作りを考えている20代、30代の方に、ぜひReeLのモデルルーム「Vintage01」を見ていただきたいですね。あとは子育てを終えて、住まいをダウンサイジングしたいと考えられているシニア世代の方におすすめしたいです。


共感者を増やし、やがて大きなムーブメントになるという可能性にかける



 僕の考えをこうして伝えているわけですが、いろんな業界に波及していってほしいなと思っています。日本は少子高齢化社会ですが、逆にこういう不利な状況のトップランナーと考えて、「資源を無駄に使わずに、未来の世代に宝を残していこうぜ!」と世界に発信するぐらいのムーブメントを起こせたらいいなと思います。
 多分、こういうことを考えている人たちって、あちこちに絶対いるはずなので、やがてみんなに広がって、当たり前になるといいなと思います。

 僕が26歳でキューブデザインを立ち上げたときの「格好いいものを作ろうぜ」みたいな局所的な価値の構築ではなく、「人口密度の高いコンパクトな街」づくりは世界に拡大できるような考え方だと思っています。でも、そうそう簡単に達成できることではないと思うので、ライフワークとしてやり続けたい。
 日本は民主主義なので、突然、王様が登場して「ルール変更!」なんていうわけにも当然行かない。だから、民間の僕らが少しずつできることを始めて方向付けをしていく。それに共感してくれる人が少しずつ増えてくれたら、やがて大きなムーブメントになるという可能性にかけるしかないと思っています。







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