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『 巡礼 』

わたしは
人を殺したことがあります

その人は
物心ついた頃から
いつも言葉の刃で切りつけられて 
身も心も傷だらけで
酷く怯えた目を持ちながらも
口許には
いつも笑みが張り付いていました

悪くもないのに
ごめんなさい
が口癖で
悪いことが起こるのではないかと
いつも明日が来るのを恐れている

そんな人でした

それでもその人は
いつか報われる日が来ることを

あの天空から
きっと神は見放さずに見ていてくれると
心のどこかで信じながら

寄せ来る不幸の荒波を
ぼろぼろの危なっかしい舟で
懸命に乗り越えて生きていたのです

わたしはそれを
いつも側で見ていました

そうです
その人の頑張る姿を
懸命に生きた日々を

一番知っていたのは
わたし以外には居なかったのです

なのにわたしは
あの日

自信にみなぎる人々に圧倒されて
壇上で言ったのです

この人は空っぽです
何も残して来ませんでした
皆さんのように
誇れるものは何一つありません

その瞬間
彼女はわたしに
驚嘆の目を向け

やがてそれは哀しみの色へと変わっていったのです

そしてその時以来
彼女の魂はその身を置き去りに
遠く遠く
あてもなく旅立ちました

彼女は
生くる屍となったのです

言葉の刃で
人の息の根を止めることが出来ると
わたしはあの日
初めて知りました

それからわたしは
生くる屍と共に
この長い人生という旅路を

ずっと歩いているのです

逃げていった
魂の居場所を探して

それを取り戻すことが出来るのは
わたし以外にいないのですから

そして今
わたしとその人は
この壇上に立っています

そこにいる魂に呼びかけるために

戻っておいで

あなたの人生は
素晴らしかったよ

 



※以前、多分評価は低いだろう、 と思いながら、
ポエトリーの大会で 詠んだ詩です。

どうしても、どうしても
私がわたしのために、書いて、届けてあげなくてはならない言葉だっだから。
それも壇上で、
大勢の人の前で。
失ったものを
取り戻すために。

案の定、評価はとても低く、私は号泣しましたが、
今はよくやったと、褒めてあげています。
私が
そして
わたしが。

🍀泣きながらこの話をした時に、
「そんなユーカラさんを、誇りに思います」
と言ってくれた貴方に、今も、心から感謝しています。

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