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転職25回 〜10回 Vol.2〜

前回までのあらすじ
・新卒でブラック企業に就職したものの、約2ヶ月で退職。
・IT企業に就職するも、借金返済が追い付かずに退職。
・ソープランドに転職。過酷&ハイリスクなので退職。
・ボッタクリヘルス店。天才的詐欺師の才能を発揮するが1日で退職。
・イメクラ勤務。風俗嬢Tちゃんとの同棲を解消しボロアパート暮らし。退職。
・探偵に憧れて、なぜか警備員。飽きて退職。
・高給に釣られてケーブルテレビの飛び込み営業。心が折れて退職。
・再びIT業界。カチャカチャしている内に心の傷が癒えて再び探偵を目指し退職。
・バイク便。ロシア大使館の車両とクラッシュで恐ロシア。退職。
・ADSLサポートコールセンター。金髪になる。飽きたから退職。
・なぜかホストクラブ勤務。ニワカホスト瞬クンとしてデビュー。

さて、コールセンター勤務中に金髪になり、退職後になぜかホストデビューした話の続きです。

「ホスト=ベンツでロレックスでアルマーニ」みたいなイメージがあるかもしれませんが、実際にはそんなリッチなホスト様はトップオブトップのみです。
ほとんどのホストは、それほど稼いでおりません。それなのにロレックスしてたりアルマーニ着ていたりするのは、「あ、これ?ロレックス。オレ、こんなの余裕で買えっから」というポーズを取るため。誰にそのポーズを取るのか?もちろん、ホストクラブのお客様たる淑女の皆様に対してですね。
淑女の方々は、大枚はたいてホストクラブへ夢を見に来ているのです。そのお相手が貧乏な不人気ホストでは話になりません。人気のないホストより、貧乏なホストより、イケてる人気ホストと遊びたい。
行列ができるラーメン屋には行列が並び、行列ができるホストには行列ができるのです。そして、人気ホスト様はベンツでロレックスでアルマーニの道へと進むのです。

何を書いているのか良く分からなくなってまいりましたが、気にせず話を進めましょう。

上記のような事から、新人ホスト君が稼ぐのはなかなかハードルが高いのはお分かりでしょう。そりゃあ、新人君だってスペシャルなイケメンだったりすればいきなり稼げるかもしれませんが、人気ホスト様の人気を支えるためには「ヘルプ」という取り巻きの存在が欠かせません。ヘルプについては後述いたします。
とにかく、ホストは人気商売。人気がなければお給料はございません。お給料がなければロレックスもアルマーニも着用できないのです。
まぁ、借金をして買うという選択肢もありますが、当方はすでに借金まみれ。当時イケイケだった消費者金融の武○士ですら、ご融資お断りする始末でした。

そんな新人や人気のないホストたちがやれる事は1つ。そうです、路上に出て「キャッチ」をするのです。
「キャッチ」というのはご存知の方も多いと思いますが、要するに道歩く淑女の方々にお声がけし、「遊びに来ませんか?」と誘う行為です。お誘いをしても基本的には無視をされます。しかし、万に一つの可能性を信じて、ひたすらにお声がけを続ける荒行です。飛び込み営業も真っ青な苦行です。
ちなみに、現在の東京都ではキャッチ行為は条例で禁止されているでしょうが、当時は確か条例ができる前でした。
とまあ、ここまで書いておいてアレですが、実は自分はキャッチをした事がありません。

ホストデビュー当日、お店の業務を覚えて欲しい…てゆうか覚えろ!ということで、お店でヘルプをする事になりました。
出てきましたヘルプ。ヘルプとは何ぞや?ですね。
これまたご存じの方もいらっしゃるでしょうが、ヘルプとは他のホスト(基本的には人気ホスト様)を助ける役目を負った人のことです。

人気ホスト様にもなれば、同時に指名客が複数人来店することもあります。人気ホスト様も人の子。一度に接客できるのは1名様のみ。マルチタスク不可です。
だからと言って、A子さんのお相手をしている時にB子さんをほったらかしておいたら、B子さんがカンカンになり兼ねません。これはピンチ!
そんなピンチをヘルプするのがヘルプの仕事。要するに、人気ホスト様が不在の際に、B子さんのお話し相手になってあげるのですな。
なので、人気ホスト様の下には数名のヘルプが組織されています。孤高の狼では人気ホストはつとまらないのです!(←偉そうに書いてますが、別に人気ホストになった事はありません)

解説がいちいち長いのですが、そろそろヘルプの話を。
初日ということで、自分は別に誰かの下に付いてはいません。まさに孤高の狼。そして指名ゼロ&人気ゼロ。
その日は同じような立場の新人ホスト氏がおり、彼からいろいろと説明を受けました。まぁ、何を言われたかは覚えていません。
とりあえず、しばらくはお店のすみっコで店内を観察します。
時々テレビのドキュメンタリーですとかドラマで、ホストクラブの映像が写ることがありますよね?
何やら、ワケの分からんコールをして数十万円の高級シャンパンや高級ワインを開栓。それを湯水のごとくガブガブ飲む映像。
あんなのは冗談かと思っていましたがマジでした。飛び交うコール、ガブガブシャンパン。そして驚愕のお会計。

それを見ている内に、自分の心は何やら冷静になっていきました。というよりも、なんだかバカバカしくなりました。
こりゃダメだ。絶対にキャラに合わない。ホストに比べれば、飛び込み営業やった方がまだ稼げる確率は高そうだ。
よし、辞めよう。ホストデビューして2〜3時間ほどだったと思いますが、そう心に誓いました。

しかしその後、奇跡のような事件が起こります。

深夜、2人組の若い女性客が来店しました。どちらも指名の無いフリー客です。
店内は非常に混み合っておりました。人気ホスト様もヘルプ達も、そのフリー客を相手にしているヒマはなさそうです。
そこで、我々新人ホストコンビが出動することになったのです。
まぁ、何を話したかはあまり覚えていません。とにかく、先輩新人ホスト氏がオシャベリしまくるので、こっちは何も言えずにボーッとしていました。
そんな時、自分の隣に座ったフリー客C子がタバコをくわえました。どうやら、先輩新人ホスト氏のお話がお気に召している感じではありません。
さて、いよいよ新人ホスト瞬クン(自分のことですよ)の初仕事です!ここはマッハを超える光速でライターを差し出し、タバコに火をつけなければいけません!
しかし、当方は聖闘士…もとい、ホストなりたてのド新人。まるでスカーレットニードルを食らったキグナス氷河のごとく、ピクリとも動けませんでした。
ビックリしたのはC子(←普通に使ってますが、仮にそう呼んでます)でしょう。ホストなのにタバコに火をつけない?何なのコイツ?まるで鳳凰幻魔拳を食らったような顔で、こちらを凝視しています。こ…これは…ヤバイ…。
そんな自分を救ってくれたのは、なんと先輩新人ホスト氏でした。「あー、彼ねー今日入ったばかりの新人君でねーホストの経験もなくてねー気が付かずスミマセンねー」的な感じでC子に説明してくれたのです。うーむ、ナイス先輩。自分が女性客だったら彼を指名するかもしれません。いや、嘘です。しません。
とりあえず、その説明のおかげでC子のビックリは収まりました。そして、どうやらそんなピュアな新人ホスト君に興味を持ったらしく、やたらと自分に質問をしてきました。まぁ、今となったら何を質問されたのかも覚えていませんが。覚えてないことだらけで申し訳ない(笑)。
ここでいきなりカミングアウトですが、自分は非常に口下手です。営業およびコールセンター経験者とは思えないほどの無口です。今もそうですが、当時はもっと無口でした。
なので、質問をされたらモグモグとお返事。それでC子がワーワーっと何かをしゃべってからまた質問。モグモグお返事。ワーワー&質問。
そんなことをしていると、C子から思いもよらない一言が発せられました。
「瞬クンってホスト向きの性格だよねー。私、指名しようかなー」

おー、初出勤で初指名か?!これはちょっとした奇跡!セブンセンシズに目覚めてしまったといっても過言ではありません!
とはいえ、実はこれは危険な兆候でもありました。世の中には「新人ホスト」を食い物にする女傑がいるのです。どういう方なのかというと、あえて経験の少ない新人ホスト君を指名して、高級シャンパンをガブガブ飲みまくります。しかし、お会計になると現金は払いません。ツケです。総額50万円とかをツケにするのです。
新人ホスト君の立場としたらツケ払いにさせるのはリスクが高いです。なぜなら、ツケを払わずにトンズラされてしまうと、その金額は新人ホスト君が負担しなければいけないからです。
しかし、せっかく掴んだ金ヅル。ご機嫌を損ねて嫌われてしまったら元も子もない…という事でツケを容認します。そして案の定トンズラされてツケを肩代わりさせられるのです。

今でこそそんな事も知っていますが、当時は何も知りません。単純にちょっと喜びました。
とはいえ、ほんのさっきまで「今日で辞めよう」と思っていたのは事実です。それに、結局その日はC子が指名もせずに帰ってしまったことで冷静になりました。
もしかしたら、さっきの言葉通りに後日指名をしてくれるかもしれません。してくれないかもしれません。後日といっても数週間先になるかもしれません。いや、もう来ないかも。
ヘルプの席で飲ませたビールのせいで朦朧となった脳ミソで色々と考えましたが、もちろん答えはありませんでした。

そして歌舞伎町に朝がやってきました。
指名はありませんでした。もちろん給料はゼロ円です。
帰り際に店長に伝えました。「スミマセンが今日で辞めます。ちょっと合いません」
そして、歌舞伎町の新人ホスト瞬クンは、わずか1日で引退したのでした。

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