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小説を書き溜めてる大学ノートがない。もしかしたら、図書館に忘れてきたのかも。図書館は私の書斎代わり。私はほぼ毎日、閉館時間ギリギリまで居座り、ここで小説を書いている。

翌日、図書館に行ってみた。カウンターで忘れものの事を聞くと、直ぐに持って来てくれた。

あった!よかった。

そう叫んで、ノートを受け取る。あれ?何か挟まっている。猫の形をしたクリップ型の栞だ。面白い栞、初めて見たかも。そう思いなから、挟まれてたページを開くと

このページに書かれているキャラクター、とてもリアリティがありますね。この人を主人公にしたら、もっと面白いのが書けるかも。

と書かれた付箋が貼られていた。

なんだよ!余計なお世話!と、腹を立てた私だったが、最近自分でも納得いく作品が書けてない。試しにこの提案に乗ってみるのも面白いかもと思い、書きかけの作品をもう一度読み返してみた。

いつもたくさんのお友達に囲まれている美少女を主人公にした作品だが、付箋の貼ってあったところに書かれていたのは、正反対の女の子。ブスでいつもひとりぼっち。実は私にそっくりなのだ。

こんな地味な女が主人公のお話しなんて面白いの?と思いながら、書き直し始めた。が、意外や意外。スラスラと筆と言うか、シャープペンが進む。出来上がった作品は、これまでの自分の作品とは趣きが全然違っていたが、何故か凄くしっくりときた。

私はこれを有名な文学賞に出してみることにした。

今日も私はあの図書館に行く。しかし小説を書く為ではない。図書館のホールで開催される、私の講演会に出席する為だ。
あのとき公募に出した小説は大賞を受賞した。その後多くの人に支持されて、私はプロの作家になったのだ。その私に図書館から講演依頼が来たのだった。

おはようございます。今日はよろしくお願いします。

館長さんが控室に入って来たので、私は慌てて立ち上がり

こちらこそ、よろしくお願いします!

と、深々とお辞儀をし、顔を上げたとき、
彼のネクタイピンが目に留まった。

それは、あのノートを挟んでいた猫のブッククリップだったのだ。

クリップを見て、驚いた顔をしてる私を見て、館長さんはにっこりと微笑んだ。

(了)




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