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キングオブキングス

ショートショートのチャンピオンを決める
リングに今日も立つ私。私は800回
防衛に成功している不動のチャンピオン、
深川岳志。
数多くの猛者達が私に挑み、そして散って行った。しかし中には手強いヤツもいた。だがなんとか戦い抜いて、私はチャンピオンの座を死守してきのだ。もちろん私一人の力だけではない、ここまでやってこれたのは、妻の内助の功もあったからだ。日々、彼女の出すお題をテーマにショートショートを書く、正にショートショートの千本ノック。箸置きや消せるボールペン、刺繍など、狭いお題のオンパレードの中、必死で作品を仕上げるも、彼女の厳しい目でボツになる作品は多い。
そして本日は、801戦目のタイトルマッチ。しかも今夜は初の異種格闘技戦だ。相手は神尾ケイコ。最近メキメキと腕を上げて来た彼女の朗読は、聞く人を魅了してやまないらしい。
持ち前の美声と堂々とした態度。手強い相手だ。リングのコーナーからこちらを睨みつけている。
あ!あの顔は!必殺技が出る前に必ずするタコの口だ!まだゴングもなってないのに、必殺技を出すつもりだ!

どっどど、どどーど、どどーど、どどう

うわ!いきなりの先制攻撃だ!しかも凄いダメージ。もしかしたら、今日は負けてしまうかも。

青いくるみも吹き飛ばせ、酸っぱいカリンも吹き飛ばせ!

いつにも増して凄い迫力。私の801話目のショートショート「ドリンクバー」の冒頭がなかなか読み出せない。するとまた

どっどど、どどーど、どどーど、どどう

と、攻撃の声が。しかも今度は、セコンドの
和光市図書館のみなさんも、リングの外からケイコさんに唱和している。
もうダメだ‥ 。私は彼らの怒涛のような攻撃を受けながら、今までの戦いの数々が、頭の中で、走馬灯のように走り抜けていった。

頑張ってください!

朦朧とした意識の中、ハキハキとした爽やかな声が聞こえた。
ちえこさんだ!

深川さんのショートショート、素晴らしいです!

振り向くと、リングの真下、応援席の一番前で声援を送ってくれている。
よし!私は気合いをいれなおし、ショートショートを読み始めた。
もう周りの様子は目に入らない。私は無心に
ショートショートを読んでいく。
 
おしまいです。

ショートショートを読み終えた。そのとき

きゃー!

ケイコさんが、リングの外に吹き飛んだ!

勝ったんだ‥そう思った瞬間

わー!

という、観客の声援と共に、会場に割れんばかりの拍手の音が響いた。
  
深川さん。

いつの間に戻ってきたのだろうか?リングの下からケイコさんの声が聞こえた。

素晴らしいショートショート。今回は完全に
私の負け。でもねみてらっしゃい。次こそは
必ず、必ず勝つから。

そう言い終えると、がくりと肩を落とし、和光市図書館の皆さんと一緒に、トボトボと退場口へと消えていった。

厳しい戦いだったが、801戦目もなんとか
勝利した。しかし休んでる暇はない。次々とこのリング上がってくる挑戦者を、私は迎え打たなければならないのだから。







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