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エブエブエブエブ

『Everything Everywhere All At Once』を観た。
U-nextで配信が始まってるから、もう何を言ってもいいと思うので、備忘録的に良さを残しておく。未来の自分に。

壮大な構想と世界観なのに、伝わるメッセージの一つ一つはとてもシンプルという、ある意味で王道の映画。

どこにでもいる普通のお母さんのエブリンが、確定申告と父親の誕生日パーティーでてんやわんやしている中、危機にさらされた並行世界の全てを救わなければならない大役を押し付けられて、カンフーとかスーパーコックの腕前を駆使する話。岩にもなる。
意味がわからない?だって、そうとしか言えないもん。

そんな壮大なストーリーだけれど、込められているのはさっきも行ったように単純な要素。
「家族という繋がりの加害性と特別性」
「ニヒリズム」
「友情」
「マイノリティ」
「あの時自分がした選択は、正しかったのか」
レイヤーが揃っていない点については、置いておきましょう。

母親のエブリンは娘のジョイに彼女がいることを認めようとはしているけれど、それを外に出すことに抵抗があり、だから、父親と娘の恋人が出会った時も「この子は、ジョイのいい友達」と紹介してしまう。そしてジョイには「だって、お父さんはそういうことに慣れていないから」と責任転嫁。慣れていないのはあなたでしょうに。

これが、母と娘の関係でなければ、このやり取りはそれほど大きな意味を持たなかっただろう。でも、家族だった。中性ではなくてイオニックだった。認めたくないけれど。そこには、逃れられない繋がりがどうやらあるらしくって。

私は、昔、よく母親に「あなたはADHDだから」と言われていた。
・私が学校に忘れ物をしてしまった日。
・家の当番の風呂洗いをサボった日。
・そういった悪いことをしたときだけじゃなくて、読書に夢中になっている時にも。
私の母親は特別支援の担当をしていたから、何でもかんでも障害で済ませようとしている節があった。私という人間の行動を、属性という補助線を付与することで理解しようとしていたのかもしれない。
いつか、支援学級で使われる絵札みたいなものを持ち出してきて、私に対してテストをした時にはそれらしい数値は出なかったのだけれど、「測れないタイプのADHDなんだね」と納得していたことを覚えている。
結論を先どりにしてるなあ、と子供心ながら思った。 (これは悪いことばかりではなく、父親に私が叱られている時には「この子はそういうことができないんだから」と謎の擁護をしてくれたこともある。説教が心なしか短くなったのでラッキーだった。)

客観的には、気にしなければいい、というのが最適解になるだろう。私の心の持ちようだと。 でも、今でもこうやって書いてしまうくらいには、どうやら脳裏に刻まれている。そのくらいには加害性のある行動であり、そしてそれこそが家族という繋がりの特異性にあるのかもしれない。
だから、エブリンがジョイを世間体フィルターを通して捉える姿がとても辛く、ジョイに「気にしなければいい」なんて言えないし、彼女の流す涙に絶望が横たわっているようだった。そうだよな。そうだよな。 親に認められることさえできない状態で、その最低限の要件さえ満たされない状態で、私はどうやって幸せになったらいいの。そんな絶望が。

だから、ラストシーンでエブリンが闇落ちしてしまった際に夫に訴えられた「Be kind..」という究極にシンプルなメッセージに泣いてしまう。
優しくなろうよ。それは、他者に対してふんわりと接するということじゃなくて、相手を理解しようと努めることなんだと思う。もう、すごくすごくクリシェな言い方だけれど、自分の価値観からはどれだけはずれていようとも、真正面から向き合うということ。一個人に対して、相手を理解しようと努めること。それこそが生きている中で一番大切な時間なんだって。

一瞬前に、私は、母親を悪者扱いしてここに書いた。でも、その行動だって全然真摯ではないのだろうな。今書いていて気がついた。ついでに、少し前に友人に、「私の人生をコンテンツとして楽しんでいるから、全然正面から向き合ってくれない気がする。」と言われたことも思い出した。何も解っってなかったじゃん、自分。
私は、家族を(もしかしたら他者という相手全般を)、適当に、都合のいいようにラベリングしてしまっていたのかもしれない。そうでなくとも、少なくとも理解しようとなんて、少しも努めていなかったことは分かっている。
ああ、私だって。全然、Kindじゃない。
ちょっとは変わらなきゃいけないな。今なら、まだ。



追記:
pixelのCM、エブエブの岩になって対話するシーンのオマージュだと思うんだよなあ。



追記 2:
もしかしたら、もう遅いかもしれないけれど
でも、まだ間に合うかもしれないから、来週実家の近くに寄る時には、扉の前に名古屋土産をぶら下げておくことにする。
まずはそこから。


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