見出し画像

「2008年アメリカ大統領選挙」の巻

 読み返してみると、時がたつのは速いなと思われる。オバマが当選したときの大統領選の話なのだが、予備選段階での報道には臨場感があるので、余り修正せずにそのまま掲載したいと思う。そして、この記事は、2020年の大統領選について、示唆的な内容を含んでいる。

■祖国の大統領選に見る台湾系米国人の愛国心
 台湾の大統領(支那語では総統)選挙について、知り合いの台湾人に取材をするつもりでいたところ、みんな大統領選挙で謝長廷を応援するために、台湾に飛んでいた。彼らは白色テロの時代を知っている年配で、みんなそれぞれの理由でかなり以前にアメリカにやってきた。皆米国籍で、当然台湾での選挙権はない。にもかかわらず、台湾独立への筋道を消さないよう、「逆コース」を阻止する為にと、祖国に馳せ参じたのだ。勿論、日本と台湾とでは、その危機感には雲泥の差があろうが、何という愛国心。心もアメリカ人化している日系人に、そんなことを求めるのは無理な話だが。
 台湾の選挙結果は残念の一言に尽きるが、一寸台湾人を羨ましく思った。

■まだ始まってもいないのに延長戦?
 さてアメリカの大統領選挙についてご報告しておこう。
 アメリカ人と話をする時のタブーが3つある。それは、年齢、宗教、そして政治である。後者の2つは絶対に議論してはいけない。下手をすると友情にヒビが入りかねない。そして台湾人同様、アメリカ人にとって政治とは、個人レベルで重要なものなのだ。例えばこちらでは、小学校高学年にもなれば、連邦政府の政策に対して何がしかの意見を持っているのは普通のことだ。
 私は永住権を持っていただけだから選挙権はない。しかしそれでも連日ニュースで激戦が報じられているので、否応なしに興味はわいてくる。前回のような「スター不在」ではなく、民主党にバラック(日本語のバラクという表現はおかしい)・オバマ、ヒラリー・クリントンという「華やかな」存在があり、うっかりしていると、この2人の予備選での争いが、本選であるかのような錯覚を覚えることもしばしばだ。
 ところが最近、民主党候補がオバマでもクリントンでも、共和党候補のジョージ・マケインが勝つのではないかとの観測が出始めた。以前は、拒絶反応が強いクリントン勝利の場合だけだったのだが、オバマでも民主党は勝てないのではないか、ということなのだ。
 それは、長すぎる予備選の副作用だと思われる。もちろん、50州はそれぞれ独立した存在なので、それぞれのやり方があり、長期戦は仕方がないのかも知れない。だが長すぎる。読者にはもう、同時多発テロのときに陣頭指揮を執ったルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長が、共和党から立候補していたことなど、記憶の彼方にあることだろう。

■今のゴアなら勝てる?
 共和党候補がどんぐりの背比べで、決め手にかけると思われていたが、蓋を開ければ、史上最年長の大統領候補であるマケインが独走し、本選に向けて既に動き出している。一方民主党は、クリントンが大逆転を期して粘っている。時間がかかればかかるほど、足の引っ張り合いが目立つようになり、本選に悪影響を与えそうだ。それが「どちらが出てもマケイン勝利」という観測に繋がっている。いっそのこと、環境問題への取り組み(内容の不正確さが批判されてはいるが)でにわかに再評価されているアル・ゴア元副大統領を候補にして、どちらかが副大統領候補になれば勝てるんじゃないか、というジョークさえ飛び出している。

■ヒラリーの悪あがき
 ヒラリー陣営のオバマへの攻撃は同じ党内の候補に対するものとは思えないと民主党支持者からも批判されている。オバマのミドルネームが「フセイン」であることは周知の通りだが、クリントンは、意図的だと批判されるまでは、オバマを名指しするときに必ずミドルネームを入れて呼んだ。その成果は、民主党支持者でオバマに反対する人の1割が、「オバマはイスラム教徒だ」ということを理由に挙げていることでも明らかだ。
 本当は、オバマは敬虔なクリスチャンだということなのだが、彼と親しいジェレマイア・ライト牧師が、アンタイ・セマイ(反ユダヤ主義)的な発言をしていたことがわかると、今度は、オバマがその影響を受けているのではないかと、クリントン側からしつこく追及された。
 ところが、日本では報じられなかったようだが、クリントンと親しくしているダグラス・コー牧師が、レーニン、ヒトラーや毛沢東を間接的に礼賛していたということが、最近になってCNNで報じられた。この牧師の教会が実は一種のカルト教団で、裏で共和党と繋がっているらしく、クリントンがオバマを宗教でこれ以上攻めれば、薮蛇になりそうな気配だ。
 ボスニアで狙撃されたというクリントンの話は、記憶違いというよりも、どう考えても「作り話」だし、指摘に対する彼女の「間違えたのよ。わたしだって人間なのよ!」という、開き直ったような発言が、更なる批判を招いた。そろそろ民主党内でも、クリントンの往生際の悪さには批判が出始めている。

■オバマは「チャンス」?
 クリントンは「豊かな経験」を売りにしているが、そもそも大統領夫人は職ではないし、実績といっても地元アーカンソーとは縁もゆかりもないニューヨークで上院議員を2期務めただけで、その点では素人だと言われるオバマと大差はない。公約の目玉は保険制度の改革だが、財源については明らかではない。自らの財布の中身についてさえ、オバマに迫られてもすぐには公表できない状態で、中共との黒いコネクションも共和党から絶えず批判にさらされている。
 それではオバマはどうか。少なくとも資金面ではクリーンだと見えるし、若いし、演説もうまい。カリスマ性もある。しかし、保守系の論客は、そのカリスマ性に疑問を呈する。曰く、彼は映画『チャンス』の主人公ようだと。 
 「ピンク・パンサー」シリーズで有名なピーター・セラーズ演じるチャンスは、知的障害があると思われる庭師。主人が死んだ後、管財人から屋敷の外に放り出されるが、貴婦人との出会いをきっかけに、純粋・無垢な性格が人々に感銘を与える。そして偶然や勘違いが度重なり、ついには大統領候補になるというストーリーだ。夢を語るオバマには魅力を感じる人は多いが、そこまでだと言う評価もある。
 女性か、黒人か、はたまた最年長か。大統領選の本選は、まだ先だ。 

『歴史と教育』2008年4月号掲載の「咲都からのサイト」に加筆修正した。

【カバー写真】
 ネヴァダ州ラスベガスで見た交差点に乱立する地方選挙候補者のポスター、というか、看板。カリフォルニア州では名前だけを書いたものが主流だったと思うのだが、ここでは日本のように顔写真入りも多く見かけた。(撮影:筆者)

【追記】
 ドナルド・トランプ大統領を追い落すために手を組んだオバマとヒラリーは、スターリンとヒトラー(実際、アメリカの保守派はヒラリーを「ヒットラリー」と呼んでいる)の握手のようだが、2008年にはお互いに足を引っ張りあっていた。しかしそれも、今回の不正選挙を見ていると、茶番だったのかも知れないと思えてくる。そして、映画『チャンス』の主人公になぞらえられたオバマ(実際に無能であったことは間違いないが)よりも、新大統領となったジョー・バイデンが、その役にはぴったりの感じがする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?